「自分の感覚を信じ、スベることを怖がらない」友近の芸人としての強さとは? 初のエッセイ本『ちょっとここらで忘れないうちに』インタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2024/2/9

友近さん

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「水谷千重子」「西尾一男」などのキャラ芸も人気の友近さんが、このほど初のエッセイ『ちょっとここらで忘れないうちに』(徳間書店)を出版。友近さん「らしさ」が詰まった一冊について、お話を伺った。

日頃から考えてることをぽんぽんぽんっと出していった

――「本」を出すのは、日頃の舞台やテレビなどとは違いますか?

友近さん(以下友近):「ちょっとコソっとやりたいな」っていう感じですね。正直、自分が書いたものを人に読んでもらうのは恥ずかしいというか、あんまり積極的ではなかったんです。でも、子どもの頃から気になってたこととか、くだらないこととか、そういうことがこうやって本になるならば、ファンのみなさんには喜んでもらえるかな、と。ただ、書いてるときと、今の気持ちがまた変わってたりするので、「これがすべてと思わないでね!」という気持ちもあります(笑)。

――「本を出しませんか?」と始まったのでしょうか。

友近:そうですね。正直「私みたいなもんが…」っていうのもあって。でも本にも「そういう言い方する人はあんまり好きじゃない」って書いてますから思わないようにしますが(笑)別に難しく考えんでええかと。必要とされているのであれば「わかりました!」って受けるのが一番ですから。

――この本はそんな友近さんのエッセンスがいろんな角度でピックアップされていますね。

友近:日頃からくだらなかったり、しょうもなかったりすることを言うのが好きだったり、連想ゲームみたいなことが好きだったりするので、そういう日頃から考えてることをぽんぽんぽんっと出していった感じですね。長く書いた項目もありますが、ぶっちゃけ、ほんとは全部1行2行でもよかった(笑)。

――文章にすることで、発見はありましたか?

友近:確かに書くことで発見することとか、思ってないけどペンが進むとかはありましたね。たとえば「水谷千重子」のことは、先にファンの方が「千重子は存在する」って世界観を作ってくれましたから「友近」と別人にしたり、ちょっとしたニュアンスで変わるんですよ。なので、この辺りの書き方については、もうすこしベストなやり方があるのかもしれないな、と思ったり。

――キャラ芸をされる友近さんならではの視点ですね。ちなみにどうやってご自身からキャラへとスイッチを入れるのでしょうか?

友近:たとえば「西尾一男」になると、自然に彼の言いそうなことや言いたいことが出てきます。行った先のご当地ネタは別として、あんまり「これを言おう」と思って舞台に立ってないんですよね。以前、中井貴一さんが舞台を見に来てくださったときに「西尾一男は品がある。キャラで押し通そうとしてない」って言ってくださったんですが。実は自分自身もそこを大事にしています。いつも「相談コーナー」とかをやるんですが、そこに寄せられる相談には西尾なり水谷なりのキャラで親身に答えます。ただ、それが友近でもたぶん同じ答えなんですよ。あえてキャラで答えを変えようとかいうのはなくて、同じことを言っているのに声と言い方が変わってるだけかもしれない。

――出てくる源泉は一緒ですもんね。言語が違うという感覚でしょうか。では、たとえばこの本が水谷千重子名義で書かれたら同じになると思いますか?

友近:どうだろう、そこがほんとに難しいんですよ。たとえば雑誌で「水谷千重子さんにインタビュー」となると、キャラ的にはあえて「面白くないことを面白い」と思ってたりもする人なので、お笑いに特化した雑誌ならそのままいけるんですけど、そうじゃない一般誌になると通じないところも出てきてしまう。水谷千重子の座長公演なんかは「あえてズレたこと言う」っていうのをみんな面白がってくれていますが、それを活字にするとほんとに面白ない人!! ってなるので。それで「バカ言ってる」って書いたりして、なんとか成立させてるんですね。「ズレたことを言ってるのは、自分でもわかってるんですよ」っていうことを説明しなくちゃいけない。難しいところですね。

――確かに。TPOがあるわけですね。

友近:実は明治座公演のときが一番難しいんです。お笑いのファンだけでなく昔からの明治座のお客さんも来てますから。お笑いファン向けなら、ズレたことを全力でやれば面白さが通じるんですけど、そうじゃない場合は「え? なんでこんなわけのわからないすこしズレたことばっかりやってお金とるの?」って思われるかもしれない(笑)。でも、歌をしっかり歌うと、歌は共通で喜んでくださる。だからそこは絶対に下手にならないように練習して、ちゃんと歌おうとしてますね。

自分の「面白いものの種類」をわかってくれる人にもっと伝えたい

友近さん

――本には友近さんのライフヒストリーがいろいろと入っていて、お手伝いをしながらお姉さんと漫才をするというエピソードも面白かったです。友近さんの「土台」には家族の影響は大きいでしょうか?

友近:そうですね。さっきもメイクさんに動画を見てもらったんですけど、今年の年末年始に95歳のおばあちゃんをつれて、母と姉と姪と女ばっかりでハワイ行ったんですね。私は曲が流れたら思わず踊ってしまう癖があるんですけど、実は家族全員そうやったんですね。久々にみんな揃ったんでなんか曲流したら全員踊ってて、しかもおかんの踊りがダサすぎて。それを動画で撮ったら横でおばあちゃんも踊ってて、「全員そうなんや、この家」って(笑)。やっぱりそういう血はあるのかもしれません。

――素晴らしいご家族(笑)。そんな中で「より面白いのを出そう」という精神が養われたのでしょうか。

友近:自分自身もやってて「面白い」って気持ちになるのも楽しかったし、それを見て共感してくれる人がいたら幸せやし、という。共感してくれる人を探していたっていうのは、すごくあるかもしれません。

――高校の卒アルの写真で「無罪」って掲げたエピソードに爆笑しました。この人がクラスにいたらどんなに面白かったろうって。

友近:あはは(笑)。前の晩に半紙に「無罪」って書いて仕込んで、誰にも言いませんでした。いざ卒業アルバムになったときに、「友近、何やってんの」って言われたらおもろいな、って。てかやりたかっただけなんですけどね。

――日頃からそういう感じで笑いを仕掛けていたんですか?

友近:お笑いが好きでしたし、高校のときはそういう感じではあったと思います。ただ、リーダーでひょうきんでクラスの人気者でーとかいうよりは、「この笑い、わかってくれる人の前でやりたいな」っていう、そっちのほうでしたね。小学校のときからたぶんそうやった感じです。伝わるとうれしいし、ぐっと友達になりたいし。今も一緒にコントやる芸人仲間も価値観いっしょやなと思うと、後輩も先輩も関係なく私から声かけています。

――「わかってくれる人を探す」というのは、裏を返せば「自分の面白さの感覚を信じられる強さがある」っていうことなのかと。それを突きつめられるのも「才能」だと思います。

友近:「ほんとにおもろいんかな?」って、みんなそこで自信なくなるからお客さんの前で披露できないとかあると思うんですけど。私の場合は、ほんとにバッファロー吾郎さんとの出会いが大きかったし、その前から姉と小さい頃からそういうことやってたり、笑いのレベルの高い周りの友達も笑ってくれてたりっていうのが知らないうちに自信になってたのかもしれないです。

スベってももちろん自分のせい

友近さん

――「自分の面白さ」を信じる強さは、どんなところから生まれたと思いますか?

友近:バッファロー吾郎さんがお客さんが笑わない中で笑ってくれたことで、「こんなにお笑い偏差値の高い芸人さんが笑ってくれてるって、自分がやっぱり面白いと思うことを自信もってやっていこ」って思えたことが一つ。あとは「スベることを怖がらない」っていうことですね。怖がっちゃうとできないんですよ。ダメだったときは「ここの人とはお笑いの感覚が合わなかったのだわ」って切り替える。すぐ人に相談するのもぶれる感じがして、私は「自分が面白いと思ったことやろっ!」って、ネタつくっても誰にも相談しないです。あ、姉だけには相談してますけど(笑)。

――自分で考えて自分でやる。つまり責任も自分にあるってことですね。

友近:スベってももちろん自分のせいやし。楽ですね。全部自分で背負うっていうのは。前に水谷千重子でR-1グランプリに出たとき、「なんでそれ持ってったの」って言われたんですけど、「自分が面白いと思ったことで優勝できたら一番うれしいからです」って言いました。

――強い。ただ邪魔も入ったりするじゃないですか。そことはどう戦います?

友近:そう言わせないように「結果」を出すしかないな、と。おかげさまで賛同してくださる方が増えてきて、明治座公演とかやらせてもらえるようになりましたし。あんな立派な劇場で座長公演やらせてもらえるなんて、これはちょっと自分でも水谷千重子にとってのゴールだと思ってます。

――そうやって「やりたいことがちゃんとつながる」のもすごいですよね。憧れの人との共演もそうですし。

友近:やっぱり「直接思いを伝える」っていうのが一番早く思いが伝わるんだと思います。もちろんマネージャーに先に窓口になってもらうんですけど、気持ちはやっぱり通じるものですから、自分でも早めにお話しするようにしますね。お手紙を差し上げるときも、「友近」と「水谷」それぞれの名義で直筆で出して「おふざけだけではない」ことを伝えようとしたり。まだまだ「水谷千重子はおふざけ」って思ってる方も多いですから、その意味ではやっぱり結果を出すしかないな、と。

――ちなみに、凹むときはどうしてますか?

友近:ずっと気になるし、一瞬楽しいことがあってもまた思い出してあーってなりますし…それはもう毎月ありますね(笑)。ただ、いつまでもそうやってても前に進めないんで、いろいろ自分で自分に言い聞かせて立て直すっていう感じです。伝わらないこととか、変なニュアンスで誤解されたりとか、ほんとにどう動いたらいいかなあと思いますけど、「動いたところでなぁ…」ってなって、結局何もしない、反論しないってなることも多いですね。で、ほんとに楽しい仕事をたくさんいれて、嫌な感じを薄めたりしたりもします。よくネットとか記事とかを見て凹む人いますけど、私はそういうのはまったく見ないですね。そんなので変なエネルギー使ってもしんどいやろって。

――お笑いは男社会に見えますが、自分を通す上でハードさなんかはありませんか?

友近:それって、人にいろいろ質問されて「あ、そんな風に思われるんや」と思って驚いたんです。確かに男性のほうが多いし面白い人も女の人より多いと思いますけど、だからってお笑いは男のもんやとも思わないし、女のほうがおもろいとかも思わない。やっぱり人によってかな。「この人面白い。たまたま男やった、女やった」みたいな。お笑いの世界って最初は純粋にお笑いが好きで入ってくる人がほとんどですけど、だんだん家族のためにお金儲けが上に立つとか、人によって変わってくる。それも全然いいんですけど、やっぱり私は純粋に「おもろいことしたいな」って思ってて。その意味ではロバート秋山さんは、つねに面白くて刺激うけますね。

――面白いことをやってると、やっぱり楽しい?

友近:楽しいですし、ほんとに自分自身にパワーが出てくるというか。まだまだできるな、と。歳とってくると「あれ? 若いときとセンスずれてんちゃうかな」ってなったりしますけど、絶対そうはなりたくないと思います。たまにお年を召した方から「あと10年くらいがんばれそうやわ」って言われたりすると、エンタメってすごい力なんやって。そういうのを年々感じてますね。

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

友近:そうですねぇ、「日頃こんなこと思ってますよ」とか、こんな風にみなさんも書き出してみたら面白いかもしれませんよ、とか。ペンコス(ペンをタバコ、アイコスにみたてる)もそうですけど、私は家で誰に披露するわけでもないしょうもない遊びみたいなのが好きで、みなさんもそういうのを書き出してみると面白いかもしれません。

――意外と自分が面白い人間だって思えるかもしれませんよね。

友近:かもしれないですよね。本を読んで共感してもらえたり、「私もやってたわ」とか思ってくれてもうれしいし、興味持ってもらえたらうれしいですね。

友近さん

取材・文=荒井理恵 撮影=水津惣一郎