有名税を払う/絶望ライン工 独身獄中記⑫
公開日:2024/2/21
旧稿で述べた通り、私は過去最高額の所得税を納めることになるわけだが、これは喜ばしく、大変誇らしいことであると感じる。
今まで人に自慢できることと言えば、4年制大学を卒業したことくらいだったが、今後は「税金めっちゃ払ったマン」としてここ1年は自慢させてください。
あと余談だが私は柴犬と暮らしている。これも自慢させてほしい。いいだろハァン。
税金は前年度の収入に応じて増減するため、今年は高いが来年以降はわからぬ。
今がピークと考えれば、今後どんどん下がっていくであろう。それはそれでよいと感じる。
いやむしろ上がっていくかも。それもいいか。次の年も自慢できるな。
しかしここ最近、税理士の先生に相談しても解決しない申告な、いや深刻な税制があると聞く。
それはどうやら「有名税」といふやつだ──
私には生き恥を晒す地獄みてえな趣味があり、見世物小屋にも似た時代錯誤の映像をインターネット・サーヴィスを通じて全世界に放流している。
何故このような悪趣味が受けるか図りかねるが、ありがたいことに観測者は現在40万人を超え、週1回の生き恥映像放流を楽しみに待ってくれているとか。
(ありがたいわね、ルパン。)
この観測者は俗にチャンネル登録者、などと呼ぶらしいが、このチャンネル登録者が増えれば増えるほど日常生活はスリリングになっていく。
登録者50万人からはもう普通の生活は送れなくなる、という俗説もあるほどだ。
では現在の自分はどうかというと、以前とまったく変わらず普通の生活を続けています。
電車で職場に通勤するし、独りでふらふら飲みに行くし、婚活パーティーにも行きます。
職場で一番ネットに疎そうな職人のとっつぁんに「キミの例のやつ、見てるよ」と言われた時はひっくり返るほど驚いたが、それ以外の人にはバレていないようである。
いや、知らないフリをしてくれている可能性もあるか。
つまり現在、私は有名税を納めている実感はない。
有名税非課税世帯ということになる。つまり、ただの一般人です。
何が有名税やねん。契約社員のオッサンが芸能人気取りか。調子に乗るなや。
そんな声が聞えてくるが、もちろんまったく払わないというわけにはいかぬ。
ごく稀だが、私もたまに声をかけられることがある。
元々知らない人に声をかけられるのが苦手な性分のため、どうしても身構えてしまうが、これはもうしょうがない。
殊に自分の生活圏内、スーパーの帰りや柴犬の散歩中にそれをされると、嬉しいより逆の感情が勝ってしまうことも、ここに正直に表明します。
そんな時にふと浮かぶ「日常生活の一部を失う覚悟が自分にあるのか」という疑問。
飲んだ帰りに酔っぱらって駅に転がって寝たり、スーパーの弁当コーナーで半額シールが貼られるまで30分粘ったり、書店でスケベな本を買ったりといった愛しい日常。
人の目を気にして、それらが出来なくなってしまうのが実に惜しい。
風呂に入るだけで「銭湯にいた」とネットに書かれる世の中である。
コンビニでスケベな本を求めていた、などと書かれたら私の高潔かつ禁欲的ブランド・イメイジは一瞬で瓦解するであろう。
そうなれば待っているのは圧倒的観測者の減少である。
動画は見られず、下火となるがコメント欄は「スケベ野郎」で埋め尽くされる。
SNSを見る人も減り、曲を出しても誰も聴かず、この連載も打ち切りとなるだろう。
「有名税」などと調子に乗って驕る者の末路をしかと見よ、盛者必衰の理ここにあり。
そして絶望の淵に立たされた私は、恐ろしい結末を知ることになる。
たぶん次年度の所得税が減りますね
<第13回に続く>41歳独身男性。工場勤務をしながら日々の有様を配信する。柴犬と暮らす。