「認知症予防の運動で長寿になりそうで怖い…」という人に。いつか訪れる「老い」を楽しむためのヒントが詰まった『うまく老いる 楽しげに90歳の壁を乗り越えるコツ』

文芸・カルチャー

PR 更新日:2024/5/31

うまく老いる 楽しげに90歳の壁を乗り越えるコツ
うまく老いる 楽しげに90歳の壁を乗り越えるコツ』(講談社)

 時間だけは平等で、誰もがいずれは「老いる」。1960年6月生まれで63歳(2024年1月現在)の精神科医・和田秀樹さん、1932年5月生まれで91歳(同)の樋口恵子さんによる共著書『うまく老いる 楽しげに90歳の壁を乗り越えるコツ』(講談社)は、やがて訪れる「老い」と向き合い、いかに生きるかを説く書籍だ。

 内容は「高齢者専門の精神科医」として活躍する和田さん、今まさに「老い」を体感している樋口さんによる対談形式で展開。「老いの達人」同士による議論は、目の前の人生を満喫するヒントにもなる。

お金がなく病気にならないための努力が「長生き」の怖さに

 本稿の筆者は40代で、本書を執筆したお二人はいわば“人生の大先輩”だ。男の本厄となり“この先どうするべきか…”と自問自答する中で、本書と出会ったのは偶然とは思えなかった。

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 対談では、91歳の樋口さんがふと「この年になって感じますのは、みんな年をとることを恐れすぎているんじゃないか」とつぶやく。

 これは、樋口さんが新聞で担当する悩み相談コーナーに寄せられた、60代女性からの質問が発端だった。女性は「年金と少ない貯金」で暮らしていて「施設へ入る余裕」もない。「認知症」にならないようにと「運動」や「食事」に気を使っているが、そのおかげでかえって「長生きにつながりそうで怖い」と、吐露していたそうだ。

 皮肉にも、健康を手に入れて長生きしてしまうかもしれない…。不健康になれとはすすめられないが、こうした不安を抱えているのは、現役世代の自分たちでも容易に想像はつく。

老化の原因は日常生活での様々な行動への「意欲の低下」

 話題は「健康寿命」「介護」などへと派生。その後、専門家として和田さんが言う「70代」「80代」それぞれにおける、人生の「シフトチェンジ」の仕方には、説得力があった。

 70代は、衰えつつある身体機能の低下を防ぐ「老いとたたかう時期」で、80代は周囲の支えも受けながら「老いを受け入れる時期」に。そうした和田さんの言葉を受けて、90代の樋口さんが90歳当時、玄関先で前ぶれなく「フワーッと倒れた」経験を思い出していたのは、まさしく「老い」とは何かを考えさせる一節だった。

 さらに、和田さんは老化が進む原因は、日常生活における様々な行動への「意欲の低下」だと解説する。実際、90代の樋口さんは「億劫なものは億劫なんです」とつぶやくが、自身の周囲でも「年とって、楽しいことなんて何もない」とボヤく同世代がいるというのも切実だ。

 和田さんは専門家として、高齢者で「いきいきしている人」は「好きなことをやって生きていて、気がついたら90歳を過ぎていたという人の方が多い」と実感する。長寿化もうたわれる時代では、月並みであるがやはり生きがいを見つけるのも、より重要になりそうだ。

 本書のむすびで、樋口さんは「高齢者だからこそ見られる夢があるはず」ともメッセージを伝える。「老い」の不安に寄り添う内容は、当事者世代だけではなく、現役世代の心をもつかむ。

文=カネコシュウヘイ

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