「パンどろぼう」が大賞に!ヨシタケシンスケ作品や韓国作品もランクインした、第16回「MOE絵本屋さん大賞」〈イベントレポート〉
公開日:2024/2/8
時には心を癒し、時には勇気づけて、大人と子どもを夢中にさせてくれる絵本の数々。1月24日、「第16回MOE絵本屋さん大賞 2023」の贈賞式が東京都内で行われました。この大賞は、全国3000店舗以上の書店にご協力いただき、最も支持された新刊絵本30冊を決定するもの。プロの書店員たちは、どんな絵本を選んだのでしょうか。受賞した絵本作家の喜びの声とともにご紹介します。
最初に、この大賞を主催する白泉社より、菅原弘文代表取締役社長から祝辞がありました。
〈白泉社 菅原弘文代表取締役社長の祝辞〉
「能登半島地震で被災された方々、油断できない状況は続いておりますが、皆さんが1日でも早く健やかな日々を過ごせることを祈っております。時には絵本で心のコリをほぐしていただくのも良いと思います。受賞された皆様、心よりお祝い申し上げます」
続いて、受賞作家にクリスタル楯が贈呈されます。作家陣からは、受賞した喜びの声に加えて、制作にかけた想いや読者から届いた声、これからの展望などが寄せられました。
第1位『パンどろぼうとほっかほっカー』(柴田ケイコ/KADOKAWA)
『パンどろぼう』シリーズ第5弾には、子どもが大好きな車が登場。キッチンカーのほっかほっカーが、遠い山の向こうに住むお客さんにほっかほかのパンを届けるお話。「車の細部の描き込みが楽しい」と話題で、お約束の“変顔”ページにも癒される一冊。
「無機質なものを描くのが苦手で、車を描いたのは初めての挑戦。シリーズをマンネリ化しないように考えるのが難しくて、毎回パンどろぼうと一緒に自分も成長しています。この賞もパンどろぼうが獲ったと思えるくらい。自分が生み出したものですが、キャラクターの強さの大切さを実感しています。私ができることは、絵本で人生のユーモアやワクワクを届けること。その大切さを、ちょっとしんどい時にも感じてもらえたら」(柴田ケイコ)
第2位『メメンとモリ』(ヨシタケシンスケ/KADOKAWA)
冷静な姉のメメンと、情熱家である弟のモリ。メメン&モリ姉弟の3つのお話が綴られた本書は、フッと肩の力が抜け、クスッと笑える、著者初の長編絵本。大事なものがなくなったらどうすればいいのか。人は何のために生きているのか。子どもはもちろん、大人が生きていく上でのヒントが見つかるはず。
「この4~5年、僕の中にあった自分への問いのようなものを、将来の自分のためにも書き残しました。“ダジャレじゃないか!”っていう話ですけど、思いついたものを我慢できなくて人に言いたくなる…そういう年齢になったんだなと。書店員さんと作り手をつなげる機会を作り、絵本業界を活性化していくMOE絵本屋さん大賞にあらためて感謝します」(ヨシタケシンスケ)
第3位『パンダのおさじと フライパンダ』(柴田ケイコ/ポプラ社)
料理を作るのが楽しくない料理人のクーさんが、あやしいパンダ屋さんで手に入れたのは、呪文を唱えるとパンダ料理が仕上がる不思議な「フライパンダ」。きれいにしておかないと、大変なことになるらしいけど…。『パンどろぼう』シリーズの著者が新たに生み出したキュートなキャラクター“おさじ”が大活躍!?
「制作に悩んでいる時期に、手のひらサイズのパンダがそばで応援してくれたらいいのにな…と思い、おさじというキャラクターが生まれました。ちっちゃいパンダがいっぱい出てくるシーンは料理中に思いついたもの。このような賞をいただき、悩んだことにも意味があったなと今、思っております。春には、おさじくん第2弾が出ます」(柴田ケイコ)
第4位『おすしが ふくを かいにきた』(田中達也/白泉社)
Instagramのフォロワーおよそ380万人、ミニチュア写真家で見立て作家の田中達也さんの2冊目の絵本です。ミニチュアのフィギュア、本物の食材や文房具などで作られた見立ての町で、お寿司たちが買い物を楽しむ、何度も繰り返し読みたくなる一冊です。
「物を擬人化して日常を見てみると、人が座っている様子が筋トレで踏ん張っている人のように見えたりして、想像が膨らみます。そういう発想をお子さんに取り入れたい…という親御さんにはおすすめしたい本です(会場笑)。お寿司だけが主人公じゃないので『もっとお寿司の活躍が見たかったな』という声もいただきまして、2月に第2弾を発売します。次は本当にお寿司が主人公です」(田中達也)
第5位『星をつるよる』(キム・サングン:作、すんみ:翻訳/パイ インターナショナル)
眠れない夜、お月様に「だれかあーそーぼー」と声をかけると、眠れない友だちが次々と集まってきて…。国内外で高く評価されている新進気鋭の絵本作家による最新作。著者曰く、「言葉にしなくても相手のことを理解しようとする大切な気持ち」が描かれた、心温まる一冊。
「この本は私にとって特別です。というのは、この本を持ってプロポーズをして成功したからです。この本には温かな心を持つウサギが登場します。今日はここに、ウサギと一緒に来ています。私のウサギ妻であるシネさんにも感謝します」(キム・サングン/通訳・すんみ)
「初めて読んだ時にすごく豊かな気持ちになりました。作者が込めたメッセージ、翻訳者がなんとか伝えたいと思って翻訳した言葉を、素直に受け取ってくださった素敵な読者の皆さんに感謝いたします」(すんみ)
第6位『ねこ と ことり』(たてのひろし:作、なかの真実:絵/世界文化社)
猫の仕事は、こぶしの枝を束ねること。ある朝、窓に止まったことりから、小枝を分けてもらえないかとお願いされ…。1日1本ずつ、ことりに小枝をあげることになった猫は、終盤、あることに気づく。繊細な絵で美しく描き出される、日々の営み、共生、命の循環の物語。
「猫は人、また私(たてのひろし)自身。小鳥には自然界を重ねています。天然資源を湯水のように搾取し続ける私たちは、それに対して無自覚で、他人事。今それに気づいても手遅れかと思われるかもしれませんが、まだ希望はあると考えています。この絵本に未来への問いかけを込めました。 3部作を予定していますので、次作もお楽しみに」(担当編集:渡邊侑子/代読)
第7位『ぼくはいったい どこにいるんだ』(ヨシタケシンスケ/ブロンズ新社)
お使いを頼まれたけど、お母さんの描いた地図がさっぱりわからない! わかりやすい地図とは? そもそも地図って何だろう…? 「ぼく」の脳内で、地図をめぐる考察が広がる。描いてみたくなる地図がいっぱい。読後には、進むべき道を見つけるためのヒントがもらえるかも。
「昨年、絵本作家になってから10年が経ちました。我々はどこにいるんだろう、どこに行きたかったんだろうと、一人ひとりが考えざるを得ない10年だった気がします。そういう時に絵を1つの道具にして描いた本です。物事を俯瞰して見ることの便利さ、大事さ、面白さを感じるきっかけになれば、僕自身も助かるだろうと思っています」(ヨシタケシンスケ)
第8位『すしん』(たなかひかる/ポプラ社)
「田中光」名義のお笑い芸人で、ギャグ漫画家としても活躍する著者の最新作。おすしが走り、飛んで、吠える! なんだかよくわからないけれど、読めば読むほどおすしが可愛らしく、読んでいるうちに、おすしの気持ちがわかってくる。
「素晴らしい賞をいただきました。ちょうど8位が欲しかったのでうれしいです(会場笑)。無意味を追求したような絵本なんですが、何かしらの感想を持っていただいた書店員の方々、喜んでくださった方々に感謝しかありません。引き続き、無意味なものを作っていきます」(たなかひかる)
第9位『いちじくのはなし』(しおたにまみこ/ブロンズ新社)
『たまごのはなし』で第14回MOE絵本屋さん大賞第2位を獲得した著者が、新作で再び入賞。今はキッチンの果物かごに収まっているいちじくが、かつては英雄だったと話し始め…。うそくさいけど愛嬌たっぷりの“ほらふき”いちじくが大活躍。
「選んでいただきありがとうございます。初めてのシリーズでしたので、今までとは違った不安があったんですけれども、書店員の皆さんに選んでいただけてとても嬉しかったです。選んでいただいたことが制作の糧になります」(しおたにまみこ)
第10位『ニンジンジン』(キューライス/白泉社)
ニンジンジンの後ろからこっそり狙うウサギたち。大好物のニンジンジンめがけて飛びついたと思ったら、おかしみと怖さの絶妙なブレンドが読むほどに効いてきます。七五調のリズミカルな文なので、ぜひ声に出して読んでください。
「ニンジン嫌いの息子が、ニンジン大好きになりました…というような手紙が届かないかなと思っているんですけど、まだ届いていないので、これから届くことを待っています」(キューライス)
ファーストブック賞及び新人賞第1位『やぎさんのさんぽ』(juno/福音館書店)※W受賞
刺繍作家で絵本作家のjuno(ゆの)。2023年2月に初の絵本2冊を同時発売し、そのうちの1冊が本作。1匹の子やぎが散歩に出かけ、とっとこ走り出し、切り株を飛び越え…。刺繍で表現された子やぎの毛並みが美しく、小さな子どもたちに読んであげたい一冊。
「今回このような賞をいただき、読者のみなさんからも温かい声をかけてもらい、今後も絵本を描いていきたいという前向きの気持ちをもらいました。これからも笑顔になってもらえるような作品を描いていきたいです」(juno)
この後、全国の書店から集まったベストレビュアーの表彰があり、読み手であるレビュアーと作り手である作家が握手を交わす場面も。受賞作家からは「この賞に勇気づけられている」という声も多く、この大賞が絵本業界全体を盛り上げていることを改めて実感する贈賞式となりました。
取材・文・写真=吉田あき