中丸雄一「KAT-TUNメンバーが僕のマンガを買ったのはSNSで知った」。メンバーからの反響や作品の裏側を語った『山田君のざわめく時間』発売記念会見をレポート!
更新日:2024/2/9
2024年1月23日、KAT-TUNの中丸雄一さんによる自身初の漫画単行本『山田君のざわめく時間』(講談社)が発売された。
主人公の山田雄一(やまだおいち)は、日常生活で起こる様々なことが、とにかく気になり、ざわめいてしまう。『山田君のざわめく時間』は、そんな日常の中に潜む「ざわめく」瞬間をきりとる、味わい系日常ショートストーリーだ。
『月刊アフタヌーン』での連載開始以降、大きな話題となっていた本作は、発売前に2回の重版。発売後もその勢いは止まらず、完売する書店が続出。1月25日には3回目の重版が決定し、電子版も合わせて累計7万部の売り上げとなった。(2024年1月時点)
そして、1月28日。この日は一日中、“ざわめく時間”となった。
午前中、「シューイチ」(日本テレビ)で「中丸のリアルまんが道」が放映され、LINEスタンプ作成、ゲーム開発など、本作品がさらなる展開を迎えていることが発表された。さらに担当編集の助宗佑美さんから次回作オファーもあり、SNSではざわめきの声が多くあがった。
そして、13時より、紀伊國屋書店新宿本店で単行本発売記念会見。約30分間の囲み取材とフォトセッションが行われた。
さらに、15時からは発売記念お渡し会の開催。終了後、SNS上は参加した方々によるレポートで賑わっていた。漫画家になり、単行本を発売するという夢を貪欲に、そしてひたむきに追い続け、約7年かけて叶えた中丸さん。そんな中丸さんを一途に応援し続けていた長年のKAT-TUNファンの方、漫画をきっかけに中丸さんを知った方、長年のアフタヌーンファンの方……。訪れた参加者の多様さからは、作品の広がりが垣間見えた。
本記事では、単行本発売記念会見の様子を中心にお伝えする。
会場は出版関係者の聖地・紀伊國屋書店新宿本店
単行本発売記念会見は、紀伊國屋書店新宿本店のイベントブースで開催された。紀伊國屋書店新宿本店といえば、出版関係者内で「ここで売れる本は、全国で売れる」と言われる、いわば聖地である。
8階のコミック売り場にはフェア台が設置され、中丸さん直筆のPOPや、サイン入りのポスターと等身大パネルが掲示。当日立ち寄ると、特典なしの単行本は再入荷されていたが、「イラストカード付きは重版をお待ちください」とのことだった。
しかし、等身大パネルを撮影しようとしたところ、見つからない。中丸さん(等身大パネル)は一体どこへ……? と思ってフェア台周辺をまじまじ見てみると、「ただ今サイン入りパネルは出張中です。少しだけ待っててね」とのこと。
中丸さん(等身大パネル)の出張先は、単行本発売記念会見が行われる9階イベントスペースの壇上、向かって右端だった。
余談だが、実は当初中央スペースに中丸さんと並ぶ形で置かれる予定だった。けれど、中丸さん(等身大パネル)が照明の反射で光り輝いてしまい、うまくカメラに収まらなかったため、最終的に右端スペースに鎮座することで落ち着いた。
そして定刻、中丸さんが左手後方の控室から登場し、会見がスタート。心なしか緊張した面持ちだったものの、フォトセッションが始まると、次々とカメラマンのリクエストに応じて表情やポーズを決めていった。中でも多かったリクエストは、“ハートマーク”と“きゅんです”。「これ、別の形で使われませんか?」と苦笑しながらも、しっかりとリクエストに応えていた。後半には中丸さん恒例の“シューイチポーズ”も。「絶対使わないでしょ!」とツッコミつつ、何度か「シューイチ!」とセリフ付きでポーズを決めていた。
「過去の自分に、頑張ったなと言いたい」「ほっとした」出版後にこぼれた本音
続いて、囲み取材がスタート。まずは集まった取材陣に中丸さんから挨拶が。
中丸雄一さん(以下、中丸):みなさま日曜日のお忙しいところ、今日はありがとうございます。個人的なことなんですけれど、結構時間をかけて、労力をかけたつもりの漫画『山田君のざわめく時間』がついに単行本になりました。ぜひいろいろ聞いてほしいなと思います。よろしくお願いします!
そして、代表質問として担当編集の助宗さんから、いくつか単行本発売に際しての質問がされた。
助宗佑美さん(以下、助宗):出版しての、今の率直なご感想をお聞かせください。
中丸:いやぁ、シンプルにただただ感無量っすね。めちゃくちゃ嬉しいですね。もちろんゴールじゃないんですけれど、少年の頃に夢見たことなので。過去の自分に「頑張ったな」と言いたいくらい、最近日々興奮しています。嬉しいです。
助宗:今回出版された作品について、ご自身でご紹介をお願いします。
中丸:めちゃくちゃ簡単に言うと、「山田」っていうのが主人公で、山田が人に相談するほどでもないような小さな不満とか、社会に対する違和感みたいなものを、悶々と心の中で勝手に解決していこうとする、そういう作品です。
助宗:漫画家を目指されてから7年くらいかかっての出版となりましたが、一番の試練は何でしたか?
中丸:そうですね……試練……なんだろう。正直、芸能活動をやりながら、隙間時間というのは限られていて、そこをうまく使ってどうにか形にしたんですけれど。その隙間時間の頑張りですかね。気を許すとメンタル的にも大変だったので、よく乗り越えたなと思います。
助宗:漫画界に参入されましたが、入ってみた漫画界はどういうところでしたか?
中丸:その点めちゃくちゃ気になっていて。僕もファッションのつもりでやるつもりはなかったので。やるんだったら本腰入れて、っていう気持ちだったんですけど、はたから見たら「芸能活動している兄ちゃんが片手間で来たんだ」と思う人もいるよなとちょっと思ったんですけど。
とはいえ熱量を見てもらったのか、お会いする漫画家さんや関係者の方に、思ったよりすごく温かく迎えてもらって、めちゃくちゃほっとしています。
助宗:今後の漫画家としての目標をお聞かせください。
中丸:ようやく山田君のシリーズの道ができたと思うので、二巻三巻は少なくとも目指していきたいです。その中でも、今は10ページのショート漫画の積み重ねなんですけど、もうちょっと長い話など、いろいろトライしながら描けたらいいなと思います。
KAT-TUNメンバーからは愛を感じた
代表質問が終わり、続いて取材陣からの質問へ。漫画家デビューまで約7年間、諦めずに頑張ることができた秘訣について聞かれ、次のように語った。
中丸:意地ですね。ファンのみなさんに、KAT-TUNのライブのMCとかで、ちょくちょく言っていたんです。「俺は漫画家になる!」って宣言していたんです。もちろん7年前も本気でそう言っていたんですけど、なかなかうまくいかなくて。
でも毎年のように言っていたので、だんだん「ホラ吹き野郎」みたいになって。「また言ってるよ!」って。それがプレッシャーになって、ここまで言っちゃったら完成させるしかないって気持ちでやったりはしていました。
漫画制作中には、メンバーから週刊誌記者扱いされたこともあったと言う。
中丸:メンバーにほぼ許可なく、メンバーのことを描いたこともあったので、「あいつは週刊誌だ!」と言われるのはありました(笑)。それはボツにはなっているので安心してほしいと思います。
ただ、そうは言いつつもメンバー同士の活動を応援し合っているのがKAT-TUNというグループらしさだ。
中丸:めちゃくちゃ「おめでとう」と言ってもらえましたね。実際に初日に買ってくれたようで。やっぱり愛はあるなと思いました。
(先輩や後輩も)現場で会うと、声かけたりしてくれます。「よにのちゃんねる」もそうですし、TOKIOの城島くんも「すごいな」とほめてくださったり。
(KAT-TUNのメンバーが買ってくれたことは)SNS上で知っています(笑)。昔っから、他のグループに比べて、比較的ベタベタするような距離感でもないから、まあまあ想定内です。でも読んでくれていると思います。
連載はどうなんですかね? 読んでくれているのかな? ちょっと確認とれてないですけど、でも愛はあると思っているんで。読んでくれていると思います、としか言いようがありません(笑)。
普通に(メンバーの感想を)参考にしたいですよね。来週か再来週に聞いてみたいと思います。
主人公の山田君は、Hey! Say! JUMPの山田涼介くんを意識していた
会場からは、タイトルにちなみ「中丸さん本人がざわめくのはどういう対象?」という質問も。
中丸:山田の気持ちも、もちろん僕の気持ちを重ねているんですけれど、勝手に悶々と考えて、答えが出ないまま過ごしているんですよね。同じような場面で、同じような悶々とした気持ちが出るので、そこを漫画にできたらと思ってやっています。
主人公の名前を「山田」にした理由については、「ほとんど気にしてなくて」と、中丸さん。
中丸:覚えやすいというか、変な名前じゃないのがいいっていうのはあるんで。かといって鈴木さんだとちょっと多いかな、田中さんでも違うかな、と。僕的には山田君が一番しっくりきて。
かつ、万万万が一、この作品が実写化というのが1%でもあるとしたら、Hey! Say! JUMPの山田(涼介)くんにお願いしようかなと。一応、1%の奇跡を願って考えています。
最終的には「山田雄一」という名前になっているんですけど、Hey! Say! JUMPの山田くんは「山田涼介」なので、ネームの時は「山田リョウ」にしました。完全に山田くんを意識して。
(山田くん本人にこの話は)YouTubeの撮影でしていると思います。まあ一応僕は先輩にあたるので、本当に実写化になった場合にはちゃんと先輩風吹かせようかと思っています。「受けてくれ」って(笑)。
幻のSF作品、アドバンテージを活かしたアイドル作品……。期待膨らむ次回作
発売初月にして累計7万部の売り上げ、そして3度の重版出来については、顔を綻ばせながら次のように話した。
中丸:もう大興奮です。もちろん描く以上は、いろんな人に読んでもらいたいという気持ちがあったんですけれど、初めての本なので具体的にどれくらい売れるのかというのはわからなかったんですよ。
ただ、新人漫画家さんはこれくらいだという目安はあるらしくて。シンプルに比較はできないと思うんですけど、それを物差しに、めちゃくちゃ嬉しいなって。数字的に。
そして「シューイチ」でも触れていた、次回作についても語った。
中丸:(次回作のイメージは)あんまりできてなくて。今はただ『山田君』の本をいかに発展させられるかというのに注力したいですね。
ネタ的にはいくらでも描けるような内容だと思っているので、何冊かは、せっかくシリーズも目指せると思うので、目指していきたいです。かつ、多分漫画の世界って描いたら描くだけ上手くなると思うんですけど、もうちょっと上手くなって、別のジャンルでもトライできるなと思ったら、別のものをと思います。
例えば過去にボツになったSFの作品があるんですけど、それをもう一回トライするとか、いろいろ方法はあるなと。
(次回作のテーマについては)『山田君』でも「アイドル文化」について語るというのが何話か入っているんですけど、僕も四半世紀アイドル業界に参加していて、そこはアドバンテージがあると思うので、一回どっぷり描いてもいいのかなと思いますね。
今はまだスタートライン。中丸さんが秘める底知れぬ可能性
会見終了時には、「みなさん、改めてありがとうございました! なんか恋愛のこと逃げてすみませんでした」と中丸さん。
実は会場からの質問にはいくつか結婚に関するものも含まれていたのだが、それについては「……ちょっと考えていいですか?(笑) まあ言っても40歳ですけど、アイドル業やっているので、アイドルとしての、応援してくれている方がどうかなっていうのは、必ず考えるようにしているんです。だからここは答えないほうがいいですね!」「すみません! KAT-TUNとして応援してくれている方の気持ちを考えると、触れないほうがいいような気がしています!」などと、会場を笑わせ、空気を和ませつつも、ファンの存在を第一に考えるアイドルとしての矜持がうかがえる返しをしていた。
そして最後に、こう締め括った。
「本当に、何年もかかって作った作品で本当に嬉しいなと思いつつ、スタートラインだと思っていますので。発展するように、これからもぜひ応援してもらいたいなと思います。今日はありがとうございました」
以前実施したインタビューでも「今の気持ちとしては、このシリーズをどれだけ発展させられるかに全力を注いでいます」と語っていた中丸さん。本会見でも一貫して同じ決意を語っていた。
ただ、いち読者としては、アイドルを起点にボイスパーカッション、フルーツカット、イラスト制作、動画編集など多岐にわたる活動をしている中丸さんだからこそ、漫画という表現だけにとどまらない展開を期待してしまう。現に冒頭でも触れたように、LINEスタンプ、ゲーム開発と、すでに新たな広がりを見せている。これから漫画家・中丸雄一が見せてくれる世界はきっと、今以上に私たちをざわめかせてくれるだろう。
文・写真=篠原舞(ネゴト)