売れない漫画家×生活力の高い怨霊の変わった同居生活。怖くて可愛い怨霊さんの不思議な魅力に取り憑かれるコメディ漫画
公開日:2024/3/8
引っ越す際、多くの人が絶対に避けたいと考える事故物件。万が一家で心霊現象に出くわそうものなら、筆者ならあらゆる手段で除霊を試みるか、もしくは諦めて引っ越すかの二択だ。ましてや、この世に未練を残し祟る怨霊なんてもってのほか。でも世の中には、人を呪うだけではない少し変わった怨霊もいるらしい。
『売れない漫画家と世話焼きの怨霊さん』(三戸/竹書房)は、売れない漫画家として奮闘している男性と、アパートに住み着いている怨霊女性の日常を描いた同居コメディだ(全2巻)。
本作品の主人公・左江内夜郎(さえない やろう)は、少女漫画家として漫画を描いているものの、思うように結果が出せず苦戦している冴えない男性。お財布の都合により安いボロアパートで一人暮らしをし、日々締め切りと戦っている。そしてそんな左江内が暮らす部屋には、なんと幽霊が憑いていた。幽霊は何を話すでもなく、ただただじっと左江内の近くで彼が漫画を描く様子を眺めている。
左江内はそれに恐怖を感じつつも、お金がなく引っ越すこともできずにいたのだが。ある日しびれを切らし、「感想のひとつやふたつ 応援のみっつやよっつくらいあってもいいだろ!」「せめて共存しようって気遣いくらいはしてくれよ!!」と幽霊相手にブチ切れ。すると幽霊はスッと壁の方へ向かっていき、壁に大きく「最&高」と書いて大絶賛!
これにより筆が進み、左江内は無事締め切りを乗り切ったのだった。ここから、漫画家と幽霊のちょっと変わった同居生活が始まっていく。
このあとも幽霊は、自分は幽霊なのにホラー映画が苦手だったり、盛り塩でフライドポテトを作ってさらにまな板を除菌するなど生活力が高かったり、SNS運用が異様にうまかったりといたるところで意外性を見せつけてくる。
その様子が怖いのに可愛く、どこか楽しそうで、読み進めれば読み進めるほどクセになるし愛着が湧いてしまう。また、第10話で呼び名を決めようとして、幽霊の正体が実は怨霊だと発覚。ここからは「怨霊さん」と呼ばれることになった。それでいいのか怨霊さん!?
その後も家事はもちろん、左江内の漫画アシスタントを見事にこなすなど大活躍。一方で、霊障で植物を枯らしたり、失恋の愚痴を聞かされた際の対応が相手を消すこと前提だったりと、時折怨霊らしさも垣間見せる。
でもたくさん食べるため食費は高い。怨霊なのに……。この怨霊っぽさと普通の女の子っぽさ、優秀さとぽんこつ具合のバランスが絶妙! さらに1巻ラストには、左江内と出会う前の怨霊さん、左江内との出会いを描いた書き下ろし漫画もついている。これを読めば、怨霊さんが一層可愛く見え、きゅんとしてしまうこと間違いなし。左江内と会えてよかったね、怨霊さん!
2巻では、左江内と怨霊さんの仲もますます深まり、彼が描く漫画へのファン度も高まっていく。さらには別の幽霊も続々と登場――!? ちなみに、一応ホラー漫画と言えなくはないと思うが、ビジュアル以外の怖さはまったくない。ホラーが苦手な筆者もすっかりハマってしまった。こんなに可愛く尽くしてくれる怨霊なら、1人くらいいてもいいかもしれない。あなたも本書を読んで、怖くて可愛い怨霊さんの不思議な魅力に取り憑かれてみては?
文=月乃雫