働く大人に必要なのはご褒美タイム!「見守り屋」であるアラサー女性の奮闘と夜勤明けの癒しを描いたお仕事×グルメコミック『ランチ酒』
公開日:2024/2/22
仕事や用事を終えたあと、開放的な気持ちで味わうおいしい食事やお酒。ちゃんと頑張ったからこそ味わえる、自分でセッティングする至福は働く大人のご褒美タイムだ。筆者もよく、町を歩いていて見つけたお店を「次のご褒美」として設定し、それをモチベーションに仕事を頑張ることがある。大人だからこそリフレッシュできる時間が必要だ。
『ランチ酒』(原田ひ香:原作、高田サンコ:漫画/KADOKAWA)は、そんな働く女性の日常と、夜勤明けのご褒美タイム・ランチ酒を描いたコミック作品。原作は祥伝社が刊行している同名の小説(既刊3巻、うち2巻まで文庫化)で、2024年2月に待望のコミカライズ版となる本作が発売された。
本作の主人公は、見守り屋「中野お助け本舗」として働くバツイチのアラサー女性・犬森祥子。見守り屋とは、子どもやペットを寝ずに見守る仕事だ。
その特性上、祥子の仕事は基本的に夜間で、営業時間は22時から朝5時まで。熱を出した子どもや老犬、認知症のおばあちゃんなど常に目を離せない相手であることも多く、相手からの思わぬ要望もある。また朝5時までとなってはいるものの、依頼主の都合によってはさらに長丁場になることも。やりがいを持って挑んでいるが、神経も体力も削られる大変な仕事だ。
そんな祥子の唯一の贅沢は、夜勤明けの晩酌ならぬ、ランチ酒。誰にも邪魔されない、自分だけの楽しい時間。朝や昼でも飲める店を探し、おいしいごはんとともに一杯飲んでおなかを満たす。例えば、ステーキがたっぷりのった「肉丼」と江戸時代の文献を参考に再現したという「蕃薯考(芋焼酎)」。ボリューミーな肉汁溢れる「ラムチーズバーガー」とビターな「ブルックリンラガー(ビール)」。「花咲蟹の鉄砲汁」含む魚介類と根室唯一の地酒「北の勝(日本酒)」など。
このひとときを楽しむ祥子が本当に幸せそうにリラックスしていて、普段あまりお酒を飲まない筆者でも、思わずランチ酒をしに店へ行きたくなる。日々人のことを思い一生懸命生きているからこそ、この時間だけは誰を気にすることもなく自由に飲んで、食べて、癒される。そんな祥子のスタイルがかっこよく魅力的で、見ていて爽快感すら覚える。
また、お酒の銘柄や特徴も具体的に紹介されているので、お酒に詳しい人や興味がある人はより一層楽しめるだろう。
本作では、ランチ酒を満喫する様子だけでなく、見守り屋として働く祥子の仕事も深く掘り下げられている。ただ見守るだけでなく受け入れて話を聞き、可能な範囲で相手の希望を叶えてあげるのも祥子の役目。その中で、孤独を抱えていた人々が心を開き、救われていく。
また、依頼主にもさまざまな事情があり、ただ世話を放棄して押しつける「悪者」ではないところがリアルだと感じた。
そして祥子には離れて暮らす娘がいる。今は離婚した夫が引き取り世話しているが、祥子が娘のことを忘れることはなく、ことあるごとに娘へ思いを馳せる様子が描かれる。元夫のメッセージ一つで娘との面会がなくなった際、悔しそうに唇をかみ、無言でスマホをポケットへ突っ込む場面が印象的だ。
祥子の離婚理由に関してはまだ不明だが、彼女は娘に会えない切なさや寂しさすらも仕事の糧にして、前を向いて生きているように思えた。後半では、幼馴染との繋がりや「見守り屋」の仕事に出会ったきっかけも描かれる。さらにラストでは、思わぬところで新たな恋の予感も――。
人並みにいろいろなことを抱えながらも、自由にまっすぐ生きる祥子。彼女の生き様を見ていると、「私も頑張ろう」と気力が湧いてくる。そして世の中には祥子のように頑張っている人たちがたくさんいる。人間誰しも疲れて立ち止まることがあるが、ランチ酒のようなご褒美タイムで元気をチャージして、前を向いて生きていけたらいいと感じた。
文=月乃雫