築60年浴槽なし長屋で暮らす漫画家の女子!? 東京ひとり暮らし女子のリアルな生活感をカラフルに描いた短編マンガ+イラスト集
PR 公開日:2024/2/27
私が26歳で転職をして首都圏に来てから10年以上の月日が流れた。ライフステージの変化と共に神奈川と東京で引っ越しをしたのはあわせて5回である。今は一時的に大阪に住んでいるが、そんな自分の東京ライフを振り返っていた時、『東京ひとり暮らし女子のお部屋図鑑 イラスト+コミック集』(mame/翔泳社)を見つけた。開いてみると、今ぱあっと自分が東京に住んでいたころの思い出がよみがえった。フルカラーのイラストやどの章にも掲載されている漫画は、画風が可愛くてすいすいと読めてしまう。オムニバス形式で、章によってヒロインたちが住んでいる街は違うし、部屋の雰囲気も変わる。それでも、私は彼女たちひとりひとりが、ひとり暮らし時代の自分と重なっていくのを感じた。
繊細な女の子の表情をあたたかみのあるタッチでとらえ、彼女たちの可愛らしさとレトロな雰囲気を同時に表現するイラストレーターがいる。名前はmameさん。女の子たちの憧れや不器用な生き方を包み込むような作風は、等身大の女性たちからの共感を呼んでいる。
本書は、そんなmameさんによるフルカラーの可愛いイラスト(※一部の漫画はモノクロ)で、11人の女性が章ごとに主人公になり、主人公がひとり暮らしをする街や部屋を紹介する描き下ろしのオムニバス漫画だ。彼女たちの年齢は20代から30代前半で、職業は会社員、経営者、フリーランスとさまざま、学生もいる。住まいは王道の中野、北千住などもあれば、あまり知られていない松陰神社前、柴又などもある。
また、プロローグとエピローグにはこの11人とは別にひとりの女性が登場する。プロローグでひとり暮らしを始めたばかりの彼女が、1年後のエピローグでどのような生活をしているのかも見てほしい。
どの章も最初のページには駅周辺を描いたイラストが広がり、続いて各章の主人公が感じるその街の魅力が語られる。また、職業・年齢・ひとり暮らし歴などを書いたプロフィールのほか、最寄り駅からの距離や住んでいるところの築年数、それに合わせたリアルな家賃の記載もある。
夢いっぱいでは済まない東京ひとり暮らしの現実をも描写しつつ、ページをめくると主人公ひとりひとりの「こだわりの家具・アイテム」や「お気に入りの場所」が載っていて、女性たちが街の中にある自分の部屋に住むことを楽しんでいるのがうかがえる。たとえば明大前在住、IT企業でWEBマーケティングの仕事をしている28歳のnatsuさんは、部屋にある物を少なめにしている。そのためのこだわりのアイテムとしてマガジンスタンドを持っていて、そこに入れるのは雑誌だけではないようだ。
また、赤羽に住み、通信系企業で経理の仕事をしている31歳のmachiさんのお気に入りの場所は、テレビを椅子にして、お酒の入った冷蔵ショーケースにもたれることのできるスペースだ。冷蔵ショーケースから飲みたいお酒を出して家飲みをするのが彼女のリラックス方法なのだ。
どちらも私にとっては思いがけない、部屋の中にあるモノや場所の使い方だった。そして私の思う本書の最大の見どころは、各章の最後に描かれる漫画だ。ひとり暮らし女子たちは現実を生きている。失恋することもあるし、仕事でミスをして落ち込むこともある。街は、そんな彼女たちをあたたかく包み込む。漫画を読んでいると主人公ひとりひとりの特徴や住む街の雰囲気が自分の中に溶け込んでいくような感覚になる。
私が特に興味を持ったのはフリーランスの漫画家で北千住に住む、25歳のwakaさんだった。職業柄、彼女の収入は不安定なようだが、wakaさんには漫画家として成功したいという夢がある。そんな彼女は築60年で北千住駅から徒歩17分の、浴槽のない縁側付きの長屋に住んでいる。wakaさんが、仕事がうまくいかない夢を見てうなされながら起きた朝、コーヒーを飲みながら外を見ると、桜が満開になっていることに気づく。
彼女が縁側に出て満開の桜から希望をもらう姿は、年齢や立場は違うとはいえ同じフリーランスの私も共感できるものだった。どの章も漫画はご都合主義の展開にはならない。ただそれぞれの街で生きる彼女たちが、日常生活を楽しむ、あるいは辛い出来事から立ち上がる姿を描くのだ。また、各章でさりげなく街のポイントが明かされているのも特徴的である。たとえば前述したwakaさんの住む北千住なら、意外と銭湯が多いといった点だろう。だから浴槽のない長屋に住んでいても、wakaさんは入浴に困らないのだ。
ひとり暮らしを考えている人、自分に合う街を見つけたい人、引っ越す予定はないけれども可愛いイラストと漫画で新しい世界を見つけたい人……さまざまな背景を持つ読者が本書を読み終えると、表紙の右に書いてある「この街なら、ひとりだって最高じゃん」という思いを分かち合えるのではないだろうか。
嬉しいことに、本書は翔泳社の新しい画集シリーズ「IMAzine」(イマジン)の第一弾で、今後も同シリーズは続き、多様なテーマの画集の発売が予定されているそうだ。次はどのような、めくるめく世界が読者を待ち受けているのだろうか。第二弾が待ち遠しくなってしまった。
文=若林理央