ドストエフスキーはあらすじをがっつり頭に入れてから読め? ぶっちゃけよく分からん名作小説を面白く読む方法
公開日:2024/2/27
「あれいいよね」と言いたくて古典や文学など名作小説を読むのは、本好き界隈の青春時代に避けて通れない道。夏目漱石、太宰治、川端康成、夢野久作にドストエフスキー、ヘミングウェイ…かつて格好つけて精読したはずなのに、どれだけ頑張っても内容をほとんど思い出せない、または積ん読になっている、というのは正直あるあるだろう。
そんな青春の傷を負ったままの人に刺さりそうな本を見つけた。『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法(角川文庫)』(三宅香帆/KADOKAWA)は、学生時代に『カラマーゾフの兄弟』『金閣寺』『ドグラ・マグラ』などに手を伸ばしたものの、内容がよく分からず敗北感を募らせていた著者による一冊。エッセイのような非常にカジュアルな書きっぷりで、自身が会得した「小説を面白く読む方法」、とりわけ「名作小説をほんとうに面白く読む方法」を紹介している。
本書は二部構成になっている。一部は「小説を面白く読む方法」の紹介、二部は様々な名作小説ごとの応用編である。
さて、本書の一部最初の項目「ぶっちゃけ、なんで小説って分かりづらいんだろう?」では、まず小説固有のタイトルについて解説している。
ビジネス書や実用書、自己啓発本などはタイトルから内容がおおよそ想像できる。かたや、小説はタイトルから内容が分からない。タイトルに惹かれて小説を購入しても、中身が面白い保証はない。これは博打をしているも同然だ、と本書。しかしながら、小説は「私はこんなふうに悩みを持ってるよ。そんで、その悩みに対してこう考えたり、こんな体験をしたりしたけれど、まあ、これが解決になったかは、あなたの解釈にゆだねるよ」と伝えるメディアのため、現状のように分かりづらくあるべきだ、と述べている。だがそうであっても、小説が分かりづらい理由の一つは、タイトルであることに相違ない、ということだ。
この他にも、小説は「その小説が生み出された根本的な理由になる悩み」をもっているが、読者である私たちはまったく同じ悩みを抱き続けることはなく、年齢や環境などによって変化していく。読む小説と自分の現在のテーマが呼応したとき、その小説は心に刺さるのだが、そうでなければ「……ほーん?」で終わってしまう、と本書は説明する。だからこそ、積ん読は有りだし、積ん読を経て自分にとっての本当の名作になり得ることもある、ということだ。
そんなクセのある小説を面白く読むための方法を本書はいくつか紹介しているのだが、一つは「メタファー(比喩)」を理解することだという。古典ではないが、身近な例として本書が挙げているのは、『魔女の宅急便』は一見「魔女キキの成長ストーリー」でありながら、その裏では「思春期の女の子のありかた」がメタファーとして隠れている。他にも、『赤ずきん』は「お母さんに注意されていた赤ずきんが、オオカミに食べられたけれど猟師に助けてもらった話」だが、メタファーとしては「若い女の子が、ふらふらしていると危ない目にあってしまうぞ」ということを表現したことが分かる、と解説している。
本書によると、小説は様々な「悩み」をテーマとして読者に伝えるのだが、これを分かりやすく言語化するのは難しい。そこで、物語というメタファーにすれば、読者に伝えやすい、ということだそうだ。この構造を意識しながら読むことで、小説を理解しやすくなりそうだ。
二部は、一部の応用編となっているが、取り上げる名作ごとの「読む技術」も紹介されている。例に挙げられているトップバッターはドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』だ。著者が編み出した、こういったやたら長くてハードルが高い本を読む有効なコツは、「あらすじをあらかじめ読んでおくこと」だと(多くの読書家に謝意を示しながら)述べている。小説は、あらすじを知らないからこそ「次の展開はどうなるんだろう?」「結末がどうなるのか分からない」といった当然の楽しみ方があるが、あらすじ以外にも登場人物の言動、台詞のパンチライン、意外な演出などがあるからこそ、繰り返し読むに足ると語る。特に古典名作は、これに当てはまる。こういうわけで、本書は『カラマーゾフの兄弟』を面白く読む方法を、まず「あらすじを調べて読む」、次に「登場人物をざっと把握しておく」と整理している。
この他にも、「(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん」と思っている人が少なくなさそうな夏目漱石の『吾輩は猫である』、三島由紀夫の『金閣寺』、夢野久作の『ドグラ・マグラ』ほか、作品ごとの“名作小説を面白く読む方法”も紹介されている。本書で小説の苦手意識を払拭できれば、読書の幅が広がりそうだ。
文=ルートつつみ
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