「怪・真夜中にチャイムが鳴る!?」学校新聞のトップ記事を見て、自閉症のアルクが一言/歩く。凸凹探偵チーム①
公開日:2024/3/1
「さあさあ、押さないで押さないで。虹小新聞創刊号はたっぷり用意しておりますので、みなさまにございます!」
……うーん、こいつも朝から、やたら元気がいい。
オヅのやつ、先週はおなかが痛いって保健室で寝てた日もあるのに、もう、ぼくの倍は元気だ。
どうやったら朝からそんな大きな声が出るんだろう。
だれも新聞をもらいに殺到してないし、押してもないのに。
オヅの配っている紙は、普通の新聞より小さい。
ページも少ない。
それでも「新聞」と聞いて、アルクの目がかがやいた。
アルクだけじゃけえのぉ、ぶちうれしそうに、もろうてくれるのは
オヅが、ばりばりの広島弁でこたえる。
そりゃそうだろーオヅ。
いきなり「新聞」なんて紙を手わたされても、とまどうのがフツーの反応なんじゃないかな。
お天気コーナーが、ありません
さっそくその場で紙に顔をつっこんだアルクが、ぼそりと言う。
アルクは、新聞の天気予報のコーナーが好きなんだ。
「次号では、ちゃんと作るけぇ、期待しとってえや、アルク」
オヅはうれしそうにこたえる。
そのユーモラスな口調とはイメージがちがうけど、几帳面で、律儀なやつだ。
きっとアルクとの約束は守るだろう。
「オヅって、新聞係だったっけ?」
「ちがうわい。あんな子どもだましな新聞づくりなんか、やっとれるわけなかろー。『先生にインタビュー!』なんて、ぬるい壁新聞、おもしろいって思えんわ。新聞づくりってのは、自分でニュースを拾ってこなくちゃだめなんじゃ。自分の目と足でなっ!」
オヅは、自分ではかっこいいこと言ったと思っているんだろう。
なんかポーズを決めている。
「はあ。だけど、よく先生が許可したなあ」
「ばーか。なんでそこへ先生が出てくるんじゃ。全部自分でやっとる。市役所で、無料で印刷機を使えるんじゃ。紙は持ちこみじゃけどな」
紙はこづかいで買ったのか?
紙だって、買えばけっこう高い。
あっというまに、こづかいがなくなっちゃうだろう。
「それも考えてあるわいの。新聞、見てみなって。宣伝が入っとるじゃろお」
宣伝?
アルクの持ってる紙を見ると、たしかに書いてある。
「虹小そばの文房具店には、『ドリーム』にはない、こんな商品がありますよ」――なんてことが、くわしく書いてある。
ドリームっているのは、大きなショッピングセンターだ。
そのとなりには『おはだの手入れをしてみたいと思っている人に!』なんてキャッチフレーズといっしょに、化粧品の紹介もある。
大人気のキラキラパフュームが、お試しさせてもらえるとか。
「広告宣伝費ということで、協力してもらう約束をつけとるんじゃ」
「えっ、それ大丈夫なのか?」
「学校にはナイショじゃけえ。お店には、学校の校外学習なんじゃいうて説明しとる。だから新聞名は、ダサいけど学校の名前を入れたんじゃ」
「へ――――—」
オヅの悪知恵……というか、行動力に、すなおに感心する。
あらためてアルクの広げた新聞に目を落としてみる。
新聞の1面トップ記事の大きな文字は「怪・真夜中にチャイムがなる!?」だ。
「深夜0時に学校のチャイムが鳴りよったって、学校の近くに住んどるやつが言うててさあ、記念すべき第1号の記事にした、いうわけよ」
「へえ……」
夜中のチャイムか。それは近所めいわくな話だなあ。