生成AIからさらに進化したAIが実現間近!? 自律型「AIエージェント」がもたらす未来予想図
公開日:2024/2/15
ChatGPTに代表されるチャット型AIの「さらに次」の時代は、既に到来しつつある。しかも、変化と進化のスピードはすさまじい。そのため『その仕事、AIエージェントがやっておきました。 ――ChatGPTの次に来る自律型AI革命』(西見公宏/技術評論社)の出版にあたって、著者の西見公宏氏は2023年年内に仕上げることを目標に、2023年9月から急ピッチで執筆を進めたといいます。「AIエージェント」という言葉が2024年に入ると広まり始め、実際のサービスやプロダクトも展開され始めると予想していたからです。
チャット型AIとAIエージェントが異なるのは、前者は指示ありきのAIなのに対し、後者は自律的、つまり「自分で考えてくれる」「やっておいてくれる」という点です。
AIエージェントとは何かをざっくり説明すると、人がいちいち指示をしなくとも、自分でやることを考えて、様々なツールを活用して目標に向かってタスクをこなしていくAIの仕組みのことです。大規模言語モデルをベースとしたAIエージェントでは、大規模言語モデルがすでに学習している膨大な知識を活用することで、自ら考えて判断し目標達成へと向かう知性を獲得しています。
自律的であるために必須なのは「タスクばらし」の能力です。たとえば本書ではカレーを作るプロセスで例示されていますが、下準備、調理、仕上げをどういうタイミングで、どれくらい時間をかけて行い、どれくらいの分量のカレーを、いつ誰に提供するか。様々なタスクの内容と流れを把握し、臨機応変に対応して美味しいカレーを提供するように、生活や仕事における最適解を自ずとAIが見出してくれるのがAIエージェントの理想形です。
AIエージェントを企業に売り込むとするならば「新人不要、AIエージェントが研修なしで即戦力になります!」というようなキャッチフレーズになるかと思いますが、「本当にそんなことできるのか?」と疑ってしまうのが本音でしょう。
AIエージェントの仕組みの基本は「言葉」です。様々な言葉のインプットに、相互の関連や重要度が紐づけられます。
例えば私たちも、日常の生活の中の出来事にはあまり強い関心を払いません。今朝食べたご飯の内容についても、思い出そうと思えば思い出せるけれども、絶対に覚えておきたいかどうかで言えば、忘れても構わない情報でしょう。しかし、急にパートナーから別れを告げられるといった人生に影響するような出来事の場合、私たちの意志とは別として、脳は重要な出来事として記憶しようとします。
こうした仕組みによって、記憶の重さやスパン(長期か短期か)も生じてきます。インプットされた言葉が既存で常套的なのか、初出で新しいものなのかを示す「最新性」の度合いもAIエージェントは認識します。AIエージェントごとの個性というものもあり、状況や条件によって、AIエージェントはそれぞれの行動指針や思考様式が形成されていきます。
AIエージェントの技術は、一体どこを目指しているのかというと、筆者はSF映画のように「AIが人間を超える」ということではなく、「AIが人間を再現する」ことが目指されているのだと本書を読んで感じました。たとえば映像撮影においてデジタル技術は高精細な画質を目指す一方で、「いかにフィルムの質感に近づけられるか」といったようなアナログの再現を目指してきたといいます。
生身の人間にAIエージェントが近づいたとき、スマホで誰でも手軽に映像が撮れるようになったように、誰でも自分のやりたいことを実現に向けて進められる「マンパワー」を手に入れられるようになる。そんな未来が実現する姿を見てみたいと思える一冊です。
文=神保慶政