ラブレターの差出人を捜して! 匿名のラブレターをもらった生徒たちに次々と不幸が/歩く。凸凹探偵チーム③
公開日:2024/3/3
『歩く。凸凹探偵チーム』(佐々木志穂美:作、よん:絵/KADOKAWA)第3回【全4回】
自閉症の凸凹も、ひとつの個性――。小学6年生の理人と、いとこのアルクは毎日いっしょ。自閉症のアルクには色々なこだわりがあって、気をつけてないと辛くなるときもある。でもその代わり、アルクには理人が気づけない「ほんの少しのチガイ」が分かるのだ。ある日、理人はクラスメイトのオヅから【真夜中の学校に鳴るチャイムの怪異】のナゾ解きを持ちかけられた。アルクがポソリとつぶやいたヒントから真実はすぐに見えたけれど、でもこれってどういうことだ…? ぼくらみんなが探偵だ。みんなの個性をつなげて、大きな真実を見つけよう! 全員主役のニュータイプ・ミステリー『歩く。凸凹探偵チーム』をお楽しみください。
2 それは呪いのラブレター!?事件
「なあ、理人……本当にだめかぁ?」
今日の体育は、サッカーだ。
校庭へむかう間も、オヅはまだ、ぶつぶつ言っている。
「あのなあ。ラブレターの愛てがだれか、そんなこと調べるのが探偵の仕事なのか?」
オヅの新聞を読んで、探偵の依頼がきた。
いつのまにかかばんに入っていたラブレターの、差出人を捜してくれというものだ。
名前が書かれていなかったらしい。
ぼくはオヅにむきあって、言った。
「まず、第一に、ぼくは探偵ではない。第二に、かりに探偵だったとしても、ラブレターの差出人捜しは探偵の仕事ではない」
「そんなことないと思うんじゃけど」
「だいたいいまどき、ラブレターってありえないって思わないか。ラブレターなら名前書かなきゃ意味ないだろ。わかってほしければ自分で名乗ってくるだろうし、名乗らないなら名乗らないなりの理由があるってことだ。それを関係ない人間がほじくっていいわけない」
うん。われながらリクツが通っている。
「でも依頼人は知りたいと思うとるんよ」
「オヅがやってるのは探偵社じゃなくて、新聞社だろ。これ調べたからって、『〇〇くんが〇〇さんにラブレター!』、なんて記事にできないだろ。意味ないじゃないか」
「それが……それだけじゃないかもしれん」
そのとき、先に校庭に出ていた女子が、数人走ってきた。
ぼくらの数メートルうしろにいた田野先生のところへかけよる。
「先生。大変です。三田東くんがケガして」
それを聞いて、オヅがとびあがる。
ミタのこと心配して……というわけではないらしい。
「理人、やっぱりこれ新聞社と探偵の仕事じゃ! ラブレターをもらったやつには不幸がおこっとるんじゃ!」
「……は?」
「差出人不明のラブレターをもらったやつは、これまでに3人いたんじゃ。一応ネタとして調査中だったんじゃけどな。そこに今朝、差出人を捜してほしいって依頼がきたんじゃ。そいつが、無記名のラブレターをもらった4人目なんじゃ」
オヅはいきごんで言う。
「最初にラブレターもらった2組の喜多川一也は、最近ケガしとるんじゃ。塾から帰ろうとしたら、自転車がパンクしていて、転んだらしい。2番目にラブレターもらったオレらのクラスの丸谷信二は、自転車のかごに入れていた物を盗まれたって言うてた。そのうえパンクもさせられていたって。そこまで聞いて、なんかのぉ心がざわざわしてのぉ……。ミタはなにも事件はないって言うていたんじゃけどな。ほいじゃけど、なんか心配でのぉ。これは調べんといけん思うて、3人のラブレター、預からせてもろうたんじゃ。結局、ミタも、ケガしたろ……!ラブレターをもろうた3人ともトラブルっておかしいじゃろ」
うーん……。
ビミョーだ。
たまたま、その3人によくないことがおこったと考えられないこともない。
ただ、ちょっとだけ気になることはある。
3人の共通点を見つけてしまったから。
ぼくの見つけた共通点は、2種類ある。
そのうち1つの共通点を持っている人は、ほかにも数人思いうかぶ。
だけど、もう1つの共通点は――ほかにあてはまる人は、虹丘小6年には、あと1人しかいない。
「今回依頼してきた『もう1人のラブレターもらった人』って2組の桐野美波じゃないよな?」
ぼくの言葉に、オヅがとびあがった。
「どどどどうしてわかったんじゃ理人! やはり理人は名探偵じゃわ!」
「4人には共通点があるんだ。だけど、だからといって、それがラブレターをもらう理由にも、ケガさせられる理由にもならないよ」
ミタが、校庭を横ぎって、こっちにくる。保健室にいくんだろう。
自力で歩いているし、大ケガじゃない。
でも、派手にすりむいたひざが、痛そうだ。
ゲタ箱で、ミタが脱いだ靴を、手にとった。
かかと部分がやぶれている。急にやぶれたせいで、ころんだのだろう。
だけど、そのかかとの傷み方が不自然だ。
切り目でも入れられていたんじゃないかな……。
自然にやぶれたにしては、靴はかなり新しい。
ミタは早く校庭に行きたくて、靴の、はきごこちがいつもとちがうことなど気にとめず、走っていて、かかとがやぶれてころんだんじゃないかな……。
もし、ころんだ場所が階段だったら?
車が走っているようなところだったら?
もっとひどいケガだったろう。
そう考えると、ぼくの眉間にたてじわが寄った。
「――なあ、オヅ。もし、これがだれかが故意にやったことなら、ゆるせないな」
すると、我が意を得たりというように、オヅがとびあがった。
「じゃろ? 探偵の出番じゃろ!?」
「ちがうだろ。先生に言うべきだろ。これから桐野さんにもなにかあったら、どうすんだよ」
ぼくが指摘すると、オヅはちょっと肩を落とした。
「ほうよのぉ」
「ただ……、先生にわたす前に、ぼくもそのラブレターってやつ、見ておきたいかな」