ラブレターの差出人を捜して! 匿名のラブレターをもらった生徒たちに次々と不幸が/歩く。凸凹探偵チーム③

マンガ

公開日:2024/3/3

 どんな子が書いたのか、気配がまるで感じられない。

 それに、本気のラブレターなら、たとえ3人同時に好きになったとしても、同じ文面で送ったりするわけないと思う。

 喜多川くんたちにぼくも話を聞いた。

「最初はさあ、始めてもらったラブレターかと舞いあがったんだー。塾のかばんに入っていて、だれからだろうって、どきどきして」と喜多川くん。

「塾から帰ったら、いつのまにかかばんのなかに入っていたんだよ。オレらの塾、虹丘小から通っているのは男子ばっかりでさあ、よその学校の女子がくれたラブレターだと思ったよな。それで学校で自慢したら、喜多川くんも三田くんも塾で同じのをもらったって言うから、がっかりさ。こりゃ、からかわれたんだなって」と丸谷くん。

「でも、なんでこの3人なんだろうな?」とミタ。

 3人とも青葉塾に通っている。

 ここから自転車で15分。新しくできた、かなり大きな進学塾だ。

 3人は、学校でおたがいのラブレターを見せあったらしい。

「学校にこの手紙を持ってきたとき、ほかの子にも見せた? 桐野さんも見た?」

 

「うん。まわりにいた何人かは見たよ。オヅにもそのとき見せたんだし、桐野さんもいたよ」

「桐野さんに来た手紙は、塾ではなく学校でかばんにいれられている。文面もちがう。だけど香りはいっしょなんだよな」

 すると、

「ちがいます」

 それまでだまってそばにいたアルクが急に声をあげた。

「この手紙は、立石化粧品店さんの匂いです。桐野さんの手紙は、デパートの匂いです」

 立石というのは、ただでキラキラを使わせてもらえる化粧品店さんのことだ。

 でも、デパートの匂いっていうのはどういうことだ?

 

 うちの街には、駅前に、そんなに大きくないデパートがあって、2階に化粧品コーナーがある。

 放課後、ぼくたちはそこへむかった。

 階段をかけあがったアルクは、外国メーカーの高級化粧品売り場を指さした。

 男子小学生だけじゃ、ちょっと近づきにくいなあ……。

 

 せめて、だれか知り合いでも通ってくれたらいいのに。

 アルクが、まっすぐに売り場へ入っていく。

 あの売り場に、キラキラと似た香りのものがあるのか?

 アルクはこのあたりを通ったときぐうぜん嗅いで、覚えていたんだろう。

 アルクは、あるブースの前で、ピタリと足を止めた。

「ここ」

 でも、記憶力は抜群でも、会話がうまいとは言えないアルクが、お店の人にうまく事情が説明できるとは思えない。

 ぼくにだって、できる気はしないけど……しかたない。

 売り場の店員さんたちは、つんとすましているように見えて、めちゃくちゃ話しかけにくい。

 どう見ても、ぼくたちはお客じゃないもんな。

「あ、あの、すみません。ここ、キラキラと似た香りのもの、ありますか」

「キラキラ?」

 店員さんの眉間にしわがよる。

 ガラスケースのなかを見ると、びっくりするくらい高い化粧品が並んでいる。

 

 キラキラは、小学生だって買おうと思えば買える値段のはずだ。

 ここのは、うちの母さんにだって買えない値段だ。

 母さん……その単語で、いい案をひらめいた。

「あのぉ、山手町4丁目の桐野といいますけど、母にたのまれたんです」

「ああ! 桐野様の? 息子さんもいらっしゃったのねえ。お嬢さんも気に入ってくださっている、いつものパフュームでよろしいかしら」

 と、小さなびんの入った箱を出してくれる。

「言われてみればたしかに、キラキラをつけていると勘ちがいされてしまうって、買うのをやめる方もいらっしゃって……。あら、私、ぼっちゃん相手になにを言っているんでしょう」

「あ、ぼくお金を忘れてきたみたいです。またあとできます。すみませんっ」

 アルクの手をひっぱって、化粧品売り場から走り去りながら。

 ぼくの頭の中で、霧のようだった真実が、ぼんやりと形になっていくのを感じた。

 

<第4回に続く>

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