床上60センチのゴミの上で毒親と暮らした日々。東京藝大&東大に合格した主人公が過去と向き合うマンガ『なんで私が不倫の子』
公開日:2024/3/14
“毒親”とは昨今よく聞かれる言葉ですが、その背景は子どもの主観でしかないものからハードなものまで様々です。本書の著者であるハミ山クリニカ氏は東京藝大に合格するも中退し、東大を受験し直して合格します。その経歴だけを見たら、多才さに驚くばかり。しかしそんな輝かしい経歴も、本人は母親に従ってしまった結果だと捉えています。そんなハミ山氏が自分の生い立ちと、その理由に気づき自立するまでをまとめたのが『なんで私が不倫の子 汚部屋の理由と東大の意味』(ハミ山クリニカ/竹書房)です。
ハミ山氏は母とのふたり暮らし。父とは、ふたりの家を父が訪ねてきたり、ふたりが週末に父の家に行ったりという距離感で暮らしています。なぜならタイトルにもある通り、ハミ山氏は母と父が不倫の末にできた子どもだから。ハミ山氏はその事実を大人になるまで知らずに過ごしました。
小学生までは父が自宅に来る機会が多かったこともあり部屋の中は普通でしたが、中学生になってだんだん父が訪れる頻度が減っていくと、家の中は乱雑に。ついにはゴミの上に布団を敷く、立派な汚部屋になってしまっていました。
加えて、ハミ山氏の交友関係にケチをつけたり、学校で出される課題にも頼んでいないのに手を加えたりと過干渉気味な行動も。その上難癖をつけてハミ山氏を追い詰め、自分の行いを正当化します。
本書のすごいところは、ハミ山氏が当時の自分が置かれた状況を冷静に振り返って分析できているところ。例えば汚部屋については、その原因は「物にまつわる思い出を手放せないところにあることが多い」と知り、「母にとって一番幸せだった時期は父が頻繁に家を訪ねていた時期であり、そのときの物を手元に置き続けることで、母は幸せだった頃のまま時間を止めようとしていたのではないか」と考えます。そして母が課題に手を加えていたことについても、「その課題が評価されることで、自分が評価された気になっていたのではないか」と分析するのです。
面倒ごとを避け続けた父と、子どもを感情のはけ口にすると同時に、自分の現状を打開する手段として捉えていた母。ハミ山氏はふたりのことも次第に冷静に捉えられるようになり、やがて自立の道へと進んでいきます。その姿には頼もしさが感じられ、読後感が良いのも本書を薦めたい理由です。しかしそんな前に向かって進んでいるように見えるハミ山氏でも、劣等感を抱く場面は多々訪れるのです。例えばハミ山氏は「外で地面に物を置いたら汚い」という感覚がありませんでした。
度々指摘されているうちに、自分の行為が常識外れであると認識し、恥ずかしくなります。これからも様々な場面でこれと同じようなことが起こるのだろうと思うと、やはり家庭環境は一生つきまとうのだなと、読んでいて感じました。
子どもにとっては自分の家庭で行われていること=常識になってしまうこと。子どものためを思ってした行動でも、行き過ぎれば子どもの未来を奪うこと。本書は極端な例ではありますが、親子、そして家庭について考えさせられる一冊でした。
文=原智香