“心の病気”と“体の病気”当事者たちの対談。発達障害当事者と、難病・潰瘍性大腸炎患者の2名による『当事者対決! 心と体でケンカする』

文芸・カルチャー

公開日:2024/2/24

当事者対決! 心と体でケンカする
当事者対決! 心と体でケンカする』(頭木弘樹、横道誠/世界思想社)

当事者対決! 心と体でケンカする』(頭木弘樹、横道誠/世界思想社)という面白いタイトルの本を読んだ。

 著者の横道誠さんは発達障害の当事者で、頭木弘樹さんは潰瘍性大腸炎という難病の当事者。ともに近年人気の著述家であり、自身の病気や障害についての著作がある点も共通点だ。

 そんな「心で困っている人と、体で困っている人」である2人が、往復でインタビューする形で本書は構成されている。タイトルは、「心が病気の人と体が病気の人は、互いに『相手の病気のほうがまし(自分のほうが大変)』と思いがちなので、当事者同士が議論を戦わせたら面白いのではないか」という頭木さんの考えから生まれたものだそうだ。

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 ただ、読んでみると、“プロレス的”に議論を戦わせて面白く見せる本……というわけでは決してなかった。

「そもそも発達障害とは病気なのか、障害なのか」
「自分が『他の人と違うな』と感じたのはいつ頃か」
「自分が突然『難病患者』になる経験はどのようなものだったか」
「手術を経てから食事の内容はどう変わったのか」

 ……といった形で、2人は素朴な疑問を率直にぶつけ合う。その回答として各々の病気や障害の基礎知識をサラッとは説明されるが、会話の内容は個人的な体験、当事者ならではの意見が中心だ。

『サザエさん』や『ドラえもん』などの漫画のキャラクターには発達障害っぽい人が多く、「マンガの中には『仲間』がいる」と感じていた……という話。

 発達界隈を含む「メンヘラ(メンタルヘルスに問題がある人)界隈」では、発達障害の女性が主人公の作品に登場する、「理解のある彼くん」が憎まれがち ……という話。

 外で漏らしたときの対策として生理用品をつけて外出したことで、女性への尊敬が増した……という話。

「同情されたくない」「同情されるとプライドが傷つく」とか言う人には「なんてハイレベルな話をするんだ」と感じてしまう。自分の場合は人の同情がないと生きていけない……という話。

 このようなエピソードが数多く登場するので、本書は病気や障害がテーマの本であっても重々しさはないし、教科書的な堅苦しさもない。一冊を読み通すと、発達障害や潰瘍性大腸炎のことがその大変さも含めて色々と分かるようにはなるのだが、同時に“読み物として非常に面白 い本”にもなっているのだ。

 なお、病気や障害の当事者に素朴な疑問をぶつけ、率直に答える……というのは、自分がインタビュアーになったことを想像しても、そう簡単なことではない。それが本書で成立しているのは、2人が“当事者同士”であると同時に、互いが互いの著作のファンであることが大きいだろう。

 そのため2人の議論はまったくケンカになっておらず、同じように感じる部分では共感し合 って喜び、違うように感じる部分では、その違いを面白 がっている。

 本書には、自閉症を「脳の多様性」と考え、「欠損状態」と考えずに「独自の文化を生きている状態」と考える運動が広まっている……という話が登場する。それを引き合いに出 して、潰瘍性大腸炎にもダイバーシティがある(病状に個人差が大きい)という話も出てくるし、潰瘍性大腸炎や過敏性腸症候群の人たちの「漏らし文化圏」があってもいい……なんて話も飛び出す。

 当事者同士が時に面白 がりながらも繰り広げる本書の議論は、世の中で流行語のように連呼されている「多様性」というものを今一度深く考えるうえでも、非常に意義深いものになっている。

文=古澤誠一郎