アライグマを逃がしてしまうと罰金は1億円!? 大小さまざまの動物たちはいくらで飼育できるのか、獣医が妄想してみた

文芸・カルチャー

公開日:2024/2/24

妄想お金ガイド パンダを飼ったらいくらかかる?
妄想お金ガイド パンダを飼ったらいくらかかる?』(北澤功/日経ナショナルジオグラフィック)

 十数年前、東北のとある温泉に行った時に裏庭でツキノワグマを2頭飼っていると聞いて見せてもらったことがある。その温泉の主人は有名なマタギで、「幼い子熊のいる母熊を仕留めてはいけない」というマタギの掟を破ってしまったために2頭の子熊を自宅で引き取ったそうだ。裏庭には鉄製の二重の檻があり、目立つところに特別飼育許可のプレートが掲示されていた。すでに成獣となっていた大きなツキノワグマは小さな瞳を見つけるのも難しいほど黒々としていた。そして檻の中の熊の姿を見た時に真っ先に思ったのが「餌代いくらかかるんだろう?」ということだった。

 そんなことを思い出したのは『妄想お金ガイド パンダを飼ったらいくらかかる?』(北澤功/日経ナショナルジオグラフィック)を読んだからだ。

 ジャイアントパンダやライオン、キリン、ペンギンや象、そしてサイなど、普通では飼うことができない様々な動物たちを、実際に一般家庭で飼ったとしたらどのくらいのお金がかかるのか? また飼育に必要な環境や世話のしかたなどを現役の獣医師である著者が解説している。

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 たとえば1980年代に人気を博したアニメ『あらいぐまラスカル』で、スターリング少年に育てられたラスカルの愛くるしいキャラクターが印象的なアライグマ。この可愛らしい動物を飼うのには1日700円程度で済むという(本書に掲載されているネコやイヌよりも安い!)。雑食なので人間の食材を分け与えるだけでOKとかなり安く飼うことができる。実際にアライグマを見ればぬいぐるみのような可愛らしい姿なのだが、しかし実はとても凶暴らしい。

 1980年代にアライグマブームが起こり(もちろん発端はわかりますね?)ペットとして飼う人が急増したが、アライグマの気性の荒さが原因か、多くの飼い主が飼っていたアライグマを逃がしてしまい野生化してしまったという。現在の日本ではアライグマは害獣となり特定外来生物に指定され飼育も禁止されている。そんな手頃な費用で飼うことができる(もちろん妄想ではあるが)アライグマだが、特定外来生物に指定されていることで逃がしてしまうと個人の場合は300万円以下の罰金、もしくは3年以下の懲役。またそれが法人となると最大1億円もの罰金が科せられる。飼うのにコストは低いがリスクが高い、それがアライグマなのである。

 また意外にもカバよりも馬よりも費用のかかるのがコアラである。なんと1日2万6500円もかかる。その理由は餌代で、コアラはユーカリの葉しか食べないからである。本書ではそんなコアラを飼育するにあたって、まずはユーカリの木を植えるための温室の準備に数千万円。温室を維持するために月10万円。樹木の上で生活するコアラの飼育場として木を10~20本ほど設置して100万円。そしてコアラは感染症に弱く、衛生管理や医療費等で月3万円。こうしてコアラを1ヶ月飼うと約79万5000円かかるのだ。ここまでしてもコアラは人間になつくことなく、コアラが愛するのはユーカリの葉だけなのがつらい。

 そのほか、ツキノワグマを飼うのは案外安いことにも驚いたり、もっともお金のかかる動物には意外な費用が発生していたり…人と暮らす動物の実情を理解できるのはとても楽しい。

 そして金銭的な負担がもっとも少ない動物の飼育方法は、「飼い主が動物たちの健康を第一に考え、病気に罹らないように世話をすること」というのも獣医師の著者ならではの説得力である。

 野生動物を飼うための金額を知ることで、多くの動物たちが本来暮らしていた「自然」がそれらのコストを担い、あらゆる生物を包み込んでいることに改めて気付くことができる、本書はそんな学びの多い一冊なのである。

文=すずきたけし