“中受親の塾”になるハウツー本。 中学受験を控える子どもをサポートするために、親も学ぶことがある

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公開日:2024/2/17

子どもを壊さない中学受験
『子どもを壊さない中学受験』(ボーク重子/KADOKAWA)

 2月に入り、中学受験シーズンも終わりを迎えつつある。SNSでは「合格!」という喜びの声と共に桜の花の絵文字を満開にしたつぶやきを見かける一方で、「不合格で否定された気持ちになっている子どもにどうやって声をかけたらいいか」と苦しみを吐露する親のつぶやきも見受けられる。親子で合格に向けてマラソンのような長い道のりを、全力で走ってきたからこそ、「合格」「不合格」のふたつしかない結果のどちらかを受け入ればければいけない事実は厳しいものだ。実際、中学受験をする子どものうち第一志望に合格できるのは3割で、残りの7割は志望校に受からずに受験を終えることになる。でもその7割の子は果たして“敗者”なのだろうか?

中学受験シーズンも終わりを迎えつつある
※画像はイメージです (C)Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

 非認知能力育成のパイオニアであるボーク重子は著書『子どもを壊さない中学受験』(ボーク重子/KADOKAWA)の中で「最低1年、長くて3年も(中学受験の勉強を)続ける子どもが『敗者』であるわけがない! やり抜くだけで立派な『勝者』だとしか思えない」といい、さらに、「それを支える親もやはり『勝者』だと思う」と話す。

 中学受験に向けて子どもは学力をあげるために塾へ通う。しかし親はどうだろう。伴走する親には、中学受験に向けて塾で頑張る子どもの学びが最大化するように、そして厳しい受験期間を乗り越えられるように精神面・健康面でサポートするハウツーを教えてくれる塾はない。そんな親にとっての塾の役割を果たしてくれるのが本書だ。

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「合否をゴールにするのは塾。親は中学受験のプロセスの合格を目指してほしい」とボーク氏は本書で語る。認知能力(=学力)を伸ばすのは塾の役目で、その認知能力を支える非認知能能力(=生きる力)を伸ばしてあげるのが親の役目。塾と親がそれぞれの強みを発揮すれば、中学受験を通して子どもも親も学びと成長を感じられる“プロセスの合格”になるというのだ。つまり親は中学受験を終えても、まだ子どもたちが対峙していかなければならない厳しい世界に対応できる、“生きる力”を身につけさせることができる唯一の存在で、中学受験を通してそのプロセスを親子で共有できれば、“真の勝者”になれると伝える。

 本書は「合格することだけをゴールにしない」よう、まずは中学受験のメインの伴走者を担う親(多くの家庭では母親)、次にパートナーと一緒に、そして最後に子どもを含め家族全員で非認知能力の育み方を学びながら、意識を改革するワークが3週間でできるようになっている。3週間でボーク氏から提案される課題は「親子喧嘩を減らすために、子どもに○○と言うのをやめましょう」「宿題と復習をこなすためにこのようなスケジュールで動きましょう」というようなものはない。確かに親にとっては問題に直面しているのだから、その問題に対応できる策を知りたいところだろう。しかし、著者の投げかけてくれる数々の問いは「なぜ家族で中学受験を目指したのか?」という本質を思い出させてくれる。そう、「子どもに幸せになってほしい」という思いがベースにあったということを。

 まだランドセルを背負う子どもにとって「合否」という2択の結果は、時にずっしりと重い荷物になることもあるだろう。でも、それをこれからの幸せな人生へのステップとして捉えられるようになるきっかけを本書は教えてくれる。今年の中学受験者の合否が呟かれる裏で、新6年生とその親たちが気持ちを新たに受験に向けてスタートダッシュを切った。来年、どんな切符を受けとったとしても子どもも親も笑顔で「よかった」「大変だけど楽しかった」と言える日々となるため、まずは3週間のワークの取り組んでみるのもひとつかもしれない。

文=知野美紀子