極度のお人よし×元アイドル大家の訳アリ女子2人の共同生活。ゆるりとした日常を描く社会人百合コミック
公開日:2024/3/18
ひとりで暮らしていくことはできるけれど、誰かと一緒にこの日常を共有できたらもっと楽しいにちがいない。
『毎月庭つき大家つき』(ヨドカワ/KADOKAWA)は、都心から少し離れた庭つき一戸建てを舞台に漫画編集のアサコと元アイドルの大家さん・ミヤコが一つ屋根の下で暮らす日常を描いた作品だ。
漫画編集の仕事をするお人好しのアサコは、ある日、同棲していたパートナーに出て行かれてしまう。心機一転ひとりを謳歌しようと引っ越すことを決意するが、内見して気に入った庭つき一戸建ての家は、屋根裏部屋に大家さんが同居する「大家つき」物件だった…!
何かの拍子に赤の他人が同居したりお隣さんになったりすることから始まる物語は恋愛ものでは王道だが、この作品の登場人物は情報量が多く、恋愛もの、となるかはまだ分からない。片方は元アイドルで大家、片方はパートナー運のないお人好し。年齢は少し離れているが、大家には生活能力があまり無い。アンバランスなふたりが出会い、始まったその生活に目が離せなくなる。
面食いなだけでなく、極度のお人好し属性も持ち合わせるアサコ。身の上話を聞き、圧倒的に顔が良いミヤコのお願いを断りきれず、共同生活を開始してしまう。
必要以上に関わらないと決めたはずなのに、何かとミヤコが気になって世話を焼いてしまうアサコ。朝ごはんを作ったり、ストーカーにミヤコの素の姿を見せるため一緒に出掛けたり…。
でも、元アイドルのこんな幸せそうな表情を見たら、お人好しでなくてもなんでもやってあげたくなってしまうし、世話も焼きたくなってしまうだろう。完璧なアイドルだったミヤコはもちろん魅力的だが、素のミヤコも魅力的で可愛くて、意外と子どもっぽい部分もある。アイドルだった頃のミヤコを知らないアサコと出会ったからこそ、ありのままの自分をさらけ出せているミヤコは表情豊かで本当に可愛い。こんな大家なら屋根裏に住み着かれてもいいと思ってしまうだろう。
1巻には、4人の女性が登場する。アサコとミヤコの2人の共同生活を見守るのが、アサコの担当漫画家・鳩森さんと、ミヤコの祖母・マツバちゃんだ。
鳩森さんは、人気アイドルグループ「エルム」のミヤコ推しの漫画家。長年の担当編集であり、パートナー運が悪いアサコを何かと心配してくれている。面食いなアサコにアイドルのミヤコのことを教えてくれたのも鳩森さんだ。
ミヤコとアサコが暮らす一戸建ての平屋は、そもそもミヤコの祖母であるマツバちゃんの持ち家。高級外車を乗り回すマツバちゃんは、女性としてかっこよすぎる強烈なキャラクターだ。ある日突然、一戸建てを訪問したマツバちゃんは、ミヤコが大家としてアサコと共同生活していることを知り、心配して大阪に連れ帰ると言う。
アサコもミヤコも、お互いを必要としながら楽しく自分らしく暮らしていることを知り、ここでの暮らしを認めてくれるマツバちゃん。孫の幸せを願う、すてきな女性だ。
日常を二人で楽しみながらお互いのことを少しずつ理解していくアサコとミヤコがほほえましく、この日常がずっと続いてほしいと思わずにはいられない。アサコがミヤコに対して特別な感情を持っているのか、ミヤコがアサコに対して心を開いているのは特別なことなのかは1巻ではまだ分からない。このまま姉妹のように日常を過ごしていくようにも思える。
ただ一つ、お互いのありのままを尊重し合っているからこそ、伸び伸びと無理せずに調和を保ちながら生活できているということが伝わってくる。コミックスは4巻まで発売中。二人のこれからの関係がどう変化していくのか、ゆるりとした日常を見守りたい。
文=鈴木麻理奈