どうして給食には、ごはんの日にも絶対「牛乳」がつくのか? “給食バカ”と呼ばれる学校栄養士が語る給食の秘密

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/15

給食の謎 日本人の食生活の礎を探る(幻冬舎新書)
給食の謎 日本人の食生活の礎を探る(幻冬舎新書)』(松丸奨/幻冬舎)

 大人になった私たちが小学生時代を思い出すときに、きっと浮かんでくるシーンの一つが「給食の時間」。余ったチーズデザートを賭けたじゃんけんで勝ったいい思い出、飲み込みにくいパンを牛乳で流し込もうと頑張るものの時間が足りず掃除の時間も食べ続けた苦い思い出…人によって様々な思い出がありそうだ。

 小学校の学校栄養士として15年勤務し、“給食バカ”と呼ばれるくらい給食の研究等に人生を捧げてきた著者による『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る(幻冬舎新書)』(松丸奨/幻冬舎)は、給食を取り巻く状況やトピックについて、様々な角度から解説している。本書は冒頭で、戦後以降に生まれた世代で日本の小学校に通った誰もがひとこと語りたくなるテーマ、それが給食だという。背景には、自分の経験を語ることができ、しかも地域差・世代差が存在することが挙げられる、という。

 しかしながら、給食についての正しい情報は意外にも広くは知られていない、と本書。例えば、誰もが一度は思ったことがあるだろう「なぜ給食の飲み物は主食がごはんの時でも必ず牛乳なのか?」。日常的にごはんと牛乳を出す家庭は少ないだろう。しかし、こと給食に関してはごはんでも牛乳が付く。違和感を覚えながら飲んだ小学生時代が思い出される素朴な疑問だ。

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 本書いわく、全国の栄養士も子どもたちが「牛乳は和食に合わない」「給食ではなぜ牛乳を毎日出すのか」という意見や疑問をもっていることは理解している。しかしながら、学校給食の献立の根拠となるルールとして、文部科学省が定める「学校給食摂取基準」があり、このカルシウム値、また「標準食品構成表」で規定される牛乳の必要量のどちらも、飲用牛乳がなくては達成できないのだという。

 この仕組みには背景があるそうだ。戦後の学校給食のスタンダードとなった「完全給食」は主食・おかず・ミルクで構成されることとなっており、ミルク(牛乳、学校給食法が施行された時点では脱脂粉乳)を飲むことを前提として栄養素や食品摂取量の基準値が算出されている。ちなみに、飲用牛乳以外で栄養価の基準値を満たす場合、毎日一人当たり小松菜1束、あるいはちりめんじゃこ1パックを食べる必要があるらしい。しかし、現実的には小松菜に置き換えると予算がパンクし、ちりめんじゃこではタンパク質や塩分が一瞬で基準値をオーバーするという。「どうやっても牛乳がなくては成立しない、牛乳ありきの摂取基準になっているから」というのが、このクエスチョンへのアンサーとなる。ちなみに、ある地域では牛乳を2時間目と3時間目の間の20分休みに飲んで給食の時間は水を飲む、という取り組みをしたところ、急いで牛乳を飲んで休憩時間に遊ぶため吐く事例が出たり、温度管理、衛生的な観点などの問題もあったりして、廃止されたそうだ。

 パンなら牛乳に合いそうだ。昔は毎日パンが出た、と令和の子どもに伝えると「うらやましい!」「いいなあ!」と言うのだそうだ。本書によると、昭和時代は学校給食の実施に深く携わったGHQが小麦を援助した、大型炊飯器を各校に設置する費用がなかった(パンなら工場で一気に焼ける)、重量が軽いのでごはんよりも配送しやすい、などの理由で毎日パンが出た。しかし、私たち大人にとって、学校給食のパンは必ずしも美味しいものではなかった記憶があるとおり、当時の給食パンは味や香りが乏しく、パサついて飲み込みづらく、単体で食べることが難しいものだったと本書は述べる。今の給食パンとは雲泥の差があったのだ。

 本書は、給食について、その国の大人が子どもたちをどれくらい大切にしているのか、その映し鏡である、と述べる。給食から時代や社会が見えてくる。

文=ルートつつみ
@root223