「明日は明日出会う何かによって形成されていく」。“オチビサン的”な生き方

内田：私自身は、できあがってきた曲には感動しかなかったです。ちょうどギリシャにいたんですけど、エーゲ海の波の音を背景にしながら、なんて心地がいいメロディだろう……と。こんなに素敵なプロジェクトに参加させていただけるなんて本当に幸せだ、って思いました。私の人生って、いつもこういうふうなんです。海にぷかぷかと浮かんでいたら流木が流れてきて、コツンと当たったものになにげなく掴まってそのまままた流されていく、みたいな。結婚も、子どもを産んだことも、外国に住み始めたことも、何一つ計画性がない。仕事も「これやってみて」「なんか書いてみたら」って言われてたものになんとなく乗っかってみたら、どんどん膨らんで仲間が広がって……。

森山：そういう人ほど数奇なめぐりあわせを引き寄せる力が強いんですよね。僕はどちらかというと自分から「お願いします！　これがやりたいんです！」って主張していくタイプだから（笑）。今回の『ロマンティーク』も、也哉子さんをはじめ、僕が会いたい、一緒に仕事をしたいと思っていた人たちをみずから手繰り寄せていますから。也哉子さんみたいな行雲流水的な生き方は理想。僕は我が強いので。

内田：強いの？

森山：強い。こういう作品をつくりたい、こういうテーマに挑戦してみたい、という好奇心が創作の原動力でもあるから。強い我と対峙しながらなんとかやってきた、という感じですね。だからときに身の丈に合っていないと感じる曲をつくるときもあるんだけれど……。ただ今回は、いつもと違って細かいビジョンを決めずにつくっていたところはあると思う。モヨコさんの原作がポエジーで、也哉子さんの言葉がたゆたうようなものだったから、僕自身も無の境地に身を任せるつもりでやってみよう、と。僕の考えやイメージを強要するような曲になったら、共作する意味がないですからね。

――それは、心地よかったですか？

森山：心地よかったですし、発見もありました。自分が想像しても追いつかないものや、自分がすでに知っている感覚を曲にしなくてもいいんだ、と思えた。どうしても自分の型にはめてしまって苦しくなる瞬間があるから、それを手放して行こうぜって思えたのは、『オチビサン』の世界観と也哉子さんの歌詞がそういうメッセージを内包したものだったからでもあるでしょうね。

――逆に内田さんは、流されていくことに不安はないのでしょうか。

内田：私は生まれた時から自由を与えられすぎていて、何もかも自分で選ばないといけなかったんです。ある程度の規則で縛られて、こうしてくださいって指示されたほうがよっぽど楽だと、子どもの頃から思っていました。そうしていろんな荒波に揉まれた結果、抗っても抗わなくても同じなら、エネルギーを温存して生きていこうって思うに至ったのかも（笑）。あと、何か表現することも好きなんですが、自分が今これを表現したい、しなければならない、みたいに思ったことが一度もなくて。エッセイを書くのも、19歳の時に出会った人が私の書いた手紙を読んで、原稿用紙とモンブランのシャーペンを贈ってくださり、「ちょっと書いてみて」と言ってもらったところが始まりで。いつも他力本願というのかな……。

森山：他力本願ではないでしょう。それは「これが欲しいけど自分で動くのはいやだから、誰かちょうだい！」ってやつ。でも也哉子さんには「願」がない。

内田：あ、そっか。言われてみれば「願」をしたことはないかも。「そんなこと、ありなんですか？」っていつも驚いている感じ。結婚も「まだ恋愛もしたことないのに結婚するなんてアイデアがこの世にはあるんだ」ってところから始まったから。いつも何かが訪れて、それを受け入れることによって自分にもたらされるものの意味を、後付けで知っていく。その繰り返し。とろいから、考えるより先に何かが漂着しちゃうんだろうなあとは思うけど、怖くはないかな。

森山：それは元々の気質なのか、ご両親の生き方を見て培われたものなのか……。

内田：両親はそれぞれに個性が強烈すぎて、欲しいものが明確だったんですよね。父にとってはすべての道がロックンロールに繋がっていて、母も役者道にまっしぐらだったから、私なんか「あ、いたの？」って感じで育ちましたから。そういう環境で育てば、自分はこうあるべきとか、こうしたいって思いそうなものなのに、思わなかったんですよねえ。今、この瞬間のことしか頭にないの。明日は明日出会う何かによって形成されていくだろう、って。本当に、空白の状態を繋いで生きてきた。

――それもまた『オチビサン』的ですね。

森山：ああ、そうかも。

内田：あんなにも素敵な感じで、季節のうつろいに目を向けて、ドキドキワクワクできてはいませんが（笑）。そういえば、ある人が言っていました。人は過去に起きたことで思い悩んだり、未来を心配したりするけれど、過去も未来も何もしてくれない。今この瞬間しか、自分が確かに頼れるものはないんだよ、って。本当そうだなと思いました。私も、もうちょっと目標を持って生きなきゃ、と悩んだ時期はあるんです。夢に向かってまっしぐらに生きる人たちの輝かしさに対し、なんなんだ自分は、なんにもないじゃないかって焦ったりもした。でも、今この瞬間の積み重ねがたまたま過去であったり、未来に繋がったりするんであれば、もういいやって思ったんですよね。

森山：受け入れ力がすごい。そんな也哉子さんに書いてもらったからこそ『ロマンティーク』をつくることができたと思います。本当に、ありがとうございました。

取材・文＝立花もも　撮影＝金澤正平

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