第9回「忘却バッテリー」/鈴原希実のネガティブな性格がちょっとだけ明るくなる本
更新日:2024/10/21
あなたにとって「1番大切なもの」はなんですか?
そう問われたときに答えるもの。
それはあなたの人生の軸になっているものだと思います。
では、もしそれを忘れてしまうとしたら…。
それはきっと尋常ではないほど耐え難いことのはず。
今回紹介する作品は「忘却バッテリー」。
タイトルにもある通り、忘却がテーマになっています。
かつての中学野球界で誰もが恐れた最強バッテリーである清峰葉流火(きよみねはるか)と要圭(かなめけい)。
数多の強豪校からスカウトを受けていた彼らが進学したのは、何故か野球部すらない無名の高校だった。
そして最強バッテリーの一角である切れ者捕手の智将・要圭は、記憶喪失になり野球の知識を失っていた。
そんな中、かつて彼らに敗れ野球を辞めていった天才たちが偶然にも同じ高校に集結して…。
思いがけない偶然により再会した天才たちは、再び野球への道を歩み始めるというストーリーです。
このあらすじだけ聞くとシリアスな物語なのかな?と思われるかもしれませんが、この作品はかなりギャグシーンも多く、明るくポップに物語が進んでいくのが特徴です。
例えば、切れ者捕手の智将・要圭が記憶喪失であることが発覚するというシリアスになりそうな場面も、要圭のおとぼけ顔のアップで告げられるなど。
あまりシリアスになりすぎずに読めるというのもこの作品の魅力だと感じます。
そんなギャグテイスト多めなこちらの作品なのですが、挫折などの描写が凄くリアルに描かれているという側面もあります。
特に藤堂葵という遊撃手(ショート)のポジションを務めるキャラクターがイップスに苦しめられる回は、野球をやったことのない私でも思わず苦しくなってしまうような現実味のある描写でした。
イップスとは今まで自動的にできていた運動が、コントロール出来なくなることなどを指します。
そして藤堂は、遊撃手でありながら一塁への送球が上手く出来ないというイップスを抱えていました。
自分がこのポジションに居てはいけないのかもしれないと悩む藤堂。
そもそもイップスになってしまったきっかけは
中学時代の試合で一塁へ暴投をしてしまったこと。
それがきっかけで一度は野球から離れてしまったほど傷は根深く、もう治せないかもしれないと諦めていたとき、野球の知識がゼロになってしまった要圭が「ワンバウンド送球」を提案します。
これは遊撃手にとっては苦しい選択でしたが、藤堂は試すことを決意。
そして周りのサポートを受け練習を重ねた藤堂は、見事ワンバウンド送球を成功させ、イップスを克服します。