もんじゃ屋店主・ジャンポケおたけ 月島もんじゃ振興会会長に会いに行く/おたけの連載「おたけ、もんじゃ、ときどき芸人」
公開日:2024/3/5
もんじゃ屋と芸人の二刀流で活動するジャングルポケットのおたけさんが、もんじゃと月島の魅力を伝える連載「おたけ、もんじゃ、時々芸人」。街歩きレポ、縁のゲストとのトークレポ、エッセイなどを通して、様々な角度からお届け。
第1回目のトークゲストは、月島もんじゃ振興会協同組合の理事長松井勝美さん(「バンビ」店主)と、副理事長の小金沢晃さん(「一樹」店主)。
月島もんじゃ振興会は、東京都中央区にある月島地区のもんじゃ屋が集まり結成した組合で、現在50店舗以上が加盟。「月島=もんじゃ」のイメージを確立した立役者とも言える存在だ。
おたけさんは「月島やもんじゃのことを語る上で、避けては通れない人たちです」とお二人を指名。「一樹」さんの店舗をお借りし、三人で鉄板をぐるりと囲んで始まった月島・もんじゃ談義は「月島には喋りが立つ人が多いんです。昔ながらの江戸っ子みたいに、口は悪いんですけど、面白い方が多いんです」というおたけさんの言葉通り、終始賑やかしい雰囲気で繰り広げられた。
月島もんじゃの影の立役者は「ブルドックソース」
おたけ:僕が子供の頃は、月島がもんじゃの街というイメージはありませんでした。でも「上州屋」さんが子供たちに振る舞う「100円もんじゃ」は有名でしたよね。
理事長・松井勝美さん(以下、松井):「上州屋」さんは駄菓子屋のもんじゃを少し高級にしたものだったんですよ。駄菓子屋のもんじゃは5円、10円だったけど、「上州屋」さんは100円でやっていて。我々はそれより高いもんじゃを出していたけど、そこは安かったので、子供たちがよく行っていましたね。名物女将もいてね。
副理事長・小金沢晃さん(以下、小金沢): もんじゃを広めた方とも言われていますよね。
おたけ:「バンビ」さんはどのくらい前からお店をやっているんですか?
松井: うちの店は1961年創業で、俺が継いだのは1973年ですね。今は三代目に任せて、私はもうほとんど隠居で、集金だけしています。
おたけ:集金役、いいですね(笑)。当時、何店舗ぐらいあったんですか?
松井: 俺が始めた頃は5店舗だったね。なくなった店もあるけど、「好美家」、「いろは」、「かぶき」、「さんたろん」、そして「バンビ」。
小金沢:「近どう」さんはまだなかったんですか?
松井: 「近どう」さんもあったけど、駄菓子屋でしたね。子供たち向けに大きな四角い鉄板でもんじゃを焼いてました。当時は5円、10円くらいで、汁を薄くのばして焼いた、おせんべいのようなものだったんですよ。
おたけ:すごいっすね。僕は生まれる前なんで、全然知らなかったです。「一樹」さんはいつからですか?
小金沢: 1999年創業です。ちょうどその頃から商店街にもんじゃ屋が増え始め、他の業種からもんじゃ屋になる店が多くなりましたよね。
松井:私は月島生まれ、月島育ちでね。年齢はあまり言いたくないんだけど、70年以上生きています。なので月島のことは大体知っていますけど、もんじゃがこんなに有名になるとは思ってもみませんでした。
でね、月島のもんじゃがなぜ栄えたかというと、マスコミの人が取り上げてくれたのと、あとは我々の組合ができたのは1997年なんですね。
ちょうどその頃、運がいいことにブルドックソース株式会社さんから「もんじゃのお土産を出したい」って声をかけていただいて、「月島もんじゃ焼」(※)を一緒に作ったんですよ。(※1997年「月島もんじゃ焼」を月島もんじゃ振興会と共同開発・発売)ブルドックさんは販売網をいっぱい持っているでしょ。だから我々も戦略的にパッケージの裏に全部屋号を入れて、いろんなところで販売してもらって。それで結構知名度が上がりましたね。それから1988年には地下鉄ができて……。
おたけ:最初から飛ばしますね(笑)。理事長は本当に話が止まらないんですよ。
松井: ストップしないとね、俺は止まらないんだよ。
おたけ: 大丈夫、いいところで止めますから(笑)。
松井:それでね、1988年に有楽町線ができて、2000年には大江戸線が通った。
おたけ: 交通の便が変わると、客足が全然変わりますよね。
松井:あとは戦略的に宣伝広告、マスコミの取材も受けたんですよ。「出没!アド街ック天国」に4回も出たりね。その恩恵がありましたね。酒屋さんがもんじゃ屋になったり、床屋さんがもんじゃ屋になったり、一気に店舗が増えて。
おたけ:90年代に急激に増えたイメージですよね。「竹の子」の創業もその頃かな。僕が高校生のときにできて、今25年くらい。元々うちはおじいちゃんが大工で、工務店をやっていました。前の店舗があったところが倉庫だったんですが、工務店を辞めるってなったときに、何か商売を始めようってなって。それで月島だからもんじゃ屋になったんですよ。
長屋文化が育んだ義理人情
おたけ:月島はタワーマンションが建ったり、道路が整備されたりして綺麗だし、でも路地は昔ながらの懐かしい雰囲気があっていいですよね。理事長は月島の魅力ってなんだと思いますか?
松井: 月島の魅力はやっぱり、義理人情ですよ。昔は長屋だったから、人間関係が濃いんですよ。幼少の頃なんかは、長屋の隣のおばさんがおにぎりを作ってくれてね。どの家にも入れてもらえたんですよ。泥棒でも何でも入れる感じの長屋でした。
おたけ:確かに人間関係の濃さはありますよね。昔は月島駅に行くと知っている人しかいなかった。今はいろんな人が使っていますけど、当時は本当に、地元の人しか使ってなくて。大人はもちろん、子供たちの間でも先輩後輩みたいな上下関係があって。まさに義理人情、ずっと関係性を大事にしてる街ですよね。
松井:今は新しいタワーマンションがたくさん建って、住んでいる人も半分ぐらい変わってしまって、全然違うんですけどね。
おたけ:でも周りに聞いてもタワマンのイメージはあまりないみたいです。もんじゃのイメージが強い。
月島もんじゃ振興会のメインミッションは集客
松井: おたけさんのお店は、お客さんがあれだけ入っていてすごいですよ。開店前から並んでいるんだから。今は一人勝ちみたいなもんですよ。どんどん店舗増やしてくんじゃないですか?
おたけ:いやいや、そんなことないですよ。
松井:それ以外の店は、今はやっぱりネットに強いところが集客できているよね。でも自分みたいなじいさんは「味と暖簾」が大事だと思っています。ネットじゃないと思っている。でもそれじゃもう時代遅れなのはわかっているんですけどね。どんどん取り残されていっちゃう。
おたけ:今、月島にもんじゃ屋は何店舗あるんですか?
松井:90店舗ですね。振興会ができたときに言っていたのが、「月島の中まで呼ぶのが我々の仕事だ」と。中に入ってきたらもう戦場だから、あとはお店ごとで頑張ればいいんです。
小金沢: だから立地と情報戦略が大事ですよね。「どこに行っても味は一緒」と思っている人も結構いるので。
松井:素材が似ているからね。でも焼き方によって味は違いますよ。おたけさんがずるいのは、自分で焼いている。自分で焼けば美味しくなるんだよね。僕は一応稼動的には7:3ぐらいで芸人が多いんですけど、気持ち的にはもんじゃが7で芸人が3ですね。週3日は店にいますし、忙しいときはもっといます。
松井: もんじゃって、なかなか儲からないんですよ、本当に。だから俺は、芸人の方がいいと思っている。なんでおたけさんがもんじゃ屋をやっているのか不思議で。
もんじゃの食文化を月島から世界へ
おたけ:お二人とは今日みたいな真面目な話を意外としたことがなかったので、いろいろ聞けて嬉しいです。最後に、これからやっていきたいことを聞いてもいいですか?
松井:我々振興会は、集客を目的にできたので、これからも戦略的に月島に人を呼び込んでいきたいですね。おたけさんという有名人がいるので、うまく活用させていただきたいなと。あとは今インバウンドで外国人のお客さんも増えてきているので、もんじゃを世界の食文化にしていきたいですね。
でもイベント一つやるにしても関係各所との調整だったり、お金の問題だったり、いろいろありますから。補助金とか全然出ないからさ、企業さんに協賛してもらってね。そんな感じで力を合わせてみんなで頑張っていきますよ。
小金沢:街に来るお客さんもどんどん多様になっていますし、時代の流れによってニーズも変わっていきます。なので、その需要に応えられるように、お店自身が個性を出していくのが重要だと思っています。
個性というのは、お店のカラーを作ることですが、味に関しては子供の頃から刷り込まれているので、崩さない。我々の会員のお店はそれを守っているというか、目指していますね。とはいえ同じことだけやっていても差が出ないので、各々切磋琢磨して競い合っていきたいなと。
そして、やっぱり商店街の一員として名を連ねていますので、振興会の先頭に立って、子供たちのためにも様々なイベントを続けていきたいし、なくなったイベントも復活させて、もっと商店街を盛り上げていきたいですね。
そのためにはおたけさんの力がすごく必要で。商店街は入口のお店が重要なんです。そこが盛り上がっていると、商店街全体も活気づくので。でも、入口は意外と商売が難しいんです。お客さんはもっと先に良いお店があるんじゃないかと思って、なかなか入らないんですよね。
おたけ: 僕はまだ店に立つようになって1年ぐらいで、わからないことが多いんですが、良くも悪くもメディアに出る機会が多いので、集客の役に立てたら嬉しいですね。笑いをとるために、もんじゃのことを変な風に言っちゃうこともあるんですが(笑)。
でも、もんじゃってすごく面白い食べ物だと思うんですよ。意外と季節を問わずお客さんが食べに来てくれる。鍋屋さんみたいに、夏は厳しいってことはない。
松井: その中でも一番忙しいのはゴールデンウィークと、お盆ですね。おたけさんの店は年中並んでいるけど、普段列があまりできない店もその時期は並んでいますね。
小金沢: 修学旅行生も多いですよね。他の食べ物はどこでも食べられますが、もんじゃは月島に来ないとないですから。修学旅行生も喜びますよ。
おたけ: もんじゃって唯一無二ですし、季節も問わない。だから、もっと食として大きく認められて、ゆくゆくは日本食の代表として、寿司、蕎麦、天ぷらに次ぐ4番目にもんじゃが並ぶようになったらいいなと思っています。イベントなどを通じて、月島を盛り上げるとともに、もんじゃの知名度を上げていきたいですね。