学園もの、年の差恋愛、ツンデレ男子……恋愛マンガにはいくつかの要素があります。そしてその要素でしか得られないときめきがそれぞれにあるのが、恋愛マンガの素晴らしさなのです。そんな中で、オフィスラブ＆玉の輿＆ツンデレ男子＆超能力という多くの要素が詰まっているのが『エスパーな私が上司と結婚することになりまして』（東山和子/DPNブックス）です。

本作品を試し読み

　本書の主人公・梨原みのりは近くにいる相手の「心の声」が聴こえてしまう超能力者。そのせいで人とうまく関われず、孤独な日々を過ごしていました。しかしそんなある日、叔父であり自分が勤めている会社の社長でもある鈴宮に、上司の獅子塚と結婚するように言い渡されます。獅子塚は社内史上最速で出世したイケメンだけど、かなりの冷血漢。

　叔父からの提案ということもあり無下にはできず。獅子塚は仕事のため、みのりは叔父の顔を立てるため、偽装結婚を選択します。

　超能力と聞くと奇抜な展開を予想してしまいますが、本作の肝はみのりと獅子塚の繊細な心情変化と、揺れ動くふたりの関係。当初みのりは冷酷に見える獅子塚に苦手意識を持ちますが、何事にも真摯に向き合う人柄や、仕事に情熱を傾ける理由を知って好印象を抱くようになります。

　しかしふたりでいるのが心地良くなってきたのも束の間、みのりの超能力が獅子塚にバレてしまいます。嫌悪を示されると思い、家を出ようとするみのり。しかし獅子塚は「そんな能力俺にとっては利点しかない」と嫌がる素振りを見せず、みのりの能力を受け入れます。その上、誰かの本心を知ったとしても「それを利用する人間じゃないだろ」とみのり自身も受け止めてくれた獅子塚。今まで超能力がバレることで拒絶されてきたみのりにとってそれがどんなに嬉しいことだったか。読んでいるこちらも幸せな気持ちになります。

　自分でも気づかぬうちに獅子塚に思いを寄せるみのりですが、獅子塚はあくまでふたりの関係をビジネスとして捉えていると考え、モヤモヤ……。そんな中、元気で可愛らしい後輩・菊池がチームに入ってきます。

　菊池は考えていることと喋っていることがほぼ一緒。みのりは初めて出会ったと感じるくらい、裏表のまったくないタイプでした。心を読んでしまう心配のない菊池とはスムーズに打ち解けられたみのり。菊池もみのりのことが気になっていて、ふたりの距離はどんどん近づいていきます。しかし獅子塚はそんなふたりの様子が気になって――。

　菊池をけん制する獅子塚と、獅子塚の一挙手一投足に翻弄されるみのり。端から見れば好き同士なのにうまくいかないふたりにやきもきし、ちょっと距離が縮まるだけで顔を赤らめるみのりをからかう獅子塚の大人の余裕にキュンキュンし……。

　三角関係から自分の気持ちに気づくという王道展開になるかと思いきや、なんと獅子塚もとある秘密を持っていることが発覚。王道展開とまさかの展開、両方が楽しめるのも本作ならではです。

　現在も連載中の本作。ふたりの行く末はどうなるのか？　ぜひ続きを追ってみてください。

文＝原智香