『看守の流儀』で話題、このミス大賞作家の最新作。強盗犯を取り逃がし、娘が家出して公私ともに大ピンチ?

文芸・カルチャー

PR 公開日:2024/3/13

ダブルバインド
ダブルバインド』(城山真一/双葉社)

「正しい」と思うことは、人によって様々だ。生きていると、時々、自分が大切にしている正しさの価値が分からなくなることもある。

 そんな時、手に取ってほしいのが、己の正義を貫く刑事の姿に胸が熱くなる『ダブルバインド』(城山真一/双葉社)だ。著者は宝島社が主催する『このミステリーがすごい!』大賞で大賞を受賞した注目の作家。石川県の加賀刑務所を舞台にした、刑務官目線のミステリー小説『看守の流儀』(宝島社)は胸が熱くなる作品だと、多くの読書好きから支持されている。

 著者の“読ませる表現力”は、本作でも健在。本作は、公私ともに大ピンチとなったひとりの刑事が事件の解決や親子関係の修復を目指す、家族愛も盛り込んだ警察小説である。

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 刑事課長の比留公介は以前、取り逃がした強盗犯・新藤達也の逮捕に意気込んでいた。しかし、綿密に練ったガサ入れは失敗。警察署内での立場は、より危うくなってしまった。そんな時、駐在所で駐在員が撲殺される事件が発生。捜査を進める中で比留は、驚くべき真相を掴む。駐在所に設置されていた事件当日の防犯カメラ映像に新藤の姿が映っていたのだ。

 因縁の相手とも言える新藤を逮捕すべく、比留は奮闘。その結果、見事、確保に成功した……が、事態は予想外の方向に。新藤は取り調べで、駐在員の殺害を否認。「犯人に仕立てられた」と主張し始めたのだ。

 新藤の話は、本当なのだろうか。そう悩んでいた矢先、比留はまたしても意外な事実を知る。なんと、新藤が起こしたとされている駐在所襲撃事件は過去に起きた、ある事件と繋がっていたのだ。その後、上から疎まれている比留は捜査から外されるも、刑事課の部下たちと極秘に捜査を続行。何度も窮地に陥りながら、事件解決を目指す――。

 この骨太なストーリーだけでもドキドキさせられるのに、本作には比留の親子問題も絡んできて、物語はよりハラハラさせられる展開になっていく。

 妻をがんで亡くした比留は、高校生の娘とふたり暮らし。娘の美香は第三者からの精子提供によって人工授精を目指す「非配偶者間人工授精(AID)」によって授かった子だった。美香が自身の生い立ちを知ってからというもの、親子仲は険悪に。ついには、比留が捜査に励んでいる最中に、美香は家を出て行ってしまう。

 AID治療の当事者は通常、精子ドナーの素性を知ることはできない。だが比留は過去に、ある事件の捜査をした際、自分たち夫婦の精子ドナーとなった男の名前を知ってしまっていた。その事実をひた隠しにしてきたものの、娘の家出を受け、実の父親に関する情報を伝えるべきなのではと悩み始める……。

 こうした複雑な親心が丁寧に描かれているのも、本作の良さ。比留が抱える親子問題は事件と複雑に絡み合いもするため、どんなラストが待ち受けているのか予想しながら読むのも面白いだろう。

 状況説明が緻密な本作は比留が見ている世界がリアルにイメージしやすいため、作品の世界観に入り込みやすい。また、警察内部の複雑な人間関係にやきもきしたり、出世と正義の間で揺れ動く比留の姿から目が離せなくなったりと、警察小説ならではの面白さもふんだんに詰め込まれており、読み応えがある。

 刑事としてだけでなく、ひとりの父親としても悩む比留は、果たしてどんな決断を下し、自分なりの正解を導き出していくのだろうか。家族愛についても考えさせられる本作は普段、警察小説を手に取らない方にも勧めたい一作だ。

文=古川諭香