人気作『ギャルバニア』著者の百合コメディ。ゴリ先と呼ばれるゴツい顔の生徒指導の先生が、さりげないアシストで百合カップルを量産!?
公開日:2024/3/16
生徒指導の先生にいいイメージがない。校門でスカートの長さや着崩しをチェックされ、服装検査では、わざと日の当たる廊下に1列に並ばされて髪を染めていないか、眉毛を剃ってないかもチェックされた。校則を守るため必要なことかもしれないが、舐め回されるように見られ、リボンの結び方が駄目だと注意されるのは、めんどくさい記憶だ。厳しい生徒指導の先生が、恋のキューピッドになってくれるなんて考えられなかった。
『生徒指導の百合先生』(岡野く仔/KADOKAWA)は、人気作『ギャルバニア』の岡野先生が送るX(旧Twitter)連載で話題になった新作だ。生徒指導の「百合猛(ゆりたける)」先生が、両片想いが溢れる校内で、生徒指導の傍ら女生徒たちの仲をさりげなく取り持ち、悩みを解決してくれる。
百合先生は、百合カップルが好きだ。それだけ聞くと犯罪臭が漂うが、どこにもいやらしさがなく、絶妙な配慮で恋に悩む少女たちの味方になってくれる。ゴリ先と呼ばれるほどゴツい顔だが、中味がとにかくかっこいい。口うるさい生徒指導の先生らしさがありつつ、いつも生徒への愛が溢れている。
校舎裏で百合先生がごみ拾いをしているのを見て焦った生徒会長の内山は、同じく校舎裏で煙草を吸う幼なじみの昴に注意しに行く。煙草で寿命が縮んでしまうと心配する内山に、昴は「お前がわざわざ止めに来てくるから…お前にかまってもらえるからこんなものを…」と本当は昔みたいに一緒にいたいという気持ちを込めて打ち明ける。そこに居合わせた百合先生は、煙草を見逃してくれる。
その後、文化祭の未成年の叫びで「あの日から煙草はやめた! もう一生吸わない! 私は! お前が! 好きだ! 一生一緒にいてくれー!!」と昴が告白して2人は結ばれる。先生は、またもや煙草の件を見逃し「幸せならぉおっけいでーす!!!」と2人の背中を押してくれる。校舎裏で先生がごみ拾いをし内山会長に目撃させたのはわざとで、煙草をやめさせ2人の想いを後押ししたかったからではないだろうか。どこで仕入れてきたのか不明な情報網で2人の恋路をアシストしてくれる。女同士という偏見の未だ残る関係を、大人であり指導する立場の先生に応援してもらえたらとても心強いだろう。
また、本作に登場する少女たちは、初々しさに溢れ、人を好きになることは素晴らしいと思わせてくれる。表紙にも登場する江本という生徒は、朝の服装点検で指定以外のリボンをつけて登校してくる。他校の彼女とリボンを交換してつけてきてしまったのだ。百合先生は指導しつつも、「先生そういうの大好きだ!! 点検の時だけ元のリボンに変えておきなさい!!」とリボンを没収せず、かわし方まで教えてくれる。リボンを交換するという、お互いの持ち物をつけ合う行為がいじらしく可愛らしい。
助けてくれる頼れる大人がいて、想いを寄せ合う人と結ばれる世界。なんて素敵な世界だろう。本書にはカップルの数だけ胸キュンが詰まっている。日々の生活で疲れた時、百合カップルたちの微笑ましさや百合先生の優しさに癒やされてほしい。
文=山上乃々