推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない人へ。ありきたりな感想から抜け出すためのオタク文章術
公開日:2024/3/19
推しが尊すぎるのに語彙力がなさすぎてツライ…友達に推しの素晴らしさをとうとうと語りたいのに「あぁ語彙力!」と叫びたくなるのは、きっとアナタだけではないはず。
語彙力に悩みを抱えるそんなアナタに最適の本が『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない―自分の言葉でつくるオタク文章術』(三宅 香帆/ディスカヴァー・トゥエンティワン)だ。どんな本か、タイトルが語ってくれているとおりだ。
まず希望をもってもらいたい。本書いわく、推しの感動、魅力、素晴らしさをいざ語ろうとしたとき、「やばい!」という言葉しか出てこないのは、アナタに観察力、言語化能力、語彙力がないからではない。必要なのは、自分の感想を言葉にする“ちょっとしたコツ”によって「自分の言葉をつくること」だという。推しについて自分の言葉で発信することができれば、推しへの解像度が上がり、たくさんの人に推しを知ってもらえ、推しについてのもやもやを言語化でき、そして、推しを好きになった自分への理解が深まると本書は述べる。
ちなみに、本書が扱うところの「推し」はオールジャンルである。また、紹介している技術は推し語りだけでなく、SNSなどの短文発信、ブログなどの長文発信、ファンレターなどにも応用できる。
さて、本書は「自分の言葉をつくる」ことの重要性を説くが、これは簡単なようで難しいという。まず、人は「ありきたりな言葉」を使ってしまう性質があるらしい。「ありきたりな言葉」はフランス語で「クリシェ」と呼ぶそうだが、これこそが「自分の言葉」を奪う、と本書。書評家である著者いわく、「泣ける」「やばい」「考えさせられた」の3つはよく使われるクリシェ。
「この漫画、泣けてやばい。すごく考えさせられた。」
これでは自分の言葉で語ったことにはならないし、漫画の魅力も伝わらない、ということである。そこで、クリシェを禁止する。ありきたりな、それっぽい表現を使わずに、自分だけの感情、考え、印象、思考を言葉にするだけで、オリジナルな表現ができあがる、と本書は説明している。
また、自分の「好き」を言語化するうえで最も大切なのは「他人の感想を見ないこと」だという。自分がまだもやもやとした「好き」しか抱えていないときに、SNSなどでほかの誰かが使っている“はっきりした強い言葉・表現”を受信すると、私たちはそれに寄っていくようになっているそうだ。
本書は、「自分の言葉をつくる」ためには3つのプロセスがあると明かす。
1 よかった箇所の具体例を挙げる
2 感情を言語化する
3 忘れないようにメモをする
本書によると、言語化で大切なのは語彙力ではない。細分化できるかどうか、であるという。
・自分がなにに感動したのか?
・どこを面白いと思ったのか?
・なんであの場面にもやもやしたのか?
・違和感を覚えたのはなぜか?
など、細分化…つまり細かく具体例を挙げることで「自分の言葉」をつくる下地ができあがる。感想のオリジナリティは細かさに宿る、と本書は断言している。
例えば、プロセス1の具体例は、次のようになると説明している。
(ライブ鑑賞の場合)
・一曲目に●●の曲がきたこと
・●●のタイミングのMCで「●●」という発言がでたこと
・●●のダンスがうまくなっていたこと
・●●の衣装がかわいかったこと
他のジャンルにおいては、次のようになる。
(フィクション/小説・映画・漫画・舞台など)
・好きな/好きじゃないキャラクター
・印象に残ったセリフ
・なんかすごく心に残っている場面
・びっくりした展開
・結局最後までよくわからなかった心情
(イベント/音楽ライブ・ショーなど)
・自分に響いた歌詞
・よかった場面/曲
・舞台装置で気に入った点
・ぐっときた衣装
・ぴんときた人
(人/アイドル・俳優・ミュージシャン・芸人など)
・自分がなるほどと思った言動
・好きになったきっかけ
・今まででいいと思った現場
・好きな髪型や服装
・やってくれて嬉しかった仕事
本書は、続いてプロセス2、3の解説を進めていく。
本書は推しを語ることについて「自分自身の人生を語ることでもある」と、その重要性を述べている。本書を読んで推しをより深く愛し、自分自身を理解し、どんどん発信していくことを勧めたい。
文=ルートつつみ
@root223