いま小学生がハマっている本は? こどもたちが好きな本に投票し、作者を表彰する「“こどもの本”総選挙」の第4回授賞式をレポート

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/1

こどもの本総選挙授賞式

「大人になると、その本をどう読むのか正解を探そうとしてしまう…」そんなふうに語るのは、「小学生がえらぶ!“こどもの本”総選挙」のアンバサダーを務める又吉直樹さん。

「“こどもの本”総選挙」とは、全国の小学生が読んで最も面白かった本を選び、子ども自身が本の作者を表彰する…という他にはないプロジェクト。2017年からスタートし、第4回の投票数は14万4188票。

2月10日に東京都内で開催された発表会では、子どもたちを代表する“子どもプレゼンター”が本の感想を述べるとともに、作者や担当編集者に賞状を授与。本稿では、又吉さんによる総評を含むレポートをお届けします。

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〈又吉さんから子どもたちにメッセージ〉
「緊張すると思いますけど、会場に来られただけでも大成功なので、自信を持って。絶対うまくいきますし、うまくいかなかったらいかなかったで、面白いから大丈夫。どっちみち失敗はないんで。みんながどんな気持ちで本を選んだのか、教えてもらうのをすごく楽しみにしてます」

こどもの本総選挙授賞式

●第10位から第6位の発表。学校で禁止された、あの本が!?

第10位『100かいだてのいえ』(いわいとしお:作・絵/偕成社)

〈作品紹介〉
岩井俊雄さんによるロングセラーシリーズ第1巻。主人公のもとに届いた手紙をきっかけに訪ねることになった家は、なんと100階建て。縦開きで大迫力のイラストを楽しみながら、主人公と一緒にてっぺんを目指していくワクワクドキドキの絵本。

〈子どもプレゼンター コメント〉
「100階建ての家から見るお星はキレイだ、と思いました」

〈作者:いわいさんコメント〉
「子どもから賞状をいただけるなんて感無量です。もう15年ほど前に1冊目が出て、その時はまさか何冊も書くとは思わず…。6冊書けたのは、読んでくれる子どもたちの大きな応援があったからこそ。これからも頑張って描き続けたいなと、今日は決意を新たにいたしました」

第9位『ほねほねザウルス ティラノ・ベビーのぼうけん』(ぐるーぷ・アンモナイツ:作・絵、カバヤ食品株式会社:原案・監修/岩崎書店)

〈作品紹介〉
カバヤ食品の玩具菓子が楽しい読み物に。ティラノサウルスのティラノ・ベビーが、親友のトリケラトプスのトップスや、ステゴサウルスのゴンちゃんと一緒に冒険の旅へ。謎解き、敵との戦いなど、ワクワクするストーリーに、迷路やクイズなどの遊びが盛り込まれている。

〈子どもプレゼンター コメント〉
「トリケラトプスのトップスが何も知らないのが面白いし、いっぱい仲間ができるのがいいと思いました」

〈大崎さんコメント〉
「前回と同じ9位ですが、前回以上に大きな喜びを感じております。というのも、前回はたまたまかもしれないと思っていたので、今回また選ばれたことで、それが大きな自信になりました」(代読:ドクター・ヨッシー)

第8位『最強王図鑑シリーズ ドラゴン最強王図鑑』(なんばきび 他:絵、健部伸明:監修/Gakken)

〈作品紹介〉
トーナメント形式で“最強”を決定する「最強王図鑑シリーズ」の中でも、人気の高い一冊。洋の東西を問わず、あらゆるドラゴンが集結し、いちばん強いドラゴンを決定できる本書は、とにかく強いものが大好きな小学生に支持されている。

〈子どもプレゼンター コメント〉
「レヴィアタンの戦うシーンがかっこいい!」

〈担当編集者コメント〉
「どっちが勝つのかで喧嘩になるので、学校に持っていっちゃダメって言われることも多い本。選ばれた時には驚きました。でも考えてみれば、みんなで喧嘩するくらい話をする本って、なかなかない。嬉しいことですし、今後も大人を困らせるくらい子どもに好きになってもらえる本を作っていきたいです」

第7位『四つ子ぐらし①ひみつの姉妹生活、スタート!』(ひのひまり:作/角川つばさ文庫)

〈作品紹介〉
両親も親戚もいない主人公の三風(みふ)は、ひとりぼっちの小学6年生…と思っていたら、顔も声もまったく同じ四つ子であることが判明。みんな同じでみんな違う、キュートな姉妹生活とは? 昨年にシリーズ16作目を発売した人気作。

〈子どもプレゼンター コメント〉
「4人で家事をするとき、部活をするとき、友達と遊ぶときなど、色々な場面があって面白い」

〈ひのさんコメント〉
「四つ子の暮らしを読んで、ドキドキワクワクしてもらえて、とても嬉しく思います。私も作者ではありますが、読者の皆さんと一緒にドキドキワクワクしながら執筆を続けたいです」

第6位『パンどろぼう』(柴田ケイコ:作・絵、KADOKAWA)

〈作品紹介〉
おいしいパンを探し求めるパンどろぼうが大活躍、人気シリーズの第1巻。どこか憎めないお茶目さで、大人にも子どもにも愛されるパンどろぼう。毎回登場する残念な表情も人気のひとつ。その正体と意外な展開にハマる小学生が続出している。

〈子どもプレゼンター コメント〉
「パンの好きなパンどろぼうがパン職人になったのは、すごいなと思いました」

〈柴田さんコメント〉
「パンどろぼうは、ちょっとドジでマヌケだけど、好きなことには一筋。じつは私もそんな人間です。最近は物忘れが多くなりましたが、そんな自分を少し投影したようなこのパンどろぼうが愛され、親しまれて、幸せです。小学生の皆さんも自分の魅力的な部分を知り、それを大事にしながら成長してほしいと思います」(代読:担当編集者)

〈第10位~第6位:又吉さんの感想〉
「想像力を掻き立ててくれるような本ばかりで、子どもたちの感想を直接聞けたのが楽しかったです。『ドラゴン最強王図鑑』で、どっちが勝つのかで子ども同士が喧嘩をするのは、すごく素敵なこと。その本についての授業を学校で作ってもらいたいくらい。大人になると、その本をどう読むのか正解を探そうとしますけど、自分が読んでどう思うかを実感するのが、本の楽しみのひとつ。正解が出ない本でも、わからないままの状態を楽しむのが子どもたちは上手。子どもの頃を経験した我々も、そういう気持ちをもう一度思い出せたらいいなと思います」

●第5位から第2位の発表!総選挙でおなじみの本もここで登場

第5位『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』(廣嶋玲子:著、jyajya:イラスト/偕成社)

〈作品紹介〉
舞台となるのは、悩みを持つ人だけがたどりつけるという不思議な駄菓子屋・銭天堂。古銭柄の着物を身につけた女主人・紅子が出迎える。紅子がすすめる駄菓子は、お客さんを幸運に導いてくれるものばかり。すこし怪しい雰囲気と、その人の運命を翻弄するドキドキ感が魅力。

〈子どもプレゼンター コメント〉
「いろいろなお話が出てきて面白いし、漢字の勉強にもなるし、想像するのが楽しい」

〈廣嶋さんコメント〉
「前回に続いて選んでいただき、感謝感激です。この賞に選ばれることほど嬉しいことはありません。これからも銭天堂を読んで楽しんでもらえるように、ますます頑張りたいと思います」(代読:担当編集者)

第4位『あるかしら書店』(ヨシタケシンスケ:作・絵、ポプラ社)

〈作品紹介〉
月明かりの下でしか読めない月光本、2つの本を合わせると初めて読むことができる2人で読む本など、“こんな本あったらいいな”という最高に楽しい妄想書店がいくつも登場。本ってやっぱりいいよね、と言いたくなってしまう一冊。

〈子どもプレゼンター コメント〉
「どんな面白い本が出てくるか、ページを見るたびにワクワクします。世界一周読書の旅に行ってみたいなと思いました」

〈ヨシタケさんコメント〉
「僕も本が好きで、あんな本があったらいいな、などと思いながら作りました。本って、みんながどんどん大きくなって、世の中がコロコロ変わっても、ずっと変わらずに味方でいてくれるもの。読む時期によっても感じ方が変わるので、今好きな本も、大きくなってからまた読んで、長く付き合ってくれるといいなと思います」

第3位『大ピンチずかん』(鈴木のりたけ:作/小学館)

〈作品紹介〉
子どもたちの身の回りに起きる大ピンチを紹介。前もってどんなピンチがあるかを知っておけば、ピンチが起きても怖くない!? 親しみが持てるユーモアあふれるイラストも好評。

〈子どもプレゼンター コメント〉
「これから自分にピンチが起きたときにどうすればいいかを教えてくれるのが、良いところです」

〈鈴木さんコメント〉
「こういう晴れの舞台こそ、ズボンのチャックが開いていたり…(会場笑)。誕生日ケーキのろうそくが消えなくて、前髪だけフーフーなるときって、大人は面白いけど子どもにとっては大ピンチ。いつもとは違うときって大ピンチが起こりやすい。順位をつけられるのって緊張するけど、順位をつけることをきっかけに本について語ったり、人とつながるのも人生の楽しみだと思っています」

第2位『おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』(今泉忠明:監修/高橋書店)

〈作品紹介〉
敵に襲われると死んだふりをするオポッサムなど、122種類のいきものの残念な一面にスポットを当てた本。その多くはいきものの進化にまつわる生態がもとになっており、いきものの生態を面白おかしく学ぶことができる。

〈子どもプレゼンター コメント〉
「いきものたちの残念なところが面白い」

〈今泉さんコメント〉
「最近は、動物学の本を読んでも残念なことばっかり考えて、真面目に考えなきゃいけないなと思ってます。驚いたのは、読んだ子どもが手紙を書いてくれること。この本をきっかけに、文字を読み、文字を書いてくれることが嬉しい。最近は『残念な今泉さん』って呼ばれるようになりました(会場笑)」

〈第5位~第2位:又吉さんの感想〉
「僕の今の目標は『ざんねんないきもの事典』に載ることでお願いします。毎日二度寝します、と。『銭天堂』はちょっと怖い雰囲気で、子どもの頃はそういうものに惹かれるし、永遠に読んでいたくなる内容ですよね。『大ピンチずかん』は今回初めて読みましたが、大人でもわかるというか。日常の“あるある”ですけど、そりゃそうだろうっていうよりは、言われてみたらそうだなということばかりで、そこが面白かったですね」

●いよいよ第1位!ヨシタケシンスケ「“かもしれない”を普段も使ってみて」

第1位『りんごかもしれない』(ヨシタケシンスケ:作・絵、ブロンズ新社)

〈作品紹介〉
ヨシタケシンスケさんの絵本デビュー作。“テーブルの上にリンゴが置いてあった。でも、もしかしたらこれはリンゴじゃないかもしれない…”。こんなふうに、考えることを果てしなく楽しめる発想絵本。

〈子どもプレゼンター コメント〉
「男の子のいろいろな発想が出てきてすごく面白かったし、こんな発想もあるんだなと自分にアイデアをくれるからとても好きです」

こどもの本総選挙授賞式

〈ヨシタケさんコメント〉
「11年前にこの本を書いて、それが10年経った今でも読み続けてもらって。そんなことが起きるんだなと嬉しい気持ちでいっぱいです。(子どもの様子を見ながら)足がブランブランしちゃうよね…その足が地面につくまでの間に、いろんなことを思いながら大きくなってほしい。その時に、“こうやって考えたら面白いかもしれない”など、“かもしれない”という言葉を上手に使いながら、楽しく過ごしてもらえたら嬉しいです」

〈又吉さんによる総括〉
「知らない世界を見せてくれたり、なんとなく感じていたことを言葉や絵で明確に伝えてくれたりして、頭の中を整理できる本や、いろんな感覚を刺激してくれる本が揃ったなと思います。僕は小さい頃、自分が好きな本がどれくらい人気なのか、答え合わせをする環境がなかったんです。誰が何を言おうとこの本が好きって強く思うことも大事だと思うし、一方で、みんなの好きなものに共感するのもひとつの楽しみ方。他の人が1位に選んでいる本を読んで自分の感覚が広がっていくのも、面白いんじゃないでしょうか」

〈質疑応答〉
——(ヨシタケシンスケさんに)長年、子どもたちの心を掴み続けるために大事にしていることは?

ヨシタケシンスケ:自分が子どもだったら、こういうことを教えてくれる大人がいたら助かっただろうな、と思うことを10年間、本にしてきたつもりです。こういう言われ方はイラッとするからやめとこう、こういう終わり方は嫌だろうからやめとこう…ということもあります。今年50歳になりますが、いまだに『大人ってすごいな』と毎日思うくらいなので、心の中に子どもが居続けているのがひとつの理由かなと思います。

——子どもに絵本を選ばれることについて、どう思いますか?

ヨシタケシンスケ:僕の興味が、小学生のみなさんとほぼ同じレベル。せまいところがあったら入りたいし、細長いところがあったらバランス取って5秒くらい耐えられるかなとか、そういうことを真面目に日々考えてしまう。子どもたちと一緒にニヤニヤ笑えるような世界に向き合っていけたらいいし、絵本を通して『楽しいよね、面白いよね』っていうやりとりができればお互いに楽しいのかな、と思います。

——(ドクター・ヨッシーさんに)どうして『ほねほねザウルス』を作りたいと思ったんですか?(小学2年生からの質問)

ドクター・ヨッシー:私自身が恐竜がすごく好きなことと、お子さんにアンケートを取ったときに、バラバラの恐竜の骨を組み立ててオリジナルの恐竜が作れたら面白いだろうな、と思ったからです。

●ベスト10の発表で子どもたちから歓声も

ベスト10の書籍名が読み上げられるたびに、招待された親子席の間で「おお~っ!」と歓声があがるなど、子どもたちのリアルな反応が見られた発表会。「子どもたちに選んでもらった」ことに、誰より作者自身が喜んでいることも、じかに感じられました。子どもプレゼンターによる表彰では、子どもと作者が握手や会話を交わす、貴重な光景も。いろいろな角度から“こどもの本”を盛り上げている「“こどもの本”総選挙」。今後の継続にも、大きな楽しみと期待が募りました。

取材・文・写真=吉田あき

※こどもの本総選挙事務局では、「すべてのこどもたちに、本と出会う喜びを」という理念に賛同をいただける法人賛助会員・個人賛助会員・寄付を募集しています。
詳しくは公式サイトよりご確認ください。
『小学生がえらぶ!“こどもの本”総選挙』公式サイト
https://kodomonohon-sousenkyo.jp/