『謎解きはディナーのあとで』の東川篤哉による最新作。ミステリー愛好家も初心者も楽しめる、オカルト好きの中学2年生男子×天才博士のユーモアたっぷり謎解き本
PR 更新日:2024/3/4
またひとつ、チャーミングなバディが登場した。「謎解きはディナーのあとで」シリーズで知られる東川篤哉氏による、新作『博士はオカルトを信じない』』(ポプラ社)だ。
本作の主人公を務めるのは「オカルト」に興味津々な中学2年生の丘晴人。ちょっと間抜けな父親と現実主義者の母親は「有限会社オカリナ探偵局」という私立探偵事務所を営んでおり、晴人も時折、調査の手伝いをしている。そんななかでオカルトめいた事件に遭遇し、晴人はその謎に迫っていくのだが……。
そんな晴人の相棒になるのは、廃墟も同然の町工場に住む博士・暁ヒカル。まるで役に立たないような発明品ばかりつくっているヒカルは、「天才博士」を自称し、それだけではなく晴人にもそう呼ぶことを強制するくらい強烈な人物だ。出会った瞬間こそ、胡散臭さを感じる晴人。しかし、暁博士には唯一無二の武器があった。それが「ひらめき」である。たびたび不思議な事件と遭遇する晴人と、天才的なひらめきを持つ暁博士。このバディが、町中で発生するオカルト事件を次々と解決していくことになるのだ。
本作に登場する事件と謎はどれも魅力的。たとえば第一話。晴人は父親に連れられ、原因不明の病に臥せっているという女性、美和子のもとを訪れる。美和子の母親・静江は2年前に亡くなっており、現在は父親の年雄と家政婦の花岡と生活しているという。実際に見舞うと、美和子の容態は想像以上に重いことがわかる。かろうじて会話はできるものの、口を開くのさえつらそうなのだ。しかし、関係者みんなが集まったとき、その病床の美和子の口から、驚くべき“声”が漏れ聞こえてくる。それは亡くなった静江の声そのものだった。これは一体どういうことか。なぜ“死者の声”が聞こえてくるのか。目の前で起こったオカルトに、晴人はひとり胸を高鳴らせていく。
第二話以降も、「瞬間移動した女」「幽体に殺された男」と、不可解な事件が晴人の前に差し出されていく。そしてそれらを解決していくのが、暁博士だ。事件の犯人は人間なのか、それとも幽霊なのか――。読者は晴人とともに胸を高鳴らせ、論理的に真相を解明する暁博士の頭脳にため息を漏らすだろう。個人的には、どの謎も真相が明らかになったとき、「もう少し考えれば解けたはずなのに!」と歯噛みしてしまった。解けそうで解けない。この絶妙な塩梅に、読者は翻弄されるだろう。まるで東川氏の手のひらで転がされているみたいに。
また、それぞれのキャラクターの掛け合いの楽しさは、本作でも健在だ。バディを組む晴人と暁博士のやり取りには、何度も吹き出してしまった。子どもっぽさと冷静さを併せ持つ晴人と、頭脳明晰なのにおっちょこちょいなところのある暁博士の組み合わせは、これ以上ないくらいに可愛らしく、微笑ましい。他にも、頼りない父親や高飛車なクラスメイトなど、どのキャラクターも個性が際立っていて、彼らに振り回される晴人に「お疲れさま」と声をかけてあげたくなるほどだ。
ユーモアたっぷりで、だけど謎解きは本格的な本作。ミステリー愛好家も初心者も、ぜひ読んでもらいたい。きっと晴人と暁博士のファンになるはずだから。
文=イガラシダイ