運命の下着が私の人生を変える――共感度無限大! 新人下着フィッター物語『ランジェリー・ブルース』

マンガ

更新日:2024/10/22

ランジェリー・ブルースP14

 死ぬほど自分に似合う下着と出会ったことのある人は、いるだろうか。この文章を書いている私には、ない。そして、おそらく多くの人もそうだろう。

 したがって、その一着と出会った主人公ケイの驚きが、未知の感動として迫ってきた。下着に対する考え方がひっくり返されるような衝撃を『ランジェリー・ブルース』(ツルリンゴスター/KADOKAWA)は与えてくれる。

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 派遣社員の深津ケイは仕事にも、7年間交際している恋人との関係にも漠然とした不安を抱える日々。仕事があり、恋人もいる。だけど職場では正社員より軽く扱われ、そんな自分の屈託を恋人は理解しようともしてくれない。少しずつ心のなかに溜まっていく澱。

ランジェリー・ブルースP14

 そうしたある日、派遣仲間のすすめで訪れたランジェリー専門店「タタン・ランジュ」で、彼女は運命の一着と出会う。

ランジェリー・ブルース P26

 この場面が実に鮮烈だ。自分自身でも気づかずにいた己の魅力を発見した瞬間の、驚きと衝撃が入り混じった表情。

 このとき、ケイは自分が変わりたいと思っていたことにも気づく。いや、ほんとうはずっと気づいていたのかもしれない。だけど踏みだす勇気が出なかった。そんな彼女の背中を押したのが、死ぬほど似合うブラジャーだった。

 下着界のレジェンドである「タタン・ランジュ」の店長、柳&大谷の下で働こうとケイは決意。それまで全く知らなかった下着業界に飛び込んで、彼女の日常が変わりだす。

ランジェリー・ブルース(P55)

「タタン・ランジュ」には年齢も背景も、そして体型も様々なお客さまがやってくる。亡き夫との思い出のドレスを再び着るため、身体を補整する下着を求める70代の女性。

ランジェリー・ブルース(P76)

 出産してから育児中心の日々を送り、おしゃれから遠ざかってしまった30代の女性。母親に連れられて初めてブラジャーを買いにきた10代前半の少女。

ランジェリー・ブルース(P99)

ランジェリー・ブルース(P188)

 どの女性も自分の体型に満足しているわけではない(そうでない女性などいるだろうか?)。ゆえに、美しい下着に対して引け目や後ろめたさを感じることも多い。彼女たちに、販売員兼、フィッター見習い(お客に下着をアドバイスする係)となったケイは、自分が下着から受けた驚きと衝撃、そして気づきを伝えていく。

 一方で、下着を着ることの楽しさに目覚めたケイに、恋人は異質のものを見るような目を向けてくる。「似合わない」「好きじゃない」という言葉を投げかける彼。自分の趣味ではない下着を着けるようになった恋人を受け入れられない彼に、彼女は敢然として言い返す。

ランジェリー・ブルースp116

 自分の身体は自分のものであり、その大切な身体を包む下着も自分の好きなものであっていい。男性のためでなく(もちろんそうであってもいいが)、なによりもまず自分のために下着を選び、自分のために生きる――。本作の芯にはそんなメッセージがあり、主人公の成長物語ともなっている。

 ケイが運命的に出会った“オーバドゥ”のブラのほか、“ワコール ラゼ”“プリスティン”など実在するブランドの下着が作中には登場。それぞれの特徴や、用途に合った下着選びのコツが盛り込まれているのも興味深いし参考になる。「タタン・ランジュ」の麗しき店長コンビをはじめ、同僚や派遣時代の友人たちといったキャラクター陣も個性的で、この一冊で終わってしまうのが惜しまれるほど続編が読みたい。そして私も死ぬほど似合う下着と出会いたい。

文=皆川ちか

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