少年は破滅と引き換えに「生きたい」と願った――世界の歪みと呪われた運命を絶ち切ることはできるのか!? 異能バトルアクション『蒼剣の歪み絶ち』【第30回電撃小説大賞〈金賞〉受賞作】
公開日:2024/3/8
人はなぜ生きるのか。古来より、数多くの宗教家や哲学者がその問いに向き合ってきた。信仰を貫いて天国へ行くため、生の執着から解放されるため、自由と幸福を得るため……。いずれにせよ、私たちは生きることに論理的な理由があると信じたいのだ。しかしこの世界は本当に正しい理で動いているのだろうか。
第30回電撃小説大賞〈金賞〉受賞作、『蒼剣の歪み絶ち』(那西崇那/電撃文庫/KADOKAWA)は、現代社会の裏で世界の理の歪みを正し、秩序を守るエージェントの少年少女が呪われた運命に翻弄されながらも生きる意味を探す異能バトルアクション。
この世界は完璧ではない。世の中の不完全な部分が具現化した存在。それが《歪理物》だ。それらは物理法則を歪め、周囲の人や建物を巻き込む災いをもたらす。願いを叶える代償に破滅をもたらす魔剣ティルフィングに「生きたい」と願った少年・伽羅森迅は、《歪理物》を管理する組織ノアリーの特殊調査員として、無機質な金髪の美少女アーカイブと共に《歪理物》が関わる事件と、それを狙う者たちとの戦いに立ち向かう。
伽羅森とアーカイブに与えられた任務は、《無題》と名付けられた《歪理物》が起こした騒動の解決だった。《無題》は周囲から文字を喰らい、固有名詞を持つ人や物を消失させる危険な《歪理物》だった。結果的に街一つ分の人間を消し去る事件から生き残り、《無題》の所持者となった女子高生・藤中日継を保護したふたりは、彼女の力が自分たちの抱える問題を解決する鍵になると直感する。
藤中日継の協力を仰ぎ、次なる《歪理物》の事件へと向かうも、その過程で《歪理物》を悪用する団体《墓上の巣》の構成員と戦闘になる。
伽羅森の持つ《歪理物》の魔剣ティルフィングは、ありとあらゆるものを絶ち切る魔剣だ。しかし一度、鞘から抜かれれば、使用者の意思とは関係なく、誰かを殺してしまう破滅の呪いを宿した魔剣だった。戦いで窮地に陥った伽羅森は、そのティルフィングを抜いてしまう。解き放たれたティルフィングの力により、からくも敵を撃退するが、魔剣の呪いが襲いかかってくる。そして明かされる伽羅森とアーカイブの悲しい境遇――。
さらにいくつかの騒動を経て、《歪理物》を作り出しばら撒いている謎の人物の情報を得る。事件を追いかけるうちに伽羅森とアーカイブ、そして藤中に課せられた運命が大きく揺れ動いていく。
この作品のメインキャラクターの伽羅森、アーカイブ、藤中は、平穏に暮らしていただけなのに、《歪理物》が巻き起こす不条理によって人生を歪められてしまった悲劇の人だ。だが、それでも決して諦めることはない。進む先にどんな困難と破滅が待ち受けようとも、かすかな希望を信じて過酷な運命に立ち向かう姿に胸を揺さぶられる。
誰でも生きていれば辛いこと、悲しいことはある。どうしようもない現実に打ちのめされることもある。それでも人は生きることを諦めてしまうほど弱くはない。世の中の理不尽や運命と立ち向かう。そこに生きるということの意味があるのではないだろうか。
文=愛咲優詩