「子どもを4人産むと母親の所得税が免除」? 80か国を渡り歩いてわかった日本以外の常識に価値観が変わる

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/26

シン・スタンダード 日本人が生きづらいのは、日本の常識しか知らないから
シン・スタンダード 日本人が生きづらいのは、日本の常識しか知らないから』(谷口たかひさ/サンマーク出版)

「解像度を高める」というのは、どういうことなのか。80カ国を渡り歩く人気インスタグラマーである著者が実体験をまじえながら紹介する『シン・スタンダード 日本人が生きづらいのは、日本の常識しか知らないから』(谷口たかひさ/サンマーク出版)は、サッと読める密度で、カジュアルな文体で書かれていながらも、読んだ後に脳内に高速情報処理機能が配備されたような心地になる一冊です。

 本書には海外の、人によってはかなり羨ましく感じてしまうかもしれない事例が、多く記されています。例えばベルギーでは「勤務時間以外は上司のメッセージに反応しなくていい」という決まりがあること。アイスランド、スペイン、イギリス、スコットランドなどといった国々で「給与はそのままで週休3日、4日」という試みがなされたこと。そんな「日本の常識」を揺るがすような事例が紹介されています。

 しかし、ただそれらを書き連ねて、「日本は遅れている」と読者の劣等感を煽るようなことは著者の意図するところではありません。例えば、フィンランドの「自分が雇用主に不当な扱いを受けたときは断固として従ってはいけない。あなたの後ろにいるすべての労働者を守らなければいけない」という主旨の言い回しの紹介や、日本と海外の労働制度・勤務時間の比較をした後に、著者はこのように補足をします。

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さて、僕がこのトピックで触れたいのは、「だから日本人はもっと休んだほうがいい」ということではない。

伝えたいのは、これらの「結果」は、ある日突然得られたものではないということだ。

 新たな事実を知り自らの価値観が再定義されたことだけに満足せず、しっかりとその気づきを自分の中で変換・翻訳して、実践に移す。そうしないと本当に「解像度が高まった」ということにはならない。これが著者の本書における、一貫した主張です。

「子どもを4人産むと母親の所得税が免除」という政策を持つハンガリーの事例が複数回本書には登場しますが、「子どもに投票権を与えて親が代理で投票する」という発案が過去にあったことが、本書には紹介されています。

「国民の20%は子どもであるにもかかわらずその意見は反映されない。
『子どもに投票権を』というアイデアは、普通に聞こえないかもしれないが、100年前には『女性に投票権がある』ということも普通ではなかった」。

 結果的にこの案は「親が子どもの票を悪用する可能性がある」として法制化に至らなかったそうですが、「言ってみてわかった」一連の事柄を著者は評価しており、社会的に「できたこと」と同等かそれ以上に「やってみたこと」に価値が置かれていることに着目すべきだと主張しています。

 身近な事例でいえば、環境負荷を減らすために「素材」を気にするのではなく、「使い捨て」という慣習・文化そのもののほうを気にする(そうすると結果的には「素材」を気にすることにもなる)という思考プロセスを著者は提唱しています。同じゴールを目指すとしても、着眼点の変化や辿るプロセスによって、行動が大きく変わるということです。

「日本人が生きづらいのは、日本の常識しか知らないから」というサブタイトルを、やや「上から目線」のように感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、やはり「シン」と付く映画シリーズのように、題名に「シン」と付ける本をオピニオン・リーダーとして書くのならば、そのぐらいのことは言わなければいけないのでしょう(実際本書は予約段階の2024年1月にAmazon人気度ランキング1位になったそうです)。そんな「覚悟」を感じる一冊です。

文=神保慶政