「世の中の運用商品の99%以上は検討に値しないクズ」。投資の不都合な真実に切り込んだ山崎元氏の「幸せ」のための人生訓
公開日:2024/3/25
「世の中の運用商品の99%以上は、はじめから検討に値しないクズ」と切り捨てるなど、金融業界の“不都合な真実”にも切り込み、個人投資家に寄り添った資産運用の解説で人気を集めた経済評論家・山崎元氏。2024年1月1日に65歳で亡くなったことには、SNS上でも悲しみの声が広まった。
今年から始まった新NISAの制度では、“オルカン”こと「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」が人気を集めているが、このオルカンは山崎氏が「平均投資有利の原則」をもとに長年推し続けていたもの。購入者には、直接的・間接的に山崎氏の教えの影響を受けている人も多いはずだ。
そんな山崎氏が最期に書き下ろした著作が『経済評論家の父から息子への手紙: お金と人生と幸せについて』(Gakken)。実の息子への手紙が題材になった書籍ということで、株式市場との付き合い方のほか、「最初の仕事の選び方」「自分の人材価値」といったトピックや、はては「モテ」「酒の飲み方」にまで触れられている。資産運用を超えて、人生をサバイブする戦略を綴った本なのだ。
経済は「適度なリスクを取る者」に有利にできている
本書はまず、「リスクを抑えて、確実に稼ぐ」という昭和時代に有効だったマインドセットを捨てることと、「失敗しても致命的でない程度のリスクを積極的に取り、リスクの対価も受け取る」という新時代の稼ぎ方を身につけることを推奨する。
“リスク”や“対価”といった言葉を使って生き方指南をする点は、経済評論家の山崎氏ならではといえるだろう。
そうした言葉を使いながら本書では、「資本主義経済は、リスクを取りたくない人間から、リスクを取ってもいい人間が利益を吸い上げるようにできている」という非常に本質的な社会の読み解きも行われる。
別の箇所では「経済は『適度なリスクを取る者』に有利にできている」という書き方もされているが、これは資産運用に限らず、人生の幅広い局面で当てはまる金言といえるだろう。
そのうえで本書では、「効率よく資産を作るためには、株式と上手く関わることが必要」という指摘がなされ、先に触れたオルカンへの投資などの具体的な資産運用の助言が行われる。山崎氏の考えるオルカンの有用性も“適度なリスクを取る”ことと深く関連しているので、読者のハラオチ度は非常に高いはずだ。
なお日米の株式市場が盛り上がりを見せている昨今は、資産運用で稼ぐ人々を「働かずに儲けている」と揶揄する声もまた目立ってきている。
山崎氏は本書でそうした声に対して「株式投資は働かずに儲けようとする行為ではない」と断言。「『生産』には『労働』とともに『資本』が必要であり、株式投資は自分のお金を資本として提供して『働かせる』ことであり、この際にリスクを負担している」という真っ当で鋭い指摘を行っている。
山崎氏は本書で自身の生き方や、自身の“幸福”について考察しながら、「私のモットーは、(1)正しくて、(2)できれば面白いことを、(3)たくさんの人に伝えること」と書いている。本書の言葉は、まさに正しく、面白く、たくさんの人に響くものばかりだ。「日経平均株価の史上最高値更新を山崎さんと一緒に見たかった」という長年の読者はもちろん、これから投資について学びたい人にも手にとってほしい1冊だ。
文=古澤誠一郎