これで幸せになれると思ったのに――妊娠中に発覚した夫の不倫!ショックを受けた妻の狂気的な復讐劇
PR 公開日:2024/3/15
子どもの頃に思い描いていた幸せを、私は手にしているのだろうか。大人になるにつれ、そう考える日が増えた気がする。街で笑顔の家族を見るたび、自分も将来、あんな家庭を築いて幸せになるのだと思っていた幼少期、幸せは今より身近なものだった。
けれど、歳を重ねるにつれ、自分が本当に求める幸せがどんなものなのか、分からなくなっていったように思う。
『紙きれの中の幸せ』(木村イマ/DPNブックス)は、そんな歯がゆさを抱えている人にも手に取ってほしい、ドロドロ系の不倫漫画だ。
梨果は妊娠が発覚したことを機に、遠距離恋愛中だった京汰と結婚。幼い頃から、結婚をして子どもを産むことが幸せだと信じていたため、そのレールに自分が乗れたことに安堵した。
だが、思い描いていた結婚生活にズレがあり、夫婦仲はギクシャク。ある日、京汰のスマホを見てしまい、夫が部下の宮園と不倫していることを知ってしまう。もしかして、結婚前も浮気をしていたのでは…。大きなショックを受けた梨果は、京汰を疑うように。ただでさえ上手くいっていなかった夫婦仲は、よりギスギスし始めた。
そんな生活に嫌気がさした京汰はある日、勝手に離婚届を貰いに行き、梨果に渡す。だが、自分が望んでいた幸せが壊れることを怖く思った梨果は離婚を拒否。
手に入れた家庭を失いたくない。私の人生は、幸せでなければ…。精神的に追い詰められた梨果はなんと、京汰から渡された離婚届を食べるという、信じられない行動に出てしまう。
常軌を逸した行動を見た京汰は梨果と関わることを避け、会社で寝泊まりするように。しかし、危機感はなく、今まで要領よく生きてこられたことから、今回もなんとかやり過ごせるだろうと高をくくっていた。
一方、夫に避けられ続けたことで梨果の怒りは増大。私が幸せでないのなら、夫も地獄に落ちろと思うようになり、京汰に復讐し始める。
本作には梨果だけでなく、京汰や不倫相手・宮園の心情をメインに描いたエピソードも収録されており、読みごたえがある。他の女と遊ぶ時間を確保できる結婚生活を望む京汰や自分の不倫は人に迷惑をかけていないと思っている宮園は、どちらも歪んだ価値観を持つ、分かりやすい悪役だ。
だが、自分さえよければいいという歪な倫理観の裏には、複雑な感情も見え隠れする。例えば、京汰は自身に秀でたものがないことを自覚しているからこそ、人を見下さないと自分を保てない。宮園は、本命から相手にされない空虚感を不倫で満たしていた。
悪者のように見えるふたりも梨果と同じく、本当に掴みたい幸せが分からず、もがいているように見えるのだ。
だからこそ、3人の愛憎劇を目にすると、自分にとっての幸せとは何か考えたくもなるはず。結婚をすれば幸せ、子どもがいれば幸せなどという常套句には綻びがある。幸せはそんなに簡単に定義できるものでも、自然に降ってくるものでもなく、自分で導き出すものだ。
紙きれの中の幸せに固執する梨果が、その事実にたどり着き、楽に生きられる日は来るのだろうか。そして、結婚を軽視する京汰は実際に帰る家を失くした時、どんな心境になるのだろう。梨果たち夫婦の心情がどう変化していくのかにも注目しながら、壮絶な愛憎劇の行方を見守ってほしい。
文=古川諭香