離島で今なお続く“異様なコロナ対策”。徹底したマスク着用、黙食、ソーシャルディスタンス――奥底に蔓延るものとは? 最恐離島ホラー漫画『ぼくらの夏が裂けていく』
PR 公開日:2024/3/15
思い返せば少し前までは「マスク着用」が当たり前の世の中だった。ご存じの通り、新型コロナの感染予防として生まれた新習慣だが、当時はどんなに暑かろうが息苦しかろうがみんなマスクを着用していた。さらに、感染者数がピークの頃はマスクをつけていない人を激しく罵倒するマスク警察なんて過激派が生まれたほどだった。臨機応変にマスクを着脱するようになった今では考えられないというか、本当にあった出来事なのか? と遠い昔を眺めているような気分になる。
本記事で紹介する『ぼくらの夏が裂けていく』(宮月新:原作、佐藤健太郎:作画/白泉社)は、規制が緩和された今でもなお一昔前の日常を続けている、いや続けなければならない……そんな奇妙な離島を舞台にした物語だ。
主人公は、怪我をした妹のために、甲子園出場の夢を諦めて地元・繊月島に帰ってきた高校生の樹。久々に帰った故郷で、彼はいまだにマスク着用、黙食、ソーシャルディスタンスなど徹底したコロナ対策が行われていることを知る。まるで時代に取り残されたようなコロナ対策を目の当たりにし、高齢者が多い島だから重症化リスクを鑑みてのことだと、最初は納得していた樹。だが、人がいない駐車場でマスクを取ろうとしたら、ものすごい剣幕で怒り出す近所の住人、頭から布をかぶり突っ伏すように給食を食べる同級生たち、さらに夜道で遭遇した怪物の存在……。物語が進むうちに、徹底したコロナ対策の奥底に蔓延る歪んだ“何か”を感じていく 。
私たちの世界でマスク着用が当たり前だったあの時。持病の関係で着用が必須な人がいたのはもちろん、それ以前に未知のウイルスからくる怯えがそれを過熱させたのだろう。徹底したマスク着用には一部理解できる面もあるが「みんなが着用しているから」という偏った群集心理、また互いにマスクの着用を見張るような、あの私たちにも身に覚えのあるような現実の恐怖が、『ぼくらの夏が裂けていく』には終始付きまとう。
また、樹は村の真相を突き止めるべく奔走するが、村人が頑なに着用するマスクは表情はもちろん、言葉も、本当に伝えたい気持ち、真の姿……全てを覆い隠す。きっとみんな思い当たる節があることだろうマスク越しのコミュニケーションで感じる弊害も、本作ではまとわりつくような恐怖へと姿を変え、私たちに襲い掛かる。
数年前、確かに感じていた実態のない不安や怖さ。そんなエッセンスがリアルにちりばめられている『ぼくらの夏が裂けていく』。本作を読んでいると、まるで自分がその場にいるような緊迫感と恐怖に包まれる。ぜひ、当時の様子を思い出しながら繊月島に足を踏み入れてほしい。
©宮月新・佐藤健太郎/白泉社
文=ちゃんめい