「お金自体には価値がない」ことを学べる経済教養小説。あなたはお金のために働く「お金の奴隷」になっていませんか?

ビジネス

公開日:2024/3/29

きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」
きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』(田内学/東洋経済新報社)

「お金自体には価値がない」「お金で解決できる問題はない」「みんなでお金を貯めても意味がない」。もし誰かからそう言われたら、つい反論したくなるのではないだろうか。

 しかし、それこそがお金の真実であると説くのは、『きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』(田内学/東洋経済新報社)の著者・田内学氏だ。田内氏は元・ゴールドマンサックスの金利トレーダーで、金融業界で長く働き、日本銀行による金利指標改革にも携わった経歴を持つ。現在は執筆活動の傍ら、社会的金融教育家として講演活動を行っている。

 本書は発売3カ月で異例の15万部突破、Amazonベストセラー総合1位を獲得、ビジネスパーソンが「読むべき本」を選出するコンテスト「読者が選ぶビジネス書グランプリ」2024で総合グランプリ第1位受賞など、大きな話題となっている本だ。

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 しかしながら、本書はいわゆるビジネス書や自己啓発本ではない。テーマは「お金」と「社会」だが、大人も子どもも楽しめる小説の形をとっている。さしずめ、経済教養小説といったところだ。

 物語は、ある大雨の日、中学2年生の優斗が、ひょんなことから知り合った投資銀行に勤務する七海とともに謎めいた屋敷へと入っていくところから始まる。そこにはボスと呼ばれる大富豪が住んでいて、「この建物の本当の価値がわかる人に屋敷をわたす」というのだ。その日からボスによる「お金の正体」と「社会のしくみ」についての講義が始まる……。

「お金自体には価値がない」「お金で解決できる問題はない」「みんなでお金を貯めても意味がない」。ボスは飄々とした様子でそう断言するが、お金は必要不可欠な道具だと考える優斗と七海は到底そうは思えない。「キレイごとを並べているだけだ」と感じた優斗は、「それって道徳の話ですよね」と尋ねる。

「道徳の話なんて誰がするねん。僕を誰やと思っているんや。僕はお金の話しかせえへんで」
彼は札束の山をポンとたたくと、笑顔のまま話し続けた。
「多くの人がお金のために働き、お金に感謝する。年収が高ければえらいと思い、貯金が多ければ幸せやと感じる。生活を支えるのはお金やと勘違いして、いつしかお金の奴隷になりさがるんや」
(p.18より引用)

 それから何度もボスの研究所を訪れて、「お金の謎」と「社会のしくみ」について講義を受ける優斗と七海。最初は「そんなはずない」「ボスはお金持ちだからそんなふうに言うだけだ」と反発するが、説明を自分に置き換えて考え、歴史が証明する事実を知っていくうちに、謎は解け、「そうだったのか!」と世界の見え方が変わっていく。

「世界は贈与でできているんや。自分から他人、他人から自分への贈与であり、過去から現在、現在から未来へと続く贈与なんや。その結果、僕らは支え合って生きていけるし、よりよい未来を作れる。それを補っているのがお金やと僕は位置づけている」
(p.198より引用)

 もし、あなたが「日本は借金まみれでつぶれるの?」「少子化でもやっていけるの?」「どうして格差が広がるの?」といった疑問を持っているなら、本書が解決のヒントを与えてくれるだろう。そして、いま自分が大切にすべきことも見えてくるはずだ。

 私は「お金の謎」や「社会のしくみ」を理解したくてこの本を手に取ったが、純粋に物語としても面白く、予想もしていなかったラストにはほろりとしてしまった。本書には2周目の通読で意味がつながる描写がいくつもあるので、それもあわせて楽しんでほしい。

文=ayan