イーロン・マスクやピーター・ティール…莫大な富を持つシリコンバレーの天才たちが目指すものとは? 世界の未来像を映し出す、世界で今起きていること
PR 公開日:2024/3/19
2024年2月29日、実業家のイーロン・マスク氏がXに「Japan will disappear if something doesn’t change」(もし何も変わらないのなら、日本は消滅するだろう)と書いたことが話題となった。
これは2023年の日本の出生数が統計開始以来過去最小となったという報道を受けての発言だったそうだが、少子化だけでなく、旧態依然とした考え方そのものを変えていかねば本当に消滅してしまうのではないかと痛烈に感じさせるのが、作家・橘玲氏の新著『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』』(文藝春秋)だ。
テクノ・リバタリアンについて、本書の「はじめに 世界を支配する秘密結社」ではこう説明されている。
リバタリアンは「自由原理主義者」のことで、道徳的・政治的価値のなかで自由をもっとも重要だと考える。そのなかできわめて高い論理・数学的知能をもつのがテクノ・リバタリアンで、その象徴がイーロン・マスクだ。
本書は世界を数学的に把握し、何よりも自由を求めるリバタリアンが世界をどう捉え、どんな未来へのビジョンを持っているのかというテクノ・リバタリアンたちの思想について、様々な面から解説されている。6つあるパートの始まりとなるPART0は「4つの政治思想を30分で理解する」と題し、右派と左派だけでは説明し切れない複雑化する政治的スタンスの違いを学び、その中でリバタリアンがどこに位置し、何を重視して物事を捉えているのかを見ていく。
本編となるPART1「マスクとティール」は、テクノ・リバタリアンの代表的な人物であるイーロン・マスク氏と投資家であるピーター・ティール氏というふたりの人物を通して、彼らの経歴や信奉する思想に肉薄していく。そしてPART2「クリプト・アナキズム」では「クリプト=暗号」のテクノロジーによって中央集権的な組織を必要としない、個人と個人をつなぐブロックチェーンやビットコインが生み出された流れを追う。PART3ではテクノ・リバタリアンが理想とする「総督府功利主義」を解説。続くPART4「ネクストジェネレーション」ではマスク氏やティール氏らの次世代テクノ・リバタリアンを改めて紹介しつつ、最終章となるPARTX「世界の根本法則から人類の未来を考える」とともに、人間の進化や新たな考え方なども例に挙げながら、過去から現在までの出来事や今後の問題を取り上げる。
橘氏はあとがきの「日本人は『自由』をおそれ、『合理性』を憎んでいる」で「リバタリアニズムは、いまや指数関数的に発展するテクノロジーと結びつき、世界を変える唯一の思想=テクノ・リバタリアニズムに“進化”している。だが日本の偏った言論世界では、マスク氏やティール氏、あるいはオープンAIのサム・アルトマン氏やイーサリアムのヴィタリック・ブテリン氏がリバタリアンであることの意味がまったくわからないだろう」と指摘、その極端な不均衡を正したいと思っていたと本書執筆の動機を書いている。おそらく本書を読んだ人は、いわゆるリベラルとは違う「自由」を標榜し、物事を合理的に考え、中央集権的な組織を嫌い、「大衆(デモス)による支配を自由への抑圧だと考える」テクノ・リバタリアンたちのスタンスに驚くことになるはずだ。しかしいつまでも旧態依然としたムラ社会に固執していては、マスク氏が言う通りになりかねない、という本書の論調に首肯せざるを得なくなるだろう。
莫大な富を持つ賢い人たちが、テクノロジーを極限まで推し進めていくことで到来する「よりよい未来/世界」とはいったいどんなものなのか? それによって自由で豊かになった社会はどのように変わるのか? ぜひ本書から現在世界で起きている「とてつもない変化」を知るところから始めてほしい。
文=成田全(ナリタタモツ)