『カワイソウ、って言ってあげよっかw』で描く、1人1人の“生きづらさ”。人生に悩む女性5人の悲劇の謎に迫る、前代未聞のミステリー
PR 更新日:2024/5/31
吉原の花魁である主人公の瑠璃が、江戸に跋扈する鬼と戦う「Cocoon」シリーズが人気の作家・夏原エヰジ氏。その最新作『カワイソウ、って言ってあげよっかw』(いずれも講談社)は、「生きづらさ」をめぐって予想外の物語が展開される、前代未聞のミステリーだ。
名門大学のサークルで出会った仁実、双葉、美優、紫保、樹の5人は、大学卒業から8年経った今も女子会で定期的に集まる仲良しグループ。正社員を辞めてフリーターとして働く仁実、キャリアウーマンの双葉、2人の子どもを育てる専業主婦の美優、人気インフルエンサーの紫保、漫画家の樹という、異なる道を歩む5人は、それぞれが仕事や生活で生きづらさを抱えていた。
繊細な性格の持ち主、いわゆる「HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)」ゆえに苦労してきたカフェ勤務の仁実は、ある日、K-POPに出会って日々が一変。無神経な彼氏や、アルバイト先の同僚たちとの関係に疲れ切っていた彼女は、すべてを投げ出して韓国へ渡航しようとするがーー。その頃、外資系企業の第一線で働く双葉も、上司に頼られ、後輩には慕われる「できる女」として期待される日々にストレスを感じていた。週末にいつもの場所で仕事の疲れを癒した双葉が、月曜日、出社すると、同僚たちはスマホを片手に、彼女に異様な眼差しを向けていた。
第1章から第5章まで、仁実ら5人が語り手のバトンをつないでいく。職業や性格も異なる5人が抱える悩みはさまざまだ。これは、生きづらさを抱えるすべての読者に寄り添う小説――と、そんな単純な話だと思ったら大間違い。女友達が、ひとり、またひとりと不穏な形で姿を消し、そのたびに、仲良しだったはずの5人がお互いに抱いていたダークな感情や、彼女たちにとって忘れたい過去の出来事が明らかになっていく。
繊細すぎて疲れるHSPの心情や、周りから期待されるキャリアウーマンの不満、子育て中の主婦の苦しみなどの描写がとてもリアルで、生きづらさを描く小説としても十分、読み応えがある。彼女たちに共感することで救われたり、生きづらさを解消するヒントを得られたりする読者も多いだろう。そして、生きづらさを自認する5人の女性たちに起こる出来事をめぐるサスペンスがスリリングで、予想外の展開に何度も驚かされる。
しかし著者は、そんな読書体験だけでは許してくれない。謎を追ううちに、個人が抱える「生きづらさ」の先にある、その言葉を疑問なく使って来た自分自身の感覚や、社会の問題に否応なく向き合わされる。
「生きづらさ」という言葉が持つ優しい響きに油断して読んでいると、心に一撃を喰らってしまうので要注意だ。しかし、そんなシビアな物語を通じて著者は、読者に、自分の人生に対して誠実であるか?という問いを投げかけてくれていると感じる。過酷なストーリーの中に、強いメッセージ性と優しさが通底する、異色のミステリーだ。
文=川辺美希