井上尚弥、ネリの“反省モード”に「あんないいやつじゃないと思う」 “偉業達成”までの約5年間の軌跡を記録した写真集について語る

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更新日:2024/3/15

井上尚弥さん

 プロボクサーの井上尚弥が、2024年3月9日に自身のドキュメンタリー写真集『NAOYA INOUE DOCUMENTARY PHOTO BOOK 2018-2023』(井上尚弥:著、伊藤 彰紀:写真/集英社)の発売記念イベントを開催した。

 同作は、2018年11月のトレーニング合宿から2023年12月26日のマーロン・タパレス戦まで、約5年間に及ぶ井上の軌跡を克明に記録した1冊。史上2人目の“2階級での主要4団体での王座統一”という偉業を成し遂げたプロボクサーとしての歩み、プライベートの素顔に迫るほか、デビュー当時から井上を追い続ける東京新聞社記者・森合正範氏によるロングインタビューも収録している。

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 イベント当日、報道陣による記者会見後は、抽選によるファン200人を前にトークショー&お渡し会を実施。壇上では、約5年間の歩みを振り返る井上が笑みを浮かべた。

試合風景のみならず練習、舞台裏を伝えることに「意義がある」

井上尚弥さん

 会見では、2018年11月の撮影開始当時、写真集の内容は想像が付かず「未知なところ」もあったと回想。コロナ禍も経て、2023年12月の“2階級での主要4団体統一”という偉業達成までを追った写真集出版になったと明かした。

 写真集では、数十万枚から選び抜かれたカットが収録されている。当初は「プロボクサーの写真集へのイメージが湧かなかった」という井上だが、写真集が完成し「練習、試合の舞台裏を伝えるのは意義があること」と手ごたえを示した。

 また「ボクサーはリング上で見られる仕事である一方、練習風景などが残るのは新鮮」と笑顔に。なかでも、お気に入りの1枚は、同じくプロボクサーである弟・井上拓真らと共に“井上家”として臨んだ熱海合宿の1枚で、自身にとって「思い入れのある場所」であり「たぶん、一番多く行った場所」と振り返った。

 拓真には、写真集出版をじかに伝えていないと報告。自身で伝えるのは「恥ずかしい」とはにかみ、報道陣の笑いを誘った。

井上尚弥さん

2018年の「WBSS」参戦が「ボクシング人生を変えた」

井上尚弥さん

 200人のファンを前にしたトークイベントでは、写真集の未公開カットを見ながら、2018年から2023年までの“5年間”を回想。自身の定番入場曲「Departure」で盛大に登場し、冒頭では、サプライズの記念撮影に歓喜したファンと共に、壇上のカメラへと視線を向けた。

 スクリーンに投影された写真集の未公開カットに「僕も見ていないので」と、一言。自身の軌跡に、興味津々なそぶりを見せた。

 2018年11月、熱海でのトレーニング合宿の回想から秘蔵トークはスタート。当初、密着での撮影は「嫌でした」と冗談まじりに伝えると会場に笑いが起き、時間の経つにつれて強く信頼を抱いたカメラマン・伊藤彰紀氏が「空気のような存在」になっていったと明かした。

 オフショットのひとつ、スーツ姿のカットには「恥ずかしいですね」とつぶやき、撮影されたのが「練習中ならいいんですけど」とポツリ。同年は「World Boxing Super Series(WBSS)」へと参戦した節目の1年であったことから、自身の「ボクシング人生を変えた」と真剣なまなざしで語った。

 2019年5月には、イギリス・グラスゴーで開催の「WBSS」バンタム級準決勝で、エマヌエル・ロドリゲスと対戦。試合直前で微笑む未公開カットには「いい笑顔ですね」と笑みを浮かべ、優勝候補との対戦は「楽しみでもあったし、モチベーションは高かった」と振り返った。

 しかし、ロドリゲスとの対戦を控えたグアムでのトレーニング合宿中にはスランプも。当時は「スパーリングとかが、まったく上手く行かなくて」と回想し、スランプを乗り越えるべく「スパーリングを一切やらないようにして、走るとか、ジム(での本来のプログラムから)離れたトレーニングをずっとやっていました」と明かした。

 同年11月には、試合が「激しすぎて、前後の記憶があんまりない」とした「WBSS」決勝でノニト・ドネアと対戦。「一番ピリピリしていました」と振り返り、自身でも「すごいやせてる」と思うほど追い込んでいたと、未公開カットをきっかけに語った。

偉業達成のマーロン・タパレス戦直前には「リラックス」した表情を

井上尚弥さん

 世界が新型コロナウイルスのパンデミックにさらされた2020年。同年4月に予定していた、アメリカでのジョンリール・カシメロとの対戦が延期された当時、井上はプロとしての礎を築いた大橋ボクシングジム(以下、大橋ジム)で力を振り絞っていた。

 未公開カットを前に「モチベーションは下がらず」に、弟・拓真らの“井上家”だけで「トレーニングしていた日々」だったと振り返った。

 時間は経過し、2021年12月にはWBA・IBF世界バンタム級タイトルマッチで、アラン・ディパエンと対戦。「WBSS決勝以来の日本での試合」だったのが唯一の「モチベーション」だったと明かしつつ、当時は「日本で見られないんじゃないか」と声が上がっていたものの、現在は「日本でしかやらないじゃないか」との声があると冗談まじりに話すと、会場に笑いが起きた。

 ノニト・ドネアと再戦した、2022年6月のWBA・IBF・WBC 世界バンタム級王座統一戦に話が及ぶと、怖さもあり、相手のキャリアを「警戒していました」と吐露。試合の1ヶ月ほど前には、肩にケガを抱えて「Tシャツも脱げないくらいの痛みの中で、麻酔を打ちながらトレーニングしていた」と明かし、不安もあっての再戦を終えた未公開カットでは「ホッとした」ような表情になっていると称した。

 同年10月、軽井沢でのトレーニング合宿では当時、バンタム級からスーパーバンタム級への転向も視野に、大橋ジムの先輩であるフィジカルトレーナー・八重樫東の「力を求めていた」と吐露。トレーニング時の未公開カットを前に、体格が大きくなるのが「目に見えて分かるような肉体改造」をされたと振り返った。

 バンタム級での“4団体統一”を果たした2022年12月の世界バンタム級4団体王座統一戦、ポール・バトラーとの対戦では「達成感はなかった」と、本音をつぶやく。

 スーパーバンタム級へ転向しての初戦。2023年7月のWBC・WBO 世界スーパーバンタム級タイトルマッチ、スティーブン・フルトンとの対戦では変化が。バンタム級であった「減量苦で足に力が入らない」などの苦労から解放されて「安定感」が生まれ、「リングマットに吸い付いているような感覚」になったと吐露した。

 そして、史上2人目の“2階級での主要4団体での王座統一”の偉業を達成したスーパーバンタム級世界4団体王座統一戦、2023年12月のマーロン・タパレスとの対戦にも言及。試合前の控え室を写した未公開カットには「リラックスしていますよね」とつぶやき、いずれの試合でも直前で「バンテージ巻く前はリラックスしていますね。スイッチ(が入るの)は、バンテージ巻いてから」と明かした。

 派生して、司会者が試合前について質問すると、定番曲「Departure」での入場時は「どんだけカッコつけて出ようかな」と考えていると笑顔に。入場時、自身の表情は「好きじゃない」とこぼしつつ、対照的に弟・拓真のカッコよさを称えて「ウルッと来ちゃうんですよ」と、絆をにじませた。

闘いを後押しするファンの声援に「自然とエネルギーをもらっている」

井上尚弥さん

 写真集で記録した2018年11月~2023年12月の“5年間”が「一番成長した」と振り返った井上。ファンが寄せた質問に答えるQ&Aコーナーでは、司会者が代読した質問にフランクに受け答えした。

 最初は「スピード、パワー、テクニック。ご自身の中から一つだけ選ぶとしたらどこですか?」の質問。「幅広くないですか。当て感だったり、距離感だったり、含んでいいような気がするので」と微笑みつつも、「テクニックにしましょう」と胸を張って答えた。

 続く「練習のやる気が出ないとき、自分にどう言い聞かせていますか?」という問いには「練習内容を変えちゃいます」と回答。自身が「ハードに追い込む気分ではないとき」には、足で細かくステップを踏み瞬発力などを鍛える「ラダートレーニング」などへ打ち込むと明かした。

 さらに、スパーリングで「調子悪いな」と感じたときは、日頃「4ラウンド、5ラウンドのスパーリングをあえて、8ラウンドやる」とも。「トレーナーとかに伝えてしまえば、やらなきゃいけない環境になる」とストイックさを見せ、派生して、司会者から「仕事のモチベーションが上がらないとき」の秘けつを問われると「誰しもある」として「頑張りましょう。そこは」と一言つぶやき、会場に笑い声が響いた。

 コーナーの最後、試合当日の会場到着からゴングが鳴るまでに「一番気持ちが昂る瞬間はどの瞬間ですか?」と問われると「入場しているときが、昂っているかもしれないです」とコメント。会場では、闘いを後押しするファンから「自然とエネルギーをもらっている感覚」と話し、特に、2019年11月にあったノニト・ドネアとの初戦は「声援の後押しって大事なんだと、改めて、感じられた瞬間でもありました」と回想した。

 そして、来る5月に控えた東京ドームでのルイス・ネリとの対戦にも言及。イベント数日前の発表会見では「どういうモードで来るのかなというのは正直、気にはなっていました」と振り返り、「色々想定はしていたんですけど、(ネリが)『反省モード』で来た」と驚きを示した。

 会見当日の映像を見返すと「自分の方が何かちょっと悪そうな、たちの悪そうな…」と困惑。司会者が相手の作戦かもしれないと促すと「かもしれないですね。きっとあんないいヤツではないと思うので」と笑いを誘った。

 同興行は、同じく大橋ジム所属の武居由樹、弟・拓真、桑原拓もタイトルを懸けた“日本初の4大世界戦”となることも、試合へのモチベーションが「高い理由」と吐露。結果により「ジムの活気も違ってきますし、盛り上がりも違うと思うし。気持ちも変わってくると思うので、みんな全勝で終わらせたいという気持ちがあります」と意気込んだ。

取材・文=カネコシュウヘイ 写真=金澤正平