日本トップレベルの基準でも、海外では違法建築? 「冬は家の中も寒くて当たり前」が世界では当たり前ではなかったことを教えてくれる1冊

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公開日:2024/3/31

「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札
「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』(高橋真樹/集英社)

 ここ数年、SNS上で「日本の家の断熱性能は低すぎる!」という声をよく目にするようになった。

 筆者も昨年まで住んでいた北西向きのマンションも、外に出ると「あれ、家の中より暖かい……?」と思うこともあるほどの寒さだった。見た目はそんなボロいマンションに見えないにもかかわらず、である。

 そんな経験もあって、『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』(高橋真樹/集英社)は非常に気になる1冊だった。

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 著者は、高気密・高断熱の省エネルギーで暮らせる“エコハウス”に住んでいる、日本唯一の「断熱ジャーナリスト」。真夏も真冬も10畳用のエアコン1台で過ごせて、月平均の電気代も5000円程度というから驚きだ。

日本トップレベルの基準が海外では違法建築!!

 実際に読んでみると、本書には衝撃的なデータが数多く載っていた。

 まず驚かされたのは、2022年までの日本の基準でトップレベルの断熱性能(断熱等級4)を誇っていた住宅が、イタリア、韓国、ドイツ、イギリスなどでは断熱性能が低すぎて違法建築になる……という話だ(その後、日本でも断熱等級5~7が新設された)。

 この例だけでも、日本の住宅の断熱性能がいかに低いかが分かるだろう。

 そのほかにも「冬に寒くなる地域なのに、窓から熱を通しやすい樹脂サッシが主流な国は日本だけ」というネットでもよく聞くようになった話のほか、「窓が結露して当たり前と思ってる国は日本だけ」「欧米では家全体を暖房する全館暖房が普通だが、日本では部屋ごとに暖房する間欠暖房が一般的。理由は住宅の断熱性能が著しく低いから」などなど、衝撃的な話が続く。

 日本人の多くの人は「冬は家の中も寒くて当たり前」と思っているだろうが、実はそれは極めて異例な状態である……ということを本書は教えてくれるのだ。

 そして断熱性能が低い家に住んでいると、「夏は暑く、冬は寒くて住み心地が悪い」というだけで話は終わらない。

 冬に寒い家では、「交通事故の6倍」という推計データもあるヒートショック死の可能性も高まるし、アレルギー性鼻炎や喘息などの病気のリスクも高まるという。そのほかケガのリスクが上がる、要介護状態になる年齢が早くなるという研究結果もあるのだそうだ。

 さらに、断熱性が低い家は電気代が高くなることは言うまでもないが、そうした“燃費が悪い家”が多い日本は燃料費で大赤字になるし、温暖化を加速させる温室効果ガスもメチャクチャ排出してしまう。筆者の言葉を借りれば、「輸入したエネルギーを、国レベルで穴の空いたバケツから捨てている」のが今の日本なのだ。

 本書の『「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札』というタイトルを見て、「ちょっと断熱くらいで、大げさに言いすぎなんじゃない?」と感じた人もいるかもしれない。しかし読んでみると、「住宅の断熱にどこまで真剣に取り組むかは、本当に日本の未来を左右しそうだな」と感じる内容になっているのだ。

気になる断熱リフォームの話も(賃貸の対策もあり!)

 そんな形で地球レベルの壮大なスケールの話も出てくる本書だが、その逆に超身近な「じゃあ、断熱性能のいい住宅はどうやって見分けるのか」「リフォームで断熱性能を上げるなら何をしたらいいのか」というトピックにもしっかり触れている。

 ちなみに真っ先にリフォームに挑戦すべき場所として挙げられているのは「窓」で、持ち家の人へのアドバイスはもちろん、賃貸住宅でも1万円程度で導入可能な「内窓キット」の話なども紹介されていた。

 なお筆者は北向きのメチャクチャ寒い家から南東向きの暖かい家(中古マンションを購入)に引っ越して、一部リフォームもしたのだが、内窓のリフォームは手つかずだった。だが、北向きの寝室は冬だと少し寒いことが分かってきたので、本書に背中を押されてリフォームをしようと決断した。

 この本でも詳しく書かれているように、断熱のリフォームには補助金もしっかり出るし、他のリフォームと比べるとかなりお手軽な料金で工事ができる(すでに見積もり済み)。みなさんも本書を読んでぜひ検討してみてほしい。

文=古澤誠一郎