水筒で内臓破裂? 知っていたら回避できる子どもの死。日常に潜む危険に気づける実用系ホラー『わたしの死にかた』〈インタビュー〉

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PR 公開日:2024/3/31

わたしの死にかた
わたしの死にかた』(湖西晶/日本文芸社)

『意味がわかると怖い4コマ』が大ヒットとなった湖西晶先生の新刊『わたしの死にかた』(湖西晶/日本文芸社)が発売された。全5章で60通りにも及ぶ死にかたを、1人の少女を通して追体験していくことができる内容だ。もしもの時に知っていたら危険を避けられるかもしれない内容ばかり。著者の家族が「学校に置いたほうがいいんじゃない?」と感想をもらしたほどに実用的だ。『わたしの死にかた』に関して湖西先生の想いを伺った。

――本の中で1人の少女が何度も色々な死にかたをしています。1人にしていることにはどのような意味があるのですか?

湖西晶さん(以下、湖西):色んなキャラクターに色々な死にかたをさせる、例えばちょっと金髪のヤンキーっぽい女の子が死んだとした時に、読者側が自分とは違うタイプの人がこういう死にかたをしやすいんだなとか思ってしまうと、やっぱ当事者感が出ない。どんな人だってどんな死にかたするかわからないじゃないですか。だからこそ、1人に絞ったほうがいいのかなと。年齢が産まれてから義務教育の15歳までなのは、保護者がしっかりしろよ!という感じで描きました。

――保護者に向けて書かれたのですか?

湖西:念頭にあったのは保護者が気を付けて危険を除去してあげてほしいなという気持ちでした。私自身もそうだったんですけど、子どもって刺激的なものが好きなんですよね。有名な本でいうとエドワード・ゴーリーの絵本とか、私が子どもの頃に『おっとあぶない』という絵本とかがあったんです。その中では、子どもが不注意で色々な死に方をしていくんですよね。そのため、子どもにも読んでほしくて。ホラーだからエンタメという感覚でこういうの危ないんだよ、とわかってくれたら嬉しいなと思います。

――本書では具体的な病名や死因が書かれており怖さがありました。普通の絵本では、こういう死因でしたとは詳しく描かないと思いました。子どもは体験しないとわからないことがありそうですが、どういう風に工夫すればより子どもにも伝えられるか、意識した点はありますか?

湖西:やっぱりリアリティですね。危険なものを口に入れたらお腹を壊すよ!と言っても、変なものかどうか、子どもはわからないと思うんですよ。何が変なものか判断がつかない、はっきりと正確な情報を書かなきゃいけない。そのためペットボトルやリチウムイオン電池など、具体的に書くように意識しました。

わたしの死にかた

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わたしの死にかた

――自分が今までよく生き抜いて来られたなという気持ちになり、沢山の死が身近にあったと痛感させられました。死にかたはどのように見つけたのですか?

湖西:もともと知っていた知識と、新たに調べた情報をもとに作成しました。怖い話などをよく読むのですが、ホラー映画だとキャンプとかで、浮かれている人物から死んでいくじゃないですか…。映画に限らず、実際の痛ましい事故でも誰か止めなかったのかなとか普段から考えていたんです。

 本を読んだり、あとインターネットには学校で起きた事故などを集めたデータベースがあるので、それを調べたりしました。他には、工具の扱い方とかについてプロの方に聞いてみたりしました。普段から、ちょっと気になったことは全部調べるようにはしています。まずはネットで検索してみて、それでわからなかったら本で調べます。同じネタでも何冊か本を読んで検証はしていますね。

バカな死にかたということにはしたくなかった。誰でもあり得るということにしたかった。実用書にしたらいけない実用書

――『意味がわかると怖い4コマ』と『わたしの死にかた』で意識されていることに、執筆される時の違いはあるんですか?

湖西:考えなきゃいけないのが『意味がわかると怖い4コマ』で、何も考えていないとこうなるのが『わたしの死にかた』かなと思います。実用系ホラーというジャンルでしょうか。『意味がわかると怖い4コマ』にも啓蒙要素は入れています。児童書というスタイルになった時に、教育的な要素を入れようと思い、同音異義語とかアクセントが違うと意味が異なる言葉など、学習要素や雑学を入れて作成したのです。

 行間を読むのがもしかしたら苦手かなという懸念を、我が子が幼いころに感じていました。良い訓練になるのではないかと思い、個人的に『意味がわかると怖い4コマ』を描いて子どもに与えていたのがはじまりです。

『意味がわかると怖い4コマ』は、ファンタジーというか創作要素が多いんですけれども、『わたしの死にかた』はどこまでもリアルであるべきかなと思って、実際にありそうなことを重要視しています。

――例えば、作中に水筒がお腹にぶつかるシーンがありました。このシーンも先生が考えていらっしゃるんですか、それとも実際にあったことですか?

湖西:実際にお医者さんからのレポートがあがっていました。転んだ時に水筒が当たって内臓が破裂したという事例があったのです。幸いその事例でお子さんは亡くなってはいないんですけれど、それはたまたまで、亡くなるかたもいらっしゃると思います。症例としてあがっているのが2件くらいなので、増えてきたら死亡例もでてくるかと思うんですよ。

わたしの死にかた

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――第5章の「人間なんてカンタンに死ぬんだよ。子供はとくにね」という死神のセリフがあります。子どもの死を特に取り上げた理由はまさに死が近い、という理由からなのでしょうか?

湖西:そうですね。振りかえってみたら、天然痘とかがあった時代は子どもが大人になる確率がすごく低かったんですよね。それぐらい本来子どもっていうのは、あっという間に死んでしまうもので、ワクチンとか栄養とかの進化で、今は子どもは死なないもんだとみんなは思っているけど、医療が行き届いていない国ではまだまだ亡くなっている現実もあるので、そこをみんな忘れてるんじゃないかな?というのがあって、エピローグ(第5章)に入れました。

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――あとがきに「おばあちゃん子で怖かったものが高齢女性の死でした」とありました。その理由を教えていただけませんか。

湖西:うちは両親が共働きで、おばあちゃんに世話してもらって育ったんです。当時、豊田商事の詐欺というのが流行っていて、うちのおばあちゃんのところにもきたんですよ。撃退したんですけれど、判断力が衰えている高齢者、あと身体も弱っている人たちが抵抗できずにひどい目に遭うニュースを見るとすごくつらかった。

 子どもにしてみれば、おばあちゃんのほうが何も自力でできないように見えるんです。大人から見れば、自力で何もできないのは子どもなんですけどね。実際に目の前で高齢のおばあちゃんが死んでかなしかったというよりは、想像するのがつらかったんですよね。でも、大人になるとどちらかというと子どもの悲惨な事例が目につくようになってきたんです。

――子どもの時の思いが作品につながっているということもあるんですか?

湖西:若干あるかとは思いますね。痛ましいニュースを聞くと我が子に置き換えて想像して落ち込むと、実際に周りを見て不注意ではと心配になることはよくあるので。例えば、キャンプなどでは、人間関係で力を持っている人の発言にみんな流されちゃうんです。いけるいける!とか言われたら、いっちゃえみたいな。そういう時、本で心に留めておいてもらえたら多少は被害が少なくできるのかなと思ったりするし、そういうのをみんなの中で啓蒙できたらなと思います。

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――最後にファンや読者の方へメッセージをお願いいたします。

湖西:いつも読んでくださっている方には『本当にありがとう』とお伝えしたいです。また、今回はじめて手にとってくださる方も気に入っていただけたらいいなと思います。本当に一見くだらない、実際に役に立たずに済めばいい話ばかりですが、もし知っていたらよかったのにということが1つでもあったら嬉しいなと。ぜひ読んでみて役立てていただければ。実用系ホラーという新しいジャンルです。

取材・文=山上乃々