小説家・占い師・PR会社が手を組んで人気漫画が誕生!『占いちゃんは決めきれない!』原作監修・中村航が語る、コンテンツ制作の新しい形

マンガ

PR 更新日:2024/3/28

中村航先生

 仕事や恋愛の悩みを解決へと導く六本木の占い師・占井マコ(通称「占いちゃん」)を主人公に、“自己肯定感”の低さを切り取った漫画『占いちゃんは決めきれない!』が「悩みを持ったすべての人に刺さる」と多くの共感を呼んでいる。

 主婦と生活社が運営する『arweb(アールウェブ)』にて連載中の本作は、誰もが一度は見聞きしたことがあるようなリアリティ溢れる恋愛描写、主人公である占いちゃんのハッとするような名言も印象的だ。そんな本作は、2023年12月に単行本第3巻が発売された。

占いちゃんは決めきれない!
占いちゃんは決めきれない!』3巻(©Project KIMEKIRE’S/ステキブックス)

 注目すべきポイントはほかにもある。それは『100回泣くこと』をはじめとする小説や、『Bang Dream!』のストーリー原案等を手がけ、本作では原作監修を担う中村航先生、スーパーバイザーの相良洋一氏、そして総合PR会社の株式会社オズマピーアールからなる「©Project KIMEKIRE’S」という作り手の存在だ。今回は制作の基盤を担う中村航先生に、本作の魅力や制作の裏話、コンテンツ制作を手がける©Project KIMEKIRE’Sとしての強み、今後の活動を存分に語っていただいた。

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多様な立場・目線から作り込まれた「リアリティ」

――2019年に『占いちゃんは決めきれない!』の連載がスタートして4年以上が経ち、単行本も3巻まで発売されました。ここまでの広がりは想定していたのでしょうか?

中村航(以下、中村):うまくいけばとは思っていましたが、単行本発売に至るには多くの方に見ていただかなければなりません。幸いなことに『arweb』上で人気に火がつき、平均2万PVを達成(※2021年3月時点、転載先PV数含む)するまでになり、無事に単行本を発売。3巻まで漕ぎ着けられたのはありがたいですね。

――キャラクターや恋愛の描写など、リアリティの高さが印象的です。ここまでのストーリー、キャラクター設計ができた理由を教えてください。

中村:色んな人が関わっていることで、あらゆる面でリアリティを追求できているのだと思います。例えば六本木で人気の占い師・マコのようすは、実際に六本木でLUA’s BAR(占いバー)をやっていた、本作で占い監修を務める占術家・LUAさんから着想を得ています。彼女には占いシーンのチェックのほか、作中でタロットカードをハート型に並べる「ハートソナー・スプレッド」という、実際にLUAさんが考案したやり方を反映させてもらうなど、多方面で協力いただいています。

――そんなマコを中心とする都会のど真ん中で、IT系のエリートサラリーマンや映像ディレクター 、あざとかわいい系のライバルなど、多くの人が一度は見聞きしたことがあるようなキャラクターが出てくる。

中村:ここはまさに©Project KIMEKIRE’Sのメンバーであるオズマピーアール(以下、オズマ)の腕の見せどころですよね。PR会社として世の中のトレンドをとらえる視点や、都会で生きる人たちの解像度の高いアウトプットはすごく面白い。

 私はというと、色んな恋愛小説を書き、メディアミックスプロジェクト『BanG Dream!』のストーリー原案や作詞などにも関わってきた経験を活かして、作品の上流を提示する役割を担いました。

――具体的にどういった工程を進められたのですか。

中村:ストーリー、キャラクター設計などです。漫画としてかたちにしていくため、最初に「これはこういう作品です」と決めればチームで動きやすいですよね。その後の肉付けや新たなストーリー展開はオズマピーアールが中心になって考えてくれるので、役割分担しながらクオリティを追求できたと思います。

――コンテンツの立ち上げを多数担ってきた中村先生ならではの立ち回りですね。逆に、制作時に悩むことはありましたか?

中村:。オズマピーアールがストーリーの主軸を担っているのですが、悩んだ時は一緒に話し合っています。僕は、コンテンツ制作って第三者の視点が加わると一気に良くなると思っていて。孤独に悩み続けるのではなく、誰かと話すことで「こうすれば良いんじゃない?」「AとBを入れ替えたら面白いかも」と、どんどんキャラクターやストーリーを展開させていけるんですよね。

中村航先生

――作中では色んなキャラクターが出てきますが、中村先生は誰が好きですか。

中村:初期から出ている、マコの元カレ・河井大河です。無駄に自信があるところがなんだか良いなと。最新の3巻に入ってからはマコと会ってない期間もあるのですが、結局マコは大河に戻るんじゃないか……という雰囲気を感じさせる、独特の魅力がある(笑)。個人的には、今後また登場する展開があったらなと思います。

――マコが連絡を絶ってからも、偶然大河とBarで会ったりと完全には離れていない感じがありますよね。また、キャラクターのファッションや漫画そのものの色味も特徴的です。

中村:正直、ファッション的には日本一おしゃれな漫画な気がします(笑)。ファッションだけではなくて、独特の淡い色味やレトロでかわいい字体を使って80年代っぽくしたいとの話が企画段階からあったと思います。80年代の少女漫画を読んだことのある方なら、当時の雰囲気を感じるのではないでしょうか。

――80年代テイストにする意図は何だったのでしょうか?

中村:連載が始まった2019年当時、イラストのテイストの流行とか、書店もそうですけど、音楽のパッケージの見せ方で、こういった色味、雰囲気のものが目立っていたんです。本作も20代、30代に受け入れてもらえるよう、市場の分析をもとにオズマピーアールの担当者からの提案でした。。それから試行錯誤しながら、“占いちゃんらしさ”みたいなものができていった。この世界観を表現するため、漫画で使う色やストーリーごとのファッション、髪型、小物まで事前に決めているんですけど、作画の太陽シスコさんも、オズマピーアールの担当者も、素晴らしいです。

――たしかにファッションの細部にまで「かわいい」が表現されていますね。現代の要素もところどころ取り入れているような。

中村:この辺は僕があまり介入できないジャンルですが(笑)。オズマピーアールの担当者が「今回はこの服装でいきます」と参考写真を提示し、主婦と生活社の方にも見てもらったりしながら、太陽シス子さんに作画してもらっています。

占いちゃんは決めきれない!
占いちゃんは決めきれない!』1巻(©Project KIMEKIRE’S/ステキブックス)

走り出す前に「決めきる」©Project KIMEKIRE’Sのコンテンツ制作

――本作を手がける、中村先生をはじめとする方々には©Project KIMEKIRE’Sというプロジェクト名がついています。このチームが発足した経緯を教えてください。

中村:『月刊ブシロード』の元編集長で、『BanG Dream!』立ち上げのころからよく仕事をさせてもらっている本作のスーパーバイザーの相良さんから話をいただいたんですよ。とある会社がコンテンツ制作をしようと動き出しているから、話してみないかと。オズマさんに会ってみると、2019年当時、特に注目されていた「自己肯定感の低さ」を切り口に、占いを絡めたコンテンツ発信をしたいとのアイディアが出て。

――イメージはすでにあった上でのご相談だったんですね。

中村:そうですね。「決めきれない占い師」という初期テーマと『占いちゃんは決めきれない!』というタイトルもオズマさんからいただいて、その内容を詰めながら©Project KIMEKIRE’Sとして正式に動き出しました。

――漫画の制作は、漫画家さんと編集者さんのタッグで進行されるイメージですが、©Project KIMEKIRE’Sではどのように制作が進んでいったのでしょうか。

中村:「相談者を導ける占い師も、自分のこととなると決めきれない」というコンセプトは話し合いの中で決まっていったので、その後は私とオズマさんで、ストーリー内容を数行で簡潔にまとめた「ログライン」の作成や、キャラクター設計を進め、3話までの流れを決めました。

――先ほども少し話されていましたが、中村先生はまさに今後の指針を示す土台作りをされたのですね。

中村:プロジェクトの立ち上げはいくつも経験しているので、そこはしっかり携わらせてもらいましたね。合わせて漫画家さんの検討も始め、太陽シス子さんに作画してもらうこととなりました。太陽シス子さんとは、よりよいかたちで連載する方法も話し合っています。

 あとはその頃から掲載媒体も探し、相良さんのおかげで「自分を好きになる」をテーマにする雑誌『ar』のウェブマガジン『arweb』で連載させてもらうこととなりました。

――太陽シス子さんとはどのようなことを話し合ったのでしょうか?

中村:四コマ、ストーリー漫画のどちらにするかという形式の部分と、作画にかける時間も考慮したコマ数などを検討しました。話し合いの結果、当時はまだ新しかった、コマを切らない縦読み漫画で進めることになったんです。

――そこまで入り込んで決めていたとは。

中村:やはり「とりあえずやってみよう」と突っ走って挫折するコンテンツが決して少なくないので、事前に軸は決めつつ、柔軟に変更できるようにしておきたかったんです。

 そして、この形式でもしっかり物語を楽しめる内容を考え「悩んでいるお客さんを導いた占い師のマコが、自分の日常のことは決めきれず、お客さんを導いた時の言葉がブーメランのように返ってくる」というフォーマットが決まりました。そこからキャラクターが増えるたびに展開が豊富になって、色んなことがやれるようになり、さらに面白くなっていますよね。

――本作をはじめとして、コンテンツをチームで作る良さはどのようなところだと思いますか?

中村:先ほど話したような占いの部分やキャラクター、ストーリー設計、ファッションなど、各分野でクオリティを高められる点です。回を重ねるごとにチーム内の理解が進み、全員で作品の未来を考えながら進んでいけるのは心強いですね。

占いちゃんは決めきれない!
占いちゃんは決めきれない!』2巻(©Project KIMEKIRE’S/ステキブックス)

――コンテンツ制作に関わる人が多いと、工数や予算も増えるのではないかと思いますがいかがですか。

中村:実は低予算でできているんですよ。単行本も私が立ち上げた出版社「ステキブックス」で出しているので安くできましたし(笑)。

 さらに今はチャットツールやWeb会議システムを活用すれば、離れていても気軽にコミュニケーションが取れます。チャットも、©Project KIMEKIRE’Sでは答えるべき人が率先して反応してくれるので非常に進めやすい。

 マンガの色の塗り方とか、ストーリーの創り方とかもそうですけど、どうやって予算内でやるのかってのは、いろいろ工夫しながらやってます。

中村航先生

「やりたいことはたくさんある」中村先生の未来

――中村先生は、初期は純文学を、そこから児童文学やゲーム、アニメなども多数手がけてきました。こういったキャリアの広げ方は意図されていたのでしょうか?

中村:いや、未来なんてものは描いていなかったですね。だからといって純文学作家として賞を取ってキャリアを重ねようとも考えていなかった。ただ最初から「面白いものを書きたい」という意志にしたがって、やってきただけです。なので自分の作品が芥川賞の候補になってびっくりしたくらいでした。

 その後もいただいたオファーをありがたく受けさせていただき、自分の思う「面白い」をかたちにしていったところ、名前を知っていただく機会も増えていった。

――先生のキャリアの転換期となった作品はありますか?

中村:『BanG Dream!』に参加したことかもしれないです。オファーをいただいた時、原作・ストーリー原案に含まれる世界観やキャラクター設計のほか、作中楽曲の作詞にまで関わりたいと思って、迷わず飛び込みました。

 そこで初めて、出版社以外の会社とやりとりするようになった。すると、プロジェクトを動かすために柔軟に立ち回らなければいけない場面、作家性や面白さなどの守るものを守りながら色んな兼ね合いをクリアしていかなければならない時もあって……。それを繰り返すことで自分なりの戦い方が見えてきました。それと同時に「こういう仕事は、すべての小説家ができるわけではないんだろうな」とも気づいたんです。

――物語の上流を決め、作家性も守りながら柔軟に立ち回れる方はなかなかいないですよね。ちなみに、これから先生がご自身の作家性を100%出したものを書くとしたら、どんな小説を想定されますか。

中村:どんなアウトプットにも作家性みたいなものは滲んでいると思うのですが、100%ってなると考えちゃいますね。今は2作、いつか書こうっていう小説があるんですけど、そこには100%出したいですね。代表作となるものを書きたい。まだまだ書けると思います。

――すでに代表作はいくつもあると思いますが、さらにこれからも作っていくと。

中村:やっぱり毎回、挑戦ですからね。「書けるのかな?」と疑問に思っていたものもちゃんと書き上げてこれたから、次もできるし、まだまだできるだろう、と。

 たまたま昨日、女子中学生を主人公にした『あのとき始まったことのすべて』(角川文庫)という小説を読んだ方から「中村さんの中には女子中学生がいるんですね」と言われて(笑)。ちょっと今、自信に満ちあふれているんですよ。

――その感想は、まさに女子中学生のリアルが表現されている証ですよね。

中村:僕が女子中学生を書ける理由を考えてみると、結局みんな同じだから。僕は、人間って常に何かを求めている生き物だと思っているんですよ。

 誰かと付き合いたいと思ったり、やりたいことや欲しいものがあったりと、そういう欲求を抱えて生きている。そしてその欲求に近づいたり離れたりした時の感情の揺れ動きって、みんな同じではないかなと。

――女性・男性だから、こういう年代だから……という考えに縛られすぎる必要はないと。

中村:そうですね。人間としての核はあまり変わらないから、年齢や性別などの設定さえ決めれば書けることが分かってきた。それで素直に「なんでもできるな」と思えるんです。

中村航先生

――いつか世に出る新作が楽しみです。©Project KIMEKIRE’Sの中村先生としてチャレンジしたいことはありますか?

中村:本作のドラマ、アニメ化もしたいですし、©Project KIMEKIRE’Sならほかのアプローチもできると考えています。よく、漫画が売れたら実写化させるパターンがありますよね。でも僕たちはキャラクターやコンテンツの力で、例えば占いイベントを開催して、悩みを抱える人と交流する場を作ったり、ほかの作品や商品とコラボして宣伝に貢献できたりもする。

 つまりチームとして、テーマに合ったストーリーを創出する私と、コンテンツをマーケットに当てはめるオズマさん、協力者を見出す相良さん……すべての力を集約して動いていきたいです。僕は女子中学生の気持ちを描けますけど、マーケットを考えて動くのはあまり得意ではないので(笑)。

――中村先生の作家性が凝縮されたアイディアをオズマさんがマーケットに落とし込み、相良さんが整える。すごくバランスが良いチームなんですね。

中村:そうだと思いますし、本作でちょうど、©Project KIMEKIRE’Sとしてのコンテンツ制作を一周できたので知見も溜まってきた。コンテンツ制作がどんどん上手くなっている自信もあります。

 今後は、ここで得たノウハウを活かしながらもっと多くのコンテンツ制作に関わりたい。発信したいことがあるけどノウハウがない、どう動けばいいか分からない方、企業さんとも手を取り合っていければ……ということを、©Project KIMEKIRE’Sのみんなで話しています。

取材・文=ネゴト / 松本紋芽 撮影=金澤正平

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【公式ホームページ】 https://www.uranaichan.net/