梅田修一朗、竹内良太らでアニメ化『青のミブロ』。土方歳三と沖田総司と出会った元孤児が新選組で戦う物語

マンガ

公開日:2024/4/5

青のミブロ
青のミブロ』(安田剛士/講談社)

 正義とは何だろうか。自分を悪だと自覚している人間は稀だ。たいていの場合、人間同士の争いは正義と正義の衝突から生まれる。双方が「正しい」と思っているからこそ、分かり合えることは少ない。

 日本の未来や国のあり方を想う者同士の戦いだった。勝てば官軍負ければ賊軍。錦の御旗の前に散っていった新選組は、長らく“悪”として語られていた。しかし太平洋戦争後に世間でのイメージが一新され、新選組は今や「義に尽くした男たち」としてさまざまな創作で題材となっている。そんな彼らをテーマにした令和の新しい作品が、2021年10月から「週刊少年マガジン」で連載されている『青のミブロ』(安田剛士/講談社)だ。

 舞台は1863(文久3)年の京都。幕末のかの地は、開国後の動乱の中にいた。団子屋で働く元孤児の「にお」は、ある日客としてやってきた土方歳三と沖田総司に出会う。とある事件に遭遇したことがきっかけで、内に秘めていた世の不条理に対する怒りが爆発したにお。不条理な世の中で犠牲になるのは、いつだっていちばん弱い子供だ。「僕だって強くなりたい」「こんな世界変えたい」彼の願いを聞いた土方は、におを“三匹目の狼”として壬生浪士組――のちの新選組に迎え入れる。

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 新選組といえば、近藤勇に土方歳三、沖田総司など、華やかに活躍した名だたる面々を思い浮かべる人が多いだろう。しかし最盛期には約230名もの隊士がいたとされる組織には、当然のように歴史に記録が残らなかった者もいる。「壬生浪(ミブロ)」と呼ばれた集団の中で正義のために生きた、名もなき狼たち。本作の主人公であるにおは、そのひとりとして描かれる。

 現代で生きている私たちは、物事を善か悪かで捉えがちだ。昨今の海外における戦争はもちろん、SNS上の炎上騒動ですら、表面だけを見て「こっちが悪人だ」などと決めつけてしまう。争いの背景にある事情や思想まで考えられる人は、どれだけいるだろうか。ミブロに入隊する前のにおも、京都で起こっているのは“正義と悪の戦い”だと思っていた。しかし隊士として行動するようになり、街に血の雨を降らせているのは“正義と正義の戦い”だと気づく。そして自分自身の正義を見つけようと決心するのだ。

 私たちが忘れつつある大切なことが、この作品にはあちこちにちりばめられている。「そこに無いことを証明できないなら 在ることも否定できない」と語るにお。明るく前向きで、物事の本質をしっかり見据えられる聡さのある彼の言葉には、読んでいてときどきハッとさせられる。

 勇気があり真っ直ぐな心で前に進もうとするにおは、少しずつ周囲に認められていく。ただ彼は純粋だが無垢ではない。血なまぐさく不穏な事態を目の当たりにして、人の悪意を察知する賢さと機転の良さがある。かと思えばいかにも子供な一面もあり、そのアンバランスさが魅力的なキャラクターだ。

 ミブロには、におの他に二人の狼がいる。同じ年代で境遇の違う少年たちと交流や共闘を深めていく様は、少年マンガの醍醐味を味わえる。そして少年たちの活躍を時に厳しく時に温かく見守るのは、土方や近藤に沖田といった大人の隊士たち。京都人から恐れられ、ともすれば嫌われてすらいる彼らだが、それでも「この京の街には俺たちミブロ」がいると治安維持に奔走する。3巻でとある事件の犯人を捕らえ、「これがミブロだ」と一堂に会するシーンには、そのカッコよさに思わずニヤリとしてしまった。

 物語が史実通りに進むのであれば、におと新選組を待っているのは残酷な運命だ。それぞれの志を掲げて変わっていく幕末の世で、におはどう成長していくのか。2024年秋にはTVアニメも放送開始となる本作。今までとは一味違う新選組の物語を、その目にぜひ焼きつけてほしい。

文=倉本菜生