「はなびらはやさしい地雷」ってどういう意味? 「情熱大陸」にも出演した歌人・木下龍也の現代短歌
公開日:2024/4/6
「もう本当に、木っ端みじんに撃ち抜かれてしまいました。何度読んでも、全身に力がみなぎるような、全身の力をすべて抜かれてしまうような気持ちにさせられます」
「情熱大陸」でも取り上げられた歌人・木下龍也さんの歌集『オールアラウンドユー』(木下龍也/ナナロク社)を読んだ友人が、たまらない様子でそう教えてくれた。私は短歌のことがよくわからない。「短歌を味わえる人」と「味わえない人」がいるとしたら、私は後者なのだろうな……と軽いコンプレックスを持っていた。
しかし、友人の言葉を聞いて、「そんなにすごい歌集なら、私の心も震えるのだろうか。彼女のような気持ちにはなれないとしても、何か感じるものがあるかもしれない」と、『オールアラウンドユー』を手に取ってみた。
歌集は、布張りの美しい装丁だった。初版は表紙の布の色みが5種類あるらしい。ページは少し厚めで、真っ白というより生成りに近い紙で、小口側の角が丸くカットされていた。1ページに1首ずつ、全部で123首の短歌が収められている。収録歌より7首引用しよう。
昔より優しくなった死にたさに「どうしたんだ?」と問いかける夜
波ひとつひとつがぼくのつま先ではるかな旅を終えて崩れる
はなびらはやさしい地雷 踏むたびに胸のあたりがわずかに痛い
雪だったころつけられた足跡を忘れられないひとひらの水
目を上下上下上下と動かして百年前の詩をうすくむく
ひっぱってくれるタイプの犬だったときおりぼくにふりむきながら
鈴を手で包んでそっと揺らしたらちいさくにぶいぼくだけの音
中央にたった1行の歌が印刷されているページは一輪挿しのような潔さがあって、圧倒的な余白の存在を感じずにはいられなかった。ここまで削ぎ落せるものなのか、と驚いた。
今日、インターネットには膨大な文章があって、私はまるで言葉の洪水の中にいるような気持ちになるときがある。実用書やビジネス書を読むときは、言葉(情報)をむしゃむしゃと食べている感覚だ。どんどん食べて、消化して、知識という血肉にするために。
しかし、歌集は違う。生成り色のページに1行だけ浮かぶ文字をゆっくりと目で舐めて、指先でインクの上をそっとなぞり、文字の向こう、余白に漂うものを味わう。早くたくさん読む必要はないし、知識を取り入れなくてもいい。
私は木下龍也さんと直接の交流はないが、たった31音から木下さんが見ているであろう情景、感じているであろうさみしさが伝わってきた。静止画のような情景描写なのに、確かにそこに人の営みがあったとわかる。「このさみしさを、私は知っている」と思った。
どれだけ言葉を費やしても伝わらないこともあるのに、なぜ31音でこんなに伝わるのだろう。饒舌な余白、ひりひりとした喪失感。まるでネガとポジが入れ替わるような感覚だ。
言葉の洪水にうんざりしている人、何かに役立てるために本を読むことが多い人にこそ、『オールアラウンドユー』を手に取ってこの感覚を味わってもらいたい。
短歌はずぶの素人だが、最後に私が詠んだ歌をしたためる。
あのひとを木っ端みじんに撃ち抜いたみそひともじを揺られつつ読む
文=ayan