10年にも及ぶ義父からの性的虐待。機能不全家族で育った私が生きる価値を取り戻すまで
公開日:2024/5/5
平和に暮らしているように見える家族であっても、それぞれの心の中を知ることは難しいだろう。いちばん近い関係にある「家族」であるがゆえの傷つきや、寂しさ、悲しさもある。この作品では、親との関係に苦しみながらもがきながら成長し、親になった自分が生きる価値を見出していく心の葛藤が描かれている。
『家族、辞めてもいいですか?』(KADOKAWA)の著者は、ブログ「甘辛めもりぃず」のブログ作者であるイラストレーターの魚田コットンさん。本書はブログで大反響を呼び、書籍化されたコミックエッセイである。
子どもの立場であれば、親は絶対的な存在。特に、母親は特別な存在だ。女の子はさらに、母親を理想としやすい。主人公のコットンも同じ。母親から「わがまま」「泣き虫」「自分勝手」「気が利かない」と言われても、けなげに「愛されたい」「認められたい」気持ちを抱き続ける。「いつかこの気持ちに応えてもらえるはず」と、淡い期待を重ねながら。
小学生の多感な時期に両親の離婚から母子家庭になり、家に帰らない兄、母は家を留守にしがちに。家は荒れ放題で、姉と2人だけの生活。子どもは、寂しい気持ちや甘えたい気持ちが違う形になって表れることがあると学んだことがあるが、主人公も同様だった。不登校になったり、祖父母の家に居候したりして親の注意をひこうとしていた。しかし、母親はなにも変わらない。平気で娘をこき下ろし、娘に対して全く愛情を注がない。「本当にこんなひどい親がいるのか?」と思う人がいるかもしれないが、これはフィクションではなく実際に著者の身に起こったことであり、今もどこかの家庭で起こっていることなのだ。
親から何度も期待を裏切られると心が折れそうになるはずだが、やはり母親は特別なのだろうか。読んでいて胸が痛くなる。私自身、離婚した両親をもつ子どもに接する機会があるが、周りにはつとめて明るくふるまう子どもがとても多い。コットンも本当は辛いのに、悲しいのに、平静を装い、自分の気持ちにフタをする。ある意味大人びた子どもだ。
問題の母親は10歳以上若い男と再婚し、主人公はその男から性的虐待を10年にわたって受けることになる。また、男は酒を飲めば暴れて母に暴力をふるう。コットンはDVを受けている母を可愛そうだと思い、いつか助けてあげたいと思うようになる。もちろん、自分の性的虐待は誰にも相談できないままだ。読者から見れば、義父も母も毒親に違いないが、逃げ出さない母自身も共依存を抱え、すでに泥沼状態にいることがわかる。
少しずつ大きくなると、家から外に出る機会が増える。特に、大学に進学して親元を離れたときに「やっぱりうちは違うんだ」と納得できるのだ。しかし、自分にできることはなにもない。さらに、子ども時代に傷つけられた心のケアをしてくれる人もいない。そんなときに妊娠がわかり慌ただしく結婚した主人公。何度も母に期待を裏切られて育った経験から人間不信のままだった。
正直に自分の気持ちを打ち明けて砕かれる恐怖から、心に保険をかけて生活してきたせいで、夫との夫婦関係にもヒビが入りかける。3人の親になった主人公は、少しずつ少しずつ自分で自分の心のケアができるようになり、夫との関係も修復。子どもとの接し方や自身の家庭の中で自己肯定感を取り戻し、生きる価値を取り戻すことができたのだった。
ブログで発信して自分を見つめ直す時間をもったこと、読者から共感を得たことも大きなきっかけになったはずだ。世の中に機能不全家族で悩んでいる人は少なからずいる。幼少期の心の傷を抱えている人、母親との関係に悩んでいる人には自身の心のケアのきっかけに、ぜひ読んでほしい作品である。