紫式部『源氏物語 七帖 紅葉賀』あらすじ紹介。義理の母との禁断の愛の末に生まれた若宮。その美しさはまるで自分の生き写しのようで…

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/21

 古典の名作として有名な『源氏物語』。平安王朝の雅やかな恋愛模様は国語の教科書にも掲載され、美男美女ばかりの物語と思われがちですが、中にはちょっと意外な人物との恋も。本稿では、第7章「紅葉賀」のあらすじを分かりやすく簡潔にご紹介します。

<第8回に続く>
源氏物語 紅葉賀

『源氏物語 紅葉賀』の作品解説

『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。

「紅葉賀」では源氏と藤壺の子が誕生します。源氏の父であり、藤壺の夫である帝は若宮の誕生を喜び、「源氏によく似ていてとても美しい」と若宮を可愛がりますが、源氏と藤壺は気が気ではありません。禁断の恋の行方にハラハラするのは昔も今も変わりませんね。また、この章で源氏の新たなお相手となるのは、なんと40歳ほども年上の女性。今の時代なら“熟女”かもしれませんが、当時の感覚からするとかなり高齢の恋人です。波乱含みの藤壺との恋愛とは対照的に、滑稽に描かれる新恋人にも注目です。

これまでのあらすじ

 父である帝の妻であり、義理の母である藤壺に思いを寄せる源氏は、藤壺と強引に関係を持つ。その結果、藤壺は源氏の子を妊娠する。源氏の藤壺への思いはますます募っていき、偶然見かけた藤壺によく似た幼女を手元に置いて養育することを決める。

 ある時、高貴な姫のうわさ話を聞き恋人になるが、とても古風で面白味がない。彼女と一夜を共に過ごした翌朝、顔をよく見るととても大きな鼻の女性でその容姿にも落胆する源氏だった。

『源氏物語 紅葉賀』の主な登場人物

光源氏:18~19歳。

頭中将:源氏の親友。芸術の才能もあり、女性を巡っても源氏と競い合うよきライバル。

葵の上:22~23歳。源氏の正妻。

藤壺:23~24歳。源氏の父である帝の妻。源氏にとっては継母。

紫の上:10~11歳。藤壺の姪にあたり、源氏の養育を受けている。大人の女性として扱われるようになり、紫の君から紫の上へと成長。

源典侍(げんのないしのすけ):57~58歳くらいの老女官。

『源氏物語 紅葉賀』のあらすじ​​

 源氏が18歳の秋、宮中は祝宴の準備に忙しくしていた。源氏は、予行演習で頭中将と共に青海波を舞った。源氏の子を身ごもっている藤壺は、その姿を直視できず苦悩する。宴の当日も見事な舞を演じ、源氏は昇進を果たした。

 出産のため里下がりをしている藤壺のもとを訪れる源氏だったが、藤壺に会うことは叶わない。そこで藤壺の兄であり紫の上の父である兵部卿宮と色々な話をするが、紫の上をかくまっていることについては話さなかった。

 源氏が新たな女性をそばに置いているという噂を聞き、正妻である葵の上の実家は快く思わない。相変わらずうまくいかない夫婦関係をよそに、源氏は美しく賢く成長している紫の上を可愛がっていた。源氏に無心で懐いていた紫の上だったが、次第に源氏を夫として意識するようになっていた。恋人のところへ出掛けると寂しがる紫の上のために外出を控えている様子が、帝のもとにも漏れ聞こえ、帝は葵の上やその実家への源氏の不誠実な態度についてたしなめた。

 翌年の2月、藤壺は美しい男の子を出産した。帝の子として生まれた赤ん坊は、実の父である源氏に恐ろしいほどよく似ていた。源氏と藤壺は、その秘密が帝に露呈することに怯えていた。

 そんな折、源典侍という老女官と源氏は関係を持った。品はあるが、57、8歳という年齢でいながら好色な女性に興味を持った頭中将も、面白がって彼女と関係を持つようになった。ある夜、源典侍と源氏との逢瀬の場に踏み込んだ頭中将は、彼女を取り合う振りをしてふざけて源氏と取っ組み合いをする。この出来事は後々まで2人の間で笑い話となった。

 その後、帝は若宮を東宮(皇太子)にするための後ろ盾となるよう、藤壺を中宮(皇后)にした。