第5回「進撃の駅弁」/酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない⑤
公開日:2024/3/22
意味もなくグラスに入った赤ワインを傾け三日月を描く夜。
珍しく一人、家の中でグラスにワインを注ぎ、大好物のブルーチーズを切り分け皿に盛り付ける。
今夜は気合が入っている。
なんてったってずっと楽しみにしていた進撃の巨人のマーレ産赤ワインを飲んでいるのだから。
これは、兵団内の中でも偉い人しか飲めない噂のワイン。
肝臓を捧げよ。
夜が溶けてグラスの中はずっしり重く飲むたびに微熱が喉元に残る。
真っ赤なマフラーが巻かれたように温かく心地いい。
漫画や映画の主人公のように前向きでも天才でも努力家でもないけれど、赤ワインの香りをまとっている時だけ人生の主役になれる。
ワインを仲間達と外で飲むと雰囲気に飲まれ瞬く間に奇行種のごとく暴れ出し、葡萄のようなアザを膝に作っていることしばし。
やはりワインはゆったりとした空間で静かに飲むものだと再実感する。
夜はエモーションを連れてくるので、最終話まで見終えてしまった進撃の巨人の愛おしいシーンが脳内で再生される。
『進撃の巨人』
ここ最近で一番感動した作品「進撃の巨人」。
実は大学生の頃に途中まで漫画で読んでいたけれど、どこまで読んだか忘れてを繰り返し、結局途中で止めてしまった。
アニメが完結され、世間で話題になっていたのでミーハーな自分も履修しておくかと軽い気持ちでアニメを見始めたら最後。
全ての作業は停止し、寝る間も惜しんで一週間ほどで全94話見終えてしまった。
渋っていた父親にも全力で布教。
二週間後、60歳近いにも拘わらず私の推しでもあるリヴァイ兵長というキャラクターと同じ髪型・ツーブロックにしていたことには流石に驚いた。
見終えた後は、しばらく放心状態で何をするにも身が入らない。
時間が経てば経つほど少しずつ元の生活に戻っていくけれど、あの時の熱がもうこれ以上遠くへ行かないでよと悔しさを感じるほどだ。
壁の外がどうなっているのか、是非自分の目で確かめてほしい。
夢中になっている作品の赤ワインをグビグビ飲み饒舌になっていると、外からおっさんの「ウォォォォォーーーーーッッッ」という叫びが聞こえてきて心臓止まるかと思った。
最近、深夜におっさんが酔っ払っているのか毎晩叫んでいるの。
映画の感動シーンで雄叫び聞こえてきた時には、流石に駆逐してやるというどす黒い気持ちが溢れそうになる。
基本引きこもっているので雄叫び以外にヒヤッとする経験は少ないけれど、同じくらいヒヤリと冷や汗をかいた経験があったことを思い出した。
芋女サシャ
進撃の巨人の中でこれまた推しのサシャという女性の兵士がいるのだけど、彼女の食い意地は世界一。
いかなる時でも取り憑かれたように食糧を貪り食う。
鬼のような教官の訓練中でも蒸した芋をむしゃむしゃと食べ、なぜ芋を食べ出したか問われると、頃合いの芋だったからと答えるのだ。
挙げ句の果てには教官も食べたいのかな?と芋を分け出すほどの愛されバカ。
私にもサシャのように食べ盛りの頃があった。
大学時代、まだ進撃の巨人を読んでいないのにも拘わらず大阪のユニバで調査兵団の遠征飯に課金し、結構値が張るのに蒸した芋とパンとスープに一欠片のベーコンしかないって萎えるな…と思っていた頃の出来事だ。
お昼前の2限の授業で事件は起こった。