「あの娘と肩を並べたい」諦めグセがついていた少年のバレーボールと恋にかける青春! スポ根×恋愛ストーリー『小さい僕の春』
公開日:2024/3/22
「高校のバレーボール部男子の平均身長は175cm、俺の身長は155cmである」
高校1年生の鈴木草太(すずきそうた)はバレーボール部員だ。彼は、人生には無理なことはあると知っている。そして、身の丈に合わないものはほしがっても手に入らないから見ないほうがいい、と考えていた。それでも、彼はあるきっかけで前を向くことになる。
本稿で紹介するマンガは『小さい僕の春』(渥美駿/小学館)だ。テーマは、バレーボールと恋である。多くの方が感じたことがあるだろう“青春の格差”を描くストーリー展開で、SNSでは60万いいねを獲得した話題作である。その物語と魅力を紹介していく。
小さい僕が選ぶ大きな恋と成長
鈴木草太は、小さいころからバレーボールが好きだった。ある日本代表選手に憧れて「ああなりたい」と努力はしてきたものの身長は伸びず、憧れのスパイカーではなくリベロになった。今は自分が創部した男子バレー部でプレーを続けている。ただ、そのチーム目標は「健康第一」であった……。
そんな草太は、全国大会常連である女子バレー部の1年生エース・東雲朝日(しののめあさひ)の頼みで、毎夜ふたりきりで練習することになる。朝日は、実力はもちろん、見た目も、182cmの身長も、何もかもが、バレー部員を含む多くの男子にとって憧れの存在であった。草太は彼女が気になりつつも、大きな格差を感じていた。彼は朝日に「なぜ自分と練習したいのか」と尋ねる。
かっこよかったから。
こんな風になれたらなって。
朝日は、男女合同練習で体感した草太の技術の高さ、その努力に感動していたのだ。自身のレベルを上げるために対人練習を頼んできた、という彼女の言葉を聞いても草太は信じられない。彼は自分が憧れた選手のようにはなれずに、何もかもあきらめようとしていたからだ。「一緒に全国大会を目指そう」と言う朝日を、草太は拒絶してしまう。
それからほどなくして、男子バレー部の練習試合が行われた。仲間に「ほどほどに頑張ろう」と声を掛けた草太。ふと、試合を見つめる朝日と目が合う。相手のアタックがブロックをはじきボールが宙に舞った瞬間、彼は走り出していた。届かなそうなのに、追いかけても無駄になりそうなのに。
ボールは体育館の2階へ飛び込み、草太は壁に激突して病院へ。
見舞いに来た朝日は、笑顔で「あのダッシュは無駄ではない」と言う。それを聞いた草太は思わずこう口にする。「また一緒にバレーやろうよ」。彼女はスイッチが入る。「全国大会の研究も一緒にしよう」「いっぱいバレーしよう」と嬉々としてはしゃぐのだった。自分の言動に戸惑う草太。あきらめるのが癖になっていた少年は、そのまま持たざる自分を受け入れるのか。それとも彼女と釣り合うカッコいい男を目指すのか――。
ふたりは互いを刺激し合い、変わっていく
バレーボールを通じて、草太の成長と恋を描いていく本作。これが本筋ではあるが、さらに主人公以外の登場人物たちも掘り下げられ、物語は広がりをみせる。
草太の同級生で朝日の幼馴染、西園寺太陽(さいおんじたいよう)は、父親がバレーの元日本代表選手で、身長190cmと体格的にも恵まれていた。しかし、なぜか草太が立ち上げるまで男子バレー部のなかったこの高校に入学してきた。彼もまた、眩しく輝く朝日のことが気になるようだ。
そして、草太を気に入っている朝日も深掘りされていく。彼女は部活もこなし、帰宅してもトレーニングをし、夜もママさんバレーに参加している。まさに、バレーがすべての少女“だった”のだが……。草太だけではなく誰にでも無自覚に、親しげに絡んでいた彼女。しかし草太と出会ったことでどう変わっていくのか。ていねいに描かれていく朝日の心理と変化は見どころである。
ひとつ言えるのは、目標に向かって必死に頑張る姿は“カッコいい”ということだ。朝日が言ったように。草太が憧れたように。
もし自分が“持たざる側”なのだと自覚したとしても、あきらめる必要はない。「彼女と肩を並べたい」と思うことは、決して分不相応ではないのだ。「勝負は一度きりではない」草太には、ぜひそう言ってあげたくなる。迷いつつも前を向く彼が魅せていく物語を、ぜひ注目してほしいのだ。
文=古林恭