実在する築100年近いレトロな看板建築を巡る物語。相続税や維持費が莫大で、祖父が遺した看板建築が取り壊しの危機に…!
PR 公開日:2024/3/24
「看板建築」というものをご存じでしょうか。
看板建築とは、建物の正面の部分に、銅板やモルタルを貼り付けて装飾した建物のことをいいます。建物がまるで一枚の看板のように見えることから、看板建築と呼ばれるようになりました。
そんな看板建築に魅せられた、2人の青年を描いたのが『看板ボーイズ』(菊地百恵/イマジカインフォス)という作品です。
公務員として真面目に働く誠は、祖父が遺した神保町の古い家に引っ越すことに。そこはかつて「相良珈琲店」として営業していたお店で、昭和時代に建てられた看板建築だった。
子供の頃から憧れていた家に住めるとあって、胸が高鳴る誠だったが、引っ越し当日、予期せぬ訪問客が。やってきたのは、銀髪チャラ男のワタル。「一晩泊めてくれ」と無茶を言うワタルを追い返そうとする誠だったが、なし崩し的に泊めることに。その夜、2人は家の中で誠の父親のスケッチブックを発見。そこには相良珈琲店と同じような、看板建築の絵がいくつも描かれていた。「車で行ってみようぜ」というワタルの誘いに乗り、誠はイラストに描かれた看板建築を探しに行くが……。
黒髪の真面目系メガネ青年と、銀髪チャラ男。見た目も性格も正反対な2人が、スケッチブックに描かれた絵を頼りに、「看板建築」を巡る旅へと繰り出します。
本書には、鎌倉、木更津、秩父など、各地に点在する看板建築が登場しますが、じつはすべて実在する建物。たとえば2人が最初に訪れる鎌倉の「星野写真館」は、創業100年を超える老舗です。画像検索すると、挿絵とまったく同じ建物の写真を見ることができるので、ちょっと感動します。
看板建築がある街の雰囲気も詳細に描かれており、実際に街歩きしているかのような気持ちにさせてくれます。『看板ボーイズ』は、フィクションとノンフィクションが交錯した物語なのです。
決して楽ではない、建物の維持と保存
しかし、2人が巡る看板建築の中には、すでに取り壊されているものもありました。現存する看板建築の多くは、関東大震災後に作られたもの。築100年近いため、その間に多くの看板建築がなくなってしまったのです。かつて看板建築があった場所に立った誠は、今はもうない建物に想いを馳せます。
「なくなると一瞬なんだ」
「どんなに長い時間存在していた建物も、取り壊してしまえば一瞬で、跡形もなくなってしまう」
じつは誠が暮らす相良珈琲店も、維持の難しさから、取り壊しの危機に瀕していました。それはほかの看板建築も同様。
近年、看板建築はその歴史的価値が評価され、保存する動きが活発化しています。しかし現実問題として、維持費や修繕費を捻出することは、簡単ではありません。物語が進むにつれ、古い建物を保存することに対する課題も浮かび上がってきます。
謎のチャラ男、その正体とは?
また、『看板ボーイズ』には、ほんのりミステリー要素も。「金がない」が口癖で、放浪癖のあるワタルですが、相良珈琲店にやってきたのは、どうやら偶然ではない模様。彼の正体とは一体? そしてなぜ誠の父はスケッチブックに看板建築の絵を描いていたのか? 様々な伏線に注目しながら読んでみてください。
旅が終わりを迎えるのと同時に、いよいよ相良珈琲店を手放さなければいけなくなった誠。ところがそんな彼を、予想外の出来事が待ち受けていたのです。
それにしても、かつて喫茶店だった看板建築に一人暮らしできるなんて、誠が羨ましいです。おしゃれシェアハウスへの憧れも募る一冊かもしれません。
文=中村未来