SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第33回「お墓参り」
公開日:2024/3/27
「お墓の場所、間違えました」
は?
玄関に背中を向けてすぐ、私は立ち止まった。言っていることが全然わからなかったからだ。事態を理解しようと必死で頭を回していると、何かを誤魔化すように藤田は「ハハハ」と乾いた笑い声を上げた。声のトーンこそ違えど、ミッキーの笑い方に近かった。
「え?」
「ごめんなさいね、お墓の場所を間違えてしまいました。一個手前の区画だったみたい」
「何言ってんの? え、つまり?」
「つまりあれはね、全然知らない人のお墓だね」
知らない人のお墓。無意識的に私はそう反復していた。自分が何か大きな勘違いをしているといけないので、念のため訊いてみた。
「えエと、一応確認しても良いですか?」
「もちろん」
「墓石には『U家』と確かに書いてあったはずですが」
「ハハハ」
「それすなわち、全く存じ上げない『U家』さんだという認識で間違いないですか」
「おっしゃる通り」
私は黙って電話を切った。言い知れぬ虚無感。なんだ、一体なんだこの気持ちは。程なくしてポケットが短く震えた。
『もう一回行こうぜ、墓参り(^^)』
藤田のメールを黙って閉じる。私はとりあえず駅に向かって歩き出した。
言い知れぬ虚無感は間違いない。一体、何やってんだか。ただ、この一週間で感じた気持ちは、無駄ではないような気がしていた。寂しくなって、悲しくなって。その中でも普通に笑って、しっかり眠くなって、ちゃんとお腹が空いて。誰かが死んでも自分は生きていて、自分が死んでも誰かは生きている。誰かの代わりには絶対なれないから、その人の分までなんて物凄く烏滸がましいから絶対言わないけど、それでもその人を想いながら生きていく意義は、何かしらであるような気がした。
歩きながら私は、頭の中でUを想像していた。すごく遠くの方のお墓の前で「おい、そっちじゃねエよ!」と叫ぶその姿は、如何にもという感じだった。もしかしたら、これはこれで良かったのかもしれない。すごく面白かったこの出来事を、私は絶対に忘れることがないだろうから。
冬の空を横切る鳥が一羽。それをなんとなく目で追って「もう二年か」と小さく呟いた。
あ。
鳥が通り過ぎた冬晴れの空に、いきなり知らない若者二人にお墓をピカピカにされた、まるで面識のない困った顔のUさんが「誰、え、こいつら誰」と狼狽える姿が浮かんだ。失礼しました。
しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催。現在「都会のラクダ TOUR 2024 〜 セイハッ!ツーツーウラウラ 〜」を開催中。
自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中