4月17日は世界血友病デー。「血が止まりにくい病気」血友病と血友病保因者とは?

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PR 公開日:2024/4/11

「血が止まりにくい病気」を聞いたことがあるだろうか。「血友病」と呼ばれるそれは男子出生の約10,000人に1~2人の割合といわれている。血友病では、出血を止めるために必要なたんぱく質の不足により、ケガや打撲などで一度出血すると、止まるまでに時間がかかってしまう。

 そして血友病の“保因者”も、血が固まりにくい体質を抱えている。しかし血友病保因者については、世間の認知だけでなく、当事者においても血友病ほど十分な理解が進んでいない。そんな血友病保因者について、中外製薬ではマンガを通した啓発を行っている。

 血友病とは何か、保因者とは何なのか。中外製薬株式会社スペシャリティマーケティング部で血友病領域を担当する本間さん、伊藤さん、蒔田さんにお話を伺った。

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5,000人に1人の希少疾患「血友病」とは?

 2018年から血友病の治療薬を販売している中外製薬では、「マンガで知る血友病保因者とは」と題したマンガシリーズをHP上で無料公開している。血友病以上に認知が低い血友病保因者について、当事者に向けて正しい知識を届けようという試みだ。

マンガで知る血友病保因者とは

 そもそも、血友病とはどのような病気なのだろうか。

「分かりやすく説明すると、“血が止まりにくくなる病気”です。生まれつき血を止めるための成分が不足していて、日本では『希少疾患』として扱われています。令和5年の報告では日本国内では、約7,000人の血友病の方がいらっしゃいます」

 血の止まりやすさを100%で表したとき、40%を切っていたら血友病と診断される。ただし本間さんによると、「血友病の方の約6割は、1%未満」だとか。

マンガで知る血友病保因者とは

マンガで知る血友病保因者とは

「血友病の方は出血リスクにさらされています。日常生活のレベルで言うと、何かで身体をぶつけると青あざが消えにくい。特に頭をぶつけて頭蓋内出血した場合は命に関わることもあります。そのため、普段から出血しにくくなるよう定期的に注射したり、出血時や交通事故などの手術時には注射をして血を止めるための成分を補います。」

 外傷による出血はもちろん、血友病では関節症のリスクも高い。体重を支える膝や足は特に負荷がかかりやすく、気づかないほどわずかな出血が起きることがあるが通常はすぐ修復されるため支障はない。しかし、血友病の場合、血が止まるのに時間がかかり関節の中に血が溜まってしまう。その結果、若くても繰り返し関節内で出血していると、関節破壊や骨の変形が起こり、強い痛みを伴うことから関節が動かしにくくなってしまうという。

マンガで知る血友病保因者とは

「慢性的な出血と、交通事故などにあったときの出血リスクが、主に当事者が抱えている問題と認識しています」と本間さんは語る。

 治療薬が開発される以前は20歳まで生きられないともいわれていたという。薬ができたあとも体育の授業を休んだり部活ができなかったりと、日常生活の制限があったそうだ。

 しかし今では治療法の進化により、定期的に投薬することで命に関わるようなリスクが減り、頭蓋内出血で亡くなる人も、運動の制限も少なくなってきた。

 血友病当事者の生活が改善された反面、課題となっているのが“保因者”への対応だ。

血友病の保因者とは

「血友病は、X染色体の遺伝子に変異がある場合に発症します。そのため、父親が血友病の場合、息子はY染色体を受け継ぐため血友病にはなりませんが、娘は『血友病の原因となる遺伝子変異』があるX染色体を必ず受け継ぎます。」

マンガで知る血友病保因者とは

 この「血友病の原因となる遺伝子変異」がある女性のことを血友病保因者という。

「保因者の女性は2つあるX染色体のうち1つが変異しているので、通常より血が止まりにくい体質である場合があります。たとえば、生理が重く何日も続いたり、経血が多くて日中も夜用のナプキンでないと間に合わなかったり。あざができやすく、買い物袋を肘にかけただけで内出血する方もいらっしゃいます」

マンガで知る血友病保因者とは

 保因者の女性が背負ういちばんのリスクは、出産だ。自身の出血リスクだけでなく、生まれてくる子供が男児の場合、分娩時に危険が伴う。

「保因者女性から男児が生まれる場合、1/2の確率で血友病です。もし赤ちゃんを吸引分娩すると、頭が引っ張られてしまうので頭蓋内出血の危険があります。子供が血友病かどうかは事前に検査できないので、保因者女性から男子が生まれる場合、血友病の可能性のもとに対処しなければなりません。ところが、自身が保因者だと病院側に伝えない女性もいれば、そもそも保因者だと知らない方もいるんです」

 もし保因者女性が血友病の男児を身ごもり、出産時に吸引分娩などによる頭蓋内出血がおこった場合、対応が遅れると生まれてきた子供が寝たきりになってしまうこともある。実際に、子に障害が残ったあとでじつは母親が保因者だったと判明したケースもあるそうだ。

マンガで知る血友病保因者とは
『いつか大切な誰かと生きていくあなたのための物語~保因者と出産』

 なぜ当事者であるはずの女性が、保因者だと伝えなかったり知らなかったりするのか。

製薬会社が挑む保因者女性への啓発

「血友病保因者は『病気』ではないため、『患者』として血友病の専門医の診察を受ける機会がほとんどありません。そのため、血友病の遺伝の仕方や、どのような症状でどういった治療をするのか、といった本来医師から聞くべき専門的な話も、血友病である父親や兄弟を通してしか情報を得られない方も少なくないようです。自身が保因者だと知らない女性は、生理が重かったりあざができやすかったりしても、それが“普通”だから気付かない。だけど先ほど述べたように、将来的なリスクを背負っています。」

 中外製薬では現在、血友病保因者に向けて3種類のマンガを発行・公開している。そのきっかけとなったのは、専門医たちへのヒアリングだ。

「血友病領域に新規参入するにあたり、医師へ『必要なパンフレットはありますか』と聞くと、『子供の保因者に向けたパンフレットがほしい』と。血友病の方に向けたものなら、幼児向けの絵本や小学生向けのマンガなどが、既に他の製薬会社から出されていました。だけど保因者に関しては、大人の保因者向けのパンフレットしかなく……」

「本当は小学校で生理が始まる前には『あなたは保因者なんだよ』って話をしたいのに、その子たちに向けたパンフレットがない」と悩んでいたという。

「既に国内で血友病の治療薬を扱っている製薬会社が10社近くある中、新入りの我々にできることを考え、『保因者女性のケアをしていきたい』との想いから、保因者啓発に力を入れることになりました」

マンガで知る血友病保因者とは

 新薬の発売とともに初めて発行した『血友病保因者の女の子へ』は、保因者である小学生女児に向けて分かりやすく説明したマンガだ。「マンガじゃないと分かってもらえないかも……」という考えから作成され、病院での配布だけでなくHP上での無料公開も行っている。マンガでの保因者啓発は世界的に見ても画期的だったようで、各国から翻訳版の需要も高いという。

血友病保因者に関する課題

 治療薬の製造・販売を行う立場から、本間さんら中外製薬の血友病領域チームは、保因者啓発に関する課題についてこう語る。

「日本では、妊娠時のスクリーニング(※ふるい分けの検査)で保因者を見つける取り組みがほとんど行われていません。そのことを専門医の方々も問題視しています。また、治療薬の進化により、血友病であってもそうでない人と同じような生活を送れるようになってきています。今後さらに医学が進化し、『1回の治療で済む』といった状況ができたら、当事者自身が血友病であることを忘れてしまうかもしれません」

 もしそうなってしまった場合、「自分の娘ができても保因者だと伝え忘れてしまい、孫が生まれるときに命の危機に陥ってしまう可能性もある」と本間さんは続ける。

「マンガの監修をしてくださった医師も、『このまま医学が進めば、最後に残るのが遺伝なんだよね』と仰っていました。保因者であることを知らずに悲劇が起こる未来が見えるからこそ、保因者に対しての啓発活動は早めに行わなければならないと、我々も力を入れています」

マンガで知る血友病保因者とは

 最後に、製薬会社ならではの悩みと、それを乗り越えてでも成し遂げなければならない使命について教えてくれた。

「希少疾患の薬はどうしても薬価が高くなってしまうので、医療費削減の観点から批判されてしまうこともあります。でもその売上は、次の新薬開発のために使われているんです。患者数が少ない病気なので、赤字になってしまうと薬自体の開発が止まってしまい、結果的に当事者の方が治療を受けられずに困ってしまいます。製薬会社は、ただ薬を届けるだけの存在ではありません。血友病の方が制限されることなく日常生活を送れるよう、薬の力で変えたい。新しい価値を提供したいとの思いから、新薬開発や販売だけでなく、啓発活動にも取り組んでいます。疾患数が少ないからこそ、弊社としては新しい取り組みにチャレンジしていって、少しでも世の中を変えられたらと思っています」

 血友病の3割は遺伝ではなく突然変異によるものといわれている。もし自分の子供が血友病だったら。じつは保因者だったとしたら。大事なパートナーや友人が当事者の可能性だってある。「そんな病気があるんだ、知ってみよう」という気持ちが、自分事にする理解への第一歩だろう。

取材・文=倉本菜生

世界血友病デー(毎年4月17日)
血友病をはじめとする先天性出血性疾患のコミュニティの連帯を促す日で、疾患への理解の向上やより良い治療の実現などを目的としています。
中外製薬では、世界血友病デーの趣旨に賛同し疾患啓発活動を社内外で実施しています。

中外製薬血友病情報サイトSmile-On「マンガで知る血友病保因者とは」

https://smile-on.jp/carrier/02_index.html